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帝国学園入学試験 一

 試験当日、カラとレオンは中継都市ルベラの町外れに設けられた試験会場に来ていた。

 平らに整地された広場の入り口に受付が置かれ、入学試験を受けに来た若者達が列を作っている。


「それでは頑張ってきてくださいねレオン様、カラ様」

「ああ」

「それじゃ行って来るねメイ」


 見送りに来てくれた侍女(メイド)のメイと別れると、カラとレオンも列へと向かう。すると二人が列に近づくにつれて周囲から視線を感じるようになった。敵意を感じるわけでもないので無視して受付を済ませることにする。

 列が短くなり、受付まで辿りつくと中年の女性が二人を出迎えた。


「ようこそ、帝国学園入学試験へ。こちらではお名前と受験料として金貨三枚をお願いします」


 ここで金貨三枚と言われると、大抵の者は眉をしかめる。何故なら金貨一枚は帝国民の平均月収一ヶ月分に相当し、単純計算で一般家庭の三ヶ月分の収入となるのだ。これは冷やかしや記念受験をふるい落とすためであり、それを事前に知らなかった者達が払えずに泣く泣く家路につくのが他の受付で見て取れる。

 そんな者達を尻目にレオンは女性に従って、あらかじめ用意していた金貨の入った布袋を渡す。女性は袋から金貨を取り出し数を確認すると首を捻った。


「失礼ですが六枚入っています。一人分多いですよ?」

「いや、それで問題ない。ここにいる妹も受験させてもらうからな」

「よろしくたのむね、お姉さん」


 そう言われて女性が声のしたほうに顔を向けると、受付の机から顔だけを出して生首状態になっているカラを見つけた。その可愛らしい顔に一瞬目を奪われ、次にその幼さに難しい顔になると口を開く。


「申し訳ありませんが、入学試験は体力面を計るものもあります、妹さんは大丈夫ですか?」

「問題ない、何かあった場合もこちらで対処する。そちらに迷惑がかかることは無い、それに入学条件は満たしているはずだ」


 レオンが言うように帝国学園の入学条件は、帝国に所属しており、成人以下の少年、少女であること意外は特に無い、種族が人族意外の獣人、耳長族(エルフ)髭小人(ドワーフ)、その他の種族でも問題ないとされている。

 

「わかりました。試験管にも報告だけはしておきます。それでは簡単に試験内容を説明させてもらいます。まず学科試験はあちらにある試験会場内で行ない、実技試験はここから移動した場所で行います、移動はこちらが用意した馬車で行いますのでご心配なく。お昼御飯は用意してきていますか? 無いのでしたら言ってくれればこちらで用意しますので、あちらの用紙に記入してください。では、頑張ってくださいね」

「ありがとう」

「ありがとね、お姉さん」


 礼を言って颯爽と歩いていくレオンと、こちらに手を振りながらその背についていくカラに手を振り返して見送って、女性は次の受験者に向き合うのだった。


 学科試験は読み書きと簡単な計算問題だけで、拍子抜けするほど簡単だった。

 帝国での初等教育は、よほど生活に窮する家でないかぎり、低額で教育が受けられるようになっているためカラとレオン以外の者達にとってもそれほど難しい問題ではなかったはずである。


「ずいぶん簡単だったねぇ、これで半分以上落ちるなんてことはないだろうから実技試験が厳しいのかな」

「だろうな、しかしそうなると試験の内容が気になる。毎年試験内容は変わるという話だが、父上の時は甲冑を着ての走りこみだったらしい」

「うえぇ、僕の今の体でそれは避けたいねぇ」

「違うことを祈るんだな、馬車が来てる」


 広場に何台も横並びに止まる六頭立ての幌馬車の荷台には、両端に座席が取り付けられ、並んで座れるようになっていた。カラとレオンも他の受験者と一緒に乗り込んで座り、しばらくすると出発の声がかけられ馬車が動き始める。

 幌から覗く景色はどんどん街から遠ざかっていき、最後には見えなくなった。


「どこに行くのかな?」

「わからん、流石にここの地理には明るくないんでな」

「多分ルベラの北にあるタイム渓谷やと思うで」


 カラとレオンが目的地について話していると、隣から声がかけられる。

 二人が声のするほうを向くと、狐顔というのか顎は小さい逆三角形で高い鼻、切れ長の目は糸のように細く、目を開けているのに閉じているように見える。そして一番特徴的なのは頭に本物の狐耳がついた少年だった。本来耳がある場所は狐色の髪でかくれてみえなくなっている。

 ピコピコと狐耳を動かすと獣人の少年はニカッと笑った。


「どもお二人さん、二人共別嬪さんやから思わず声かけてしもた。堪忍な。あっ、わいの名前はコルンっていいまんねんわ。よろしゅうお願いしまんね」

「あ、ああ、よろしく。ナニワ訛りか?」

「そうなんや、実家が商売やっていまして、自然とこうなってしもたんや。聞き取りにくかったらごめんな」

「いや、大丈夫だ」


 コルンと名乗った少年の言葉にレオンが押されていると、馬車内が狭いため、レオンの肩に顎を乗せてカラが二人の会話に割り込む。


「ねえ、それよりさ。さっき言ってたタイム渓谷っていう場所に向かってるってのは何か根拠があるのかい?」

「ああ、それはな。タイム渓谷でスライムが大量発生しとるって話なんや。タイム渓谷では数年周期でこういうことがあるらしくて、その年の入学試験はこのスライムの討伐になるみたいなんよ。試験にもなるし、魔物の討伐に使う資金を削減できるというこっちゃ、上手いこと考えるもんやね」

「なるほど、詳しいねぇ」

「商人の息子やからね。情報収集はお手の物や、権力(ちから)無い分こっちで勝負せんと」


 そう言ってコルンは自分の鳶色の頭を指でコンコンっと叩く。それと連動するように狐耳がピコピコ動いていた。カラとレオンの目はその狐耳に自然と引き寄せられる。転生以来初めて目にする獣人族の少年に内心二人は興味心身だった。ホルンは二人の視線に気付いたのか苦笑する。


「なんや。獣人が珍しいんか?」

「いや、懐かしいと思っただけだ。不快にしたなら謝る」

「別にええよ。じろじろ見られるのは慣れてんねん、帝国に獣人は少ないからな」

「確かにそうだな、偏見があるわけではないと思うが」

「単純に獣人が多く住む国が、ミフレ山脈の向こう側に多いからやと思う。わいの父親みたいに、帝国に一山当てるために山越えてくるようなのは少数派なんよ。まあおかげさまで、わいも帝国学園への入学試験なんてものに挑戦させてもらってるんやけど、ありがたやありがたや」


 手を合わせて何かを拝んでいるコルン。多分父親辺りだと思うが。


「騎士になりたいのか?」

「いや勉強したいねん勉強。後は人脈作りやね、あそこはお偉いさん予備軍の巣窟や、人脈広げるのにはうってつけっちゅう訳や」

「なるほど、そういうとらえ方もあるんだねぇ」

「君等は見たところ、失礼やけど没落貴族の兄弟さんかな? お家再興のために騎士を目指すって感じやろ?」

「ふっ」

「ぶふっ、くっ、くくく」


 コルンの的外れな言葉を受けて、レオンは鼻で笑い、カラは噴出した後笑いを噛み殺そうとするが半分ほど失敗している。

 確かにカラとレオンは今だいぶんくたびれた格好をしているからそう見えたのだろう、しかしこれは武術の授業に使っていた物で、試験内容に実技があると解っていたため、どうせ汚れるなら、と着てきたのだ。

 コルンの推測は見た目からすれば間違っていないが、カラとレオンの髪や肌の手入れのされ方に目がいっていれば間違いに気付けただろう、しかしそれを十歳かそこらの少年に求めるのは酷というものである。ちなみにカラの胸は未だ未発達のためと服がゆったりとした物であったため男と勘違いされたらしい。


「そんなところだ」

「そうそう、くくく」

「なんや、引っかかるな。ちゃうんか?」


 二人の反応を頭に疑問符を浮かべながらコルンが首を捻っていると、馬車が止まり体が揺れる。次に御者台から到着の声がかけられた。


「到着だ。馬車から降りて、近くに整列するように」


 長時間馬車に揺られていた面々は待っていましたとばかりに、次々と馬車を降りて体を伸ばしたり、深呼吸したりしている。中には酔ったのか、木陰でえずく声と水が地面を叩く音を響かせているものもいた。

 カラとレオン、あとはコルンも整列する集団の中に入り、横並びになる。全ての受験生が整列したのを確認した試験官達は実技試験の説明を開始する。それはコルンの予想通りだった。


「今期の実技試験は、ここタイム渓谷にて魔物である青妖粘菌(ブルースライム)。これを三人一組で三十体討伐し、その証としてスライムの核となる魔石を三十集めてもらう」


 試験官から告げられた試験内容に、受験生達が騒ぎ始める。当然といえば当然である。十歳以上の者がほとんどとはいえ彼等はまだ子供である。その子供に人を襲うものとされる魔物の討伐をさせるというのだ、不安を口にするなと言うほうが無理な話である。

 受験生達の抗議を予測していたのだろう、試験官の説明は続いていく。


「諸君等の不安も理解できる。しかし安心してほしい、今回の討伐対象である青妖粘菌(ブルースライム)は魔物の中でも最弱であり、君達でも十分討伐が可能だ。それに加え各班には試験官一人が同行し君達が危険と判断した場合救援に入る。そしてもしもの時のために各員に発炎筒を渡しておく、何かあった時はこれを使うように」


 自分達の身の安全は保障するという試験官の言葉に、受験生のざわめきは収まっていき静かになる。しかし、レオンとカラは試験官の説明に感心顔だった。何故かというと――――


「護衛と言ってるが、採点員もかねている訳か」

「ん? どういうことや?」

「簡単だよ、試験官が救援に入った時点でその班は失格になるんだ。それをあえて説明しないところが中々意地悪だねぇ」

「なっ!? ―――― なるほど良く考えれば解ることやが、魔物への恐怖がそれを覆い隠してしまっとるんか」

「良く出来ました。あと付け加えると不正防止もかねてるんだろうね、狡賢(ずるがしこ)い奴は他人が狩った核を脅して横取りするとか平気でするだろうから」

「そ、そこまで考えてあるんか」

「ただねぇ、これって一つ穴があるんだけどレオン気付いてる?」

「まあ、気付いているが、それに関してはどうしようも無いな。自分に降りかかったら対処するくらいに止めておこう」

「な、なんやの? まだなにかあるん?」

「気付いてないなら、それで良い。実際無いほうが良いことだからな」


 コルンが更にカラとレオンに詰め寄ろうとする前に試験官の説明が終了する。


「それでは制限時間は本日の日没前とする。各員、好きな者と班を組み申請を済ませてから討伐に向かうように」


 試験官のその言葉に、体が大きく強そうな者達と組もうと皆が動き出す、それを見て内心焦るコルンだったが何故か目の前の兄妹の前から動けなかった。カラとレオンはまったく慌てる様子も無く周囲の動きを観察している。

 レオンは身長は高いほうだが体の線は細く見え、他の人気がある者と比べると見劣りする。カラのほうは比べる必要も無く背は受験生内で一番低く、服から覗く手は華奢で何故ここにいるのか解らないほどだ。そして二人は今日一日離れることなく並んで移動していたため、周囲の者はレオンを誘えばカラもついてくると思ったのだろう、二人は面白いくらい敬遠されていた。

 しかし、コルンは違った。生来の実利を嗅ぎ分ける嗅覚が二人から離れるなと囁くのだ。そして己の鼻を信じ二人の元へ一歩踏み出す。


「お二人はん、わいと一緒に組みまへんか?」


 コルンの誘いに二人は――――


「良いよ」

「助かる、どうも敬遠されているようでな」


 内心でホッと一息吐くとコルンは会心の笑顔を作ると二人と握手を交わす。


「よし! それじゃあ行きましょ。あ~……」

「レオンハルトだ、レオンと呼んでくれれば良い」

「カラだよ、よろしくねコルン」

「わかりましたレオンはん、カラはん。それじゃあ改めて出発しまひょ」


 そうして渓谷へと三人は向かったのだった。


さて今回のコルン君がしゃべっているのはナニワ訛りであって大阪弁ではありません。(これで多少の間違いは言い訳聞くはず)

次回で少年期終了です。

どの口がほざきましたか、はい私の口です。すいません。

次回で本当に最後と言いたいところですが、もう自分が信じられません。

なので余計な予告は立てないようにしようと思います。


お気に入り登録、評価してくれた方ありがとうございます。

意見、感想ほしいです。こうしたほうが面白いんじゃないか、というのがありましたら送ってください。使うかどうかはわかりませんが一考はさせてもらいます。

それでは、今回も読んでくださりありがとうございました。


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