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帝国学園入学試験 二

 渓谷へと入るとそこは、先に入った受験者達でごった返していた。

 何故ならわざわざ探さなくても岩陰や木陰から、一メートル程の高さをもった半球形で空色の体をプルプル揺らしながら青妖粘菌(ブルースライム)が次々現れ、受験者達に向かってくるのだ。

 我先にと奇声を上げて斬りかかる者や、近づきすぎたのか青妖粘菌(ブルースライム)に下半身を飲み込まれ試験官に救出される者、初めて見る魔物に恐怖して泣き叫びながら逃げ回る者など峡谷入り口では阿鼻叫喚の様相を(てい)していた。


「酷いねこれは」

「よくもまあ、あのざまで騎士を目指すなどと言えたものだな」

「いやいやいや、わい等も今からあそこに入るんやで? 余裕そやけど、いけるんかい!?」


 その様子を観察して彼等に酷評を贈るカラとレオンにコルンがつっこむ。


「まず、あの乱戦場を突っ切って、もっと開けた場所にいこう。あれだけ人が密集していると返って危ない」

「そうだねぇ、青妖粘菌(ブルースライム)より周りで剣振り回してる人のほうが危ないよ、ほら言ってるそばから」


 そう言ってカラが指差す先には、他の班の者が振り回す剣で二の腕を斬られた少年が悲鳴を上げ泣き叫んでいた。それを見てやっと固まって戦うのが危ないと理解したのか、徐々に班と班が離れていく。


「良い頃合だ。突き抜けるぞ!」


 レオンが走り出すとカラも続き、さらにそれに遅れてコルンも続く。三人は受験生の密集地帯を抜け渓谷の更に奥へと向かう。

 受験生の姿が見えなくなる辺りまで来るとレオンとカラは立ち止まり、そこに息を切らせてコルンが合流した。


「待ってや、ちびっと休ませて」

「私達は良いが、あちらは許してくれないと思うぞ」

「へっ? あっ、ひえぇぇぇぇぇぇぇぇ。う、嘘やろ」


 レオンの言葉を受けてコルンが周囲に目を(くば)ると、岩陰や木陰から青妖粘菌(ブルースライム)が次々と姿を見せ三人を囲んでいく。カラとレオンは出発の時に試験官から渡された、刃の短い鉄剣を抜き放つ、コルンもそれに続くと青妖粘菌(ブルースライム)に向かって構えた。


「んふふふ、魔物か~、見るのも戦うのも初めてだねぇ。どんな戦いを見せてくれるのかな?」

「コルン。とりあえずお前は避けて逃げて捕まらないことだけを考えろ! 戦うのは私達だけで良い」

「へっ? いや、やけどな」


 コルンの返答を待たずにレオンとカラが目の前に来ていた青妖粘菌(ブルースライム)に鉄剣を振り落とし三枚におろす。しかし青妖粘菌(ブルースライム)の体は何事もなかったように引っ付くと、小柄なカラに覆いかぶさろうと動く、カラはそれを察知すると素早く後方に後退して青妖粘菌(ブルースライム)と距離を取った。


「斬ってもあんまり意味なさそうだねぇ」

「みたいだな、さてどうしたものか」


 レオンも同じように後退してカラの横に来ると、前方を埋め尽くすように集まった青妖粘菌(ブルースライム)を見つめる。

 二人の鋭い剣捌きと素早い動きに驚きで呆けていたコルンだったが、二人が決定打を打てないのに気付くと自分が知る青妖粘菌(ブルースライム)の弱点を助言しようと口を開いた。


青妖粘菌(ブルースライム)の弱点は奴等の体の中心にある核や! あの拳大の核を壊すか取ってしまえば倒せるはずや!!」

「なるほど、良い助言だコルン」

「そうと解れば―――― 早いね!!」


 それからは早かった。カラとレオンの二人は核を突いて破壊したり、真っ二つに切り裂いて核を引き千切って青妖粘菌(ブルースライム)を次々と屠っていく。十数体はいた青妖粘菌(ブルースライム)の群れは瞬く間にその数を減らしていく。


「出鱈目や」


 コルンはその光景を信じられない、といった風に唖然として見ていた。青妖粘菌(ブルースライム)達は自分より遥かに強い相手だということが理解出来ないのだろう、逃げることもせずに、二人に襲いかかろうとして逆に核を破壊され、引き剥がされて、空色の動かぬ粘液へと姿を変えていった。


「これで――― 最後!!」


 レオンの上段からの振り下ろしの一撃で最後の青妖粘菌(ブルースライム)の核が破壊される。辺りには空色の粘液の中に青く輝く丸い核を残して動かなくなった青妖粘菌(ブルースライム)達の死体が散乱している。


「ふー、弱点が解ってからは楽だったよ、ありがとうコルン」

「ああ、助かった」

「いや、わい何もしてへんし」

「いやはや、凄いねお前達」


 カラとレオンが鉄剣についた青妖粘菌(ブルースライム)の空色の肉片を落としながらコルンの所まで戻るとコルンの横に胸と腰、手足に部分鎧を着込んだ男性が立っていた。試験官の一人でビーンと名乗っていた男性だ。先程の乱戦を突っ切る時にはぐれたのには気付いていたが青妖粘菌(ブルースライム)との戦闘中に追いついてきていたらしい、そんな彼は感心しながらも不機嫌な顔をして怒っていた。


「腕に自信があるのは解ったけど、俺を撒いて行くのはやめてくれ! お前達に何かあったら俺の責任になるんだよ!!」

「置いていったつもりはないんだが……」

「そうそう、置いてかれたほうが悪いんだよ」

「こっ、この糞餓鬼どもが……」

「ま、まあまあ、何事も起きずに済んだんやしええやん」


 ビーンの叱責にも、どこ吹く風といった風に悪びれないカラとレオン、その間をなんとか取り持とうとするコルンである。


「お前は良い子だなぁコルン、それに引き換えこいつらは……」

「言わせてもらうがな、実技の試験官と言われれば多少の腕があると思うのが普通だろう? それがあの程度で対象を見失う無能だとは――― 悪いのは私か?」

「こ、この、や」

「お、落ち着くんやビーンはん。深呼吸して。レオンはんもあおったらあかん。仲良くいこうや、仲良く」


 コルンの頭を撫でるビーンにレオンの言葉の槍が突き刺さる。顔を茹蛸(ゆでだこ)のように赤くしながらレオンに詰め寄るビーンを止めようとコルンがその腰に掴みかかる。


「すぅ~、はぁ~」

「コルンの言うことも一理あるな、申し訳なかったビーン殿。謝罪を受けてもらいたい」

「ごめんなさいビーンさん」


 ビーンがコルンに言われるままに深呼吸していると、レオンが顎に手を当てて考えると、次に謝罪の言葉を言って頭を下げた。それに続くようにカラも頭を下げて極上の笑顔で謝る。その美少女の笑顔の威力は凄まじく、ビーンに胸を痛めるほどの罪悪感を与えた。横では余波を受けたコルンが見惚れている。


「うぐっ!? あ、ああ、良いって。俺も大人だからな、お互い水に流そうや」

「では今度ははぐれないようにビーン殿、次の青妖粘菌(ブルースライム)を探しにいこう」 


 レオンの言葉を受けて、一行は次の青妖粘菌(ブルースライム)を求めて渓谷の奥へと進んでいった。そこで活躍したのがコルンである。人族より優れた獣人の鼻で青妖粘菌(ブルースライム)の位置を察知すると、一行を先導して青妖粘菌(ブルースライム)のいる場所へと向かいカラとレオンが倒すを繰り返していた。


「コルン。今核は何個くらいになっているんだ?」

「ちょっと待ってな。五の、十の、十五の、二十の、今二十三個やね。いや~、結構アッサリ終わりそうやね。レオンはん達と組めて良かったわ。」

「あんまり油断しちゃ駄目だよコルン。油断は自分の足を簡単に転ばせるからね」

「わかってる。商人の世界では油断したもんから消えてく。人の人生もそれは一緒やてうちの父親も言うてた」

「良いこと言うじゃないかコルンの父上殿も」

「そやろ、わいはいつかその父親を超えるのが夢なんや。帝国学園に行くのもそのためなんよ」

「良いねぇ若いって、俺も昔は…… って、こんな風に思うってことは俺も年取ったってことか? はぁ~やだやだ」


 細い目をキラキラさせて将来の夢を語るコルンを、眩しいものでも見るように目を細めてビーンは見ていた。

 青妖粘菌(ブルースライム)を探して渓谷の源流方面に向かって歩いていると、突然コルンの動きが止まり、次に全身の毛が逆立った。

 それに気付いたレオンがコルンの顔は真っ青になり、歯がカチカチと鳴っている。


「どうかしたのかコルン?」

「あ、あかん。レオンはん、カラはん、ビーンはん。このまま渓谷を戻ろう、この先に行ったらあかん」

「何かあるのかい?」


 コルンは震えながら何度も頷く。


「な、なんやこれ。十や二十じゃきかん、百、いや、もっとや。尋常じゃ無い数の青妖粘菌(ブルースライム)が源流方面におる」


 そのコルンの言葉にビーンの顔に緊張が走る。十や二十なら問題無く倒せるだろう。百だと厳しいが何とかなる。それ以上だとしたら―――― 自分の力では厳しい。一行の中で唯一大人と言えるのは自分だけである。もっと確かな情報が欲しいとコルンの肩を掴んで話しかける。


「兎に角、落ち着いて現状を教えてくれコルン。この先に大量の青妖粘菌(ブルースライム)がいるのは間違い無いんだな?」

「そ、そうや。わいの鼻ではこの先を行った所にギッシリおる」

「わかった、お前達三人は先に戻ってこのことを他の試験官に伝えてくれ、俺は様子を見てから戻る。それじゃ頼んだぞ」


 そう言うとビーンはレオン達三人を置いて源流へと向かう。幸い青妖粘菌(ブルースライム)の大群に出くわす、ということは無く、源流付近まで辿り着くとそれを見つけた。

 土砂崩れでもあったのか、源流付近の窪地には大きな天然のダムが出来上がっており、そのダムの中に青妖粘菌(ブルースライム)がギッシリと詰まって漂っていた。時折ダムの中からあぶれた青妖粘菌(ブルースライム)が下流へと向かって行くのが目に付く、つまりここが青妖粘菌(ブルースライム)の大量発生の原因の場所なのだ。数年に一度起こってたいした被害も出ないため楽観視されていたが、今回のこれは洒落にならない、もし天然のダムが崩壊してこれら全ての青妖粘菌(ブルースライム)が下流に流れ出せば、かってない被害をもたらすだろう。ビーンの頬を冷たい汗が流れた。


「うわっ、何あれ気持ち悪」

「う、うおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「うわぁ、びっくりした!? いきなり大声出さないでよ! びっくりするじゃないか!!」


 突然背後から声をかけられ、ビーンはかってない程の悲鳴を上げた。その悲鳴に銀髪の少年か少女かよくわからない子供が驚いている。クソ!? 可愛いな、将来異性に人気が出ることだろう。

 いや、今はそれどころではなかった。


「なんでお前達がここにいる!?」


 銀髪の子供カラの後ろには、当然のように金髪のレオンと、服の襟をレオンに掴まれて逃げられないようにされている狐耳のコルンがいる。可哀相になるくらいコルンはブルブルと震えていた。


「なんでと言われても、まだ青妖粘菌(ブルースライム)の核が三十そろってないからね」

「ばっ、馬鹿野郎!! 今はそれどころじゃないって解らないのか!?」 

「確かにあの数をこの刃の短い剣で相手するのは骨だな、そこで質問なんだが青妖粘菌(ブルースライム)には精霊魔法はきくのか?」


 レオンの自信ある言葉にビーンはなるほど、と得心して首を振る。おそらくレオンは、その歳からすれば精霊魔術の腕に自信があるのだろう、下級の上位、もしくわ中級のさわりくらいには至っているのかもしれない、しかし―――


青妖粘菌(ブルースライム)一体くらいなら初級の精霊魔術で倒せるが、あれだけの数だと最低でも中級の上位の精霊魔術の使い手じゃないと難しい」

「だそうだカラ」

「了解、んじゃ問題無いね。見た目水っぽいし火が良いかな?」

「そうだな」

「おい!! 危険だ下がれ」


 カラとレオンはビーンの警告を聞かずに、青妖粘菌(ブルースライム)が大量に漂うダムを見下ろす位置に立つ、ビーンが駆け寄ろうとするが―――


「危ないよ?」


 次の瞬間には、カラの周囲に炎の蛇が何十匹もその体をくねらせ、レオンの周りには炎の槍が十数本漂っている。どう見ても初期の精霊魔術ではない、コルンとビーンは目を向いてその光景を凝視する。


「相変わらず無駄に形にこだわるな、いざという時に足をすくわれるぞ」

「レオンは実利過ぎなんだよ、もう少し感性を働かせようよ、せっかく自分の自由に形作れるんだからさ、そのほうが精霊も喜ぶ。レオンのそれヴァイオレット伯母様のにそっくりじゃないか」

「…… これが無駄が無くて一番使いやすいだけだ」

「ふーん、へー、あー、そーですか。別に良いけどね」


 精霊魔術の展開中に雑談する二人を、ビーンはありえないものを見る目で見る。

 精霊魔術は念話によって精霊に呼びかけ力を貸してもらい超常現象を起こす魔術である。

 その使い方のため、術者は術の行使中は精霊と会話し続けているような状態にあり雑談などすることは出来ないはずなのだ。

 しかし、目の前の二人は平然と雑談を続けている。脳を二つ持っているのかと本気で疑うような光景であった。


「私は中心を狙う、お前は周辺から焼いていけ」

「了解」


 雑談も一区切りついたのか、カラとレオンの周囲を飾っていた炎の蛇と槍が放たれる。

 炎の槍がダムの水にぶつかると、一瞬で蒸発し辺りに大量の蒸気を放った。二人はそれすら気にせずにダムから目をそらさない。炎の槍で大幅に数を減らした青妖粘菌(ブルースライム)の群れを囲むように、ダムの端から渦巻きを描いて炎の蛇が動き、その身で、口で、青妖粘菌(ブルースライム)を一瞬で蒸発させながら中心へと向かっていく。

 中心に発生していた蒸気が晴れると、ダムの奥底に他の青妖粘菌(ブルースライム)とは比較にならないほど巨大な青妖粘菌(ブルースライム)が目に付いた。それの体の中心に漂う核の大きさは遠目から見ても人間の赤子ほどはある。


「なんかでっかいのいるね」


 カラの言葉を聞いてビーンが身を乗り出してそれを見ると呟いた。その声は震えている。


青妖粘菌王(キングブルースライム)だ」

「強いのか?」

「冒険者ランクで言えば、(ゴールド)白金(プラチナム)へ任せるくらいの強敵だ!? 逃げるぞ!!」


 ビーンは叫ぶとコルンの手を掴んでダムに背を向ける。その背にカラのキョトンとした声がかけられた。


「えっ? もう呑ませちゃったけど?」


 その言葉に体を百八十度反転させて、ダムの方を恐る恐るビーンとコルンが覗き込む。

 そして見たのは、何十匹もいた炎の蛇が一つにまとまり身の丈二十メートルはある大蛇となって青妖粘菌王(キングブルースライム)を丸呑みにしている姿だった。青妖粘菌王(キングブルースライム)は最初炎の大蛇から逃げようと体を激しく動かしていたが、だんだんその動きは弱っていき、最後には蛇に丸呑みにされた鼠のように徐々に小さくなり消えてしまった。

 それを確認したカラが炎の蛇を霧散させると、そこには赤ん坊大の青妖粘菌王(キングブルースライム)の核だけが残っていた。

 ギギギギと擬音がしそうな動きでビーンとコルンが首をカラに向け、血走った目で見る。

 そんな二人にカラは「てへ」と照れて舌を出すと、軽く自分の頭を小突いた。その姿にビーンは頭を抱える。


「上になんて報告すりゃ良いんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


うん、やっぱり今回で終わりませんでした。

今回で終わるっていわなくて本当に良かった良かった。


そして、そしてお気に入りがとうとう100を超えました。

ありがとうございます、ありがとうございます。

少なくとも百人の方が読んでくれているってことですよね。

そう思うと書き上げなくては!! という気持ちが湧いてきます。

今回も読んでくださり、ありがとうございました。


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