帝国学園入学試験前日
東部辺境と帝都を結ぶ中継都市ルベラ。その名の通り東辺境と帝都、西辺境領を結ぶ中継地である。
そこでは年に一度行われる行事が執り行われようとしていた。その行事とは―――
帝国学園入学試験
である。
帝都にある騎士への登竜門とされる試験であり、貴族の子息なら一度は受けるものとしてその名を知られている。
これは優秀な者なら年齢を問わず入学を認めるとされており、年齢制限はされていない。
そのため東部辺境領に住む者で騎士を目指すものは平民であれ、冒険者であれ、そして当然貴族であれば誰もが今日この日を目指してこの都市に集まってくるのだ。ちなみにここ以外にも南、西辺境領の中継都市と学園がある帝都の三箇所でも同じように入学試験が行われており、帝国内で計四箇所で開催されている。
そして、それだけ人が集まるということは商人たちにとって稼ぎ時ということであり、街の中は商人達の呼び込みの声と、入学希望者達の熱気であふれていた。それはルベラに続く街道も同じで、ルベラを目指す馬車の群れと、それに商品を売る行商として街道を通る馬車や人に声をかける者でごった返していた。
「は~凄い人だねぇ」
「父上の忠告を聞いて良かった。こんな中馬車で来ては足止めされて、試験に遅れる可能性すらある」
「経験者の言はなによりの教本ってことだねぇ、感謝感謝」
そんなことを馬上で語るのはカラとレオンである。
今日の二人は乗馬するためか、体のラインに合わせたような乗馬服を着ており、小さい騎士様といった風であった。
アークは自分の経験から試験開催日の近日からルベラでは街中が混雑するとカラとレオンに忠告し、二人に少数だけを連れて直接騎馬して向かうようにしたのだ。
アークの予想は当たり、現在二人は車輪を溝にとられた馬車のせいで足止めされた馬車の群れを尻目に街道を進んでいた。辺りには動かない馬車への罵声や、馬車を押す人々の声が響いている。
「やれやれ、あれでは夜までかかりそうだな」
まったく動き出す気配の無い馬車に視線を向けるレオン。馬を止めると土の精霊に念話で働きかける。
「人が良いねぇレオンは」
横では、それを揶揄するようにカラが笑っているが、気にしない。
次の瞬間には、馬車を押していた人々から歓声が上がっていた。車輪がはまっていた溝が盛り上がり平地になったのだ。これ幸いと馬車は動き出し、精霊魔法の恩恵だと気付いた数人が辺りを見渡すが、誰もが首を捻る。目に見えるほどの変化を行えるのは中級精霊術からである、中級を使える術者は高位の冒険者か正騎士くらいにしかいないのだが、周辺にはそれらしい人物がいないのだ。
「名乗り出ないのかい?」
「余計な時間を取られるだけだ、昼までには宿に着いてくつろぎたい」
「同感、この体まだ馬に慣れてないからお尻が痛いんだよ。もっとクッションひけばよかった。お尻の皮剥けてるかも…… あ~嫌だ嫌だ」
「一度は通った道だろうに」
「だからだよ! あんなのは一度でいい」
そんな会話をしながらその場を後にすると、二人は宿への道を急ぐのだった。
あらかじめ宿を予約していたカラとレオン一行は到着と同時に宿に入れたが、街の宿が集まる一角では今日の宿泊先を探す人の波が道を埋め尽くしているのがカラとレオンの部屋から見て取れる。
カラのお尻は幸い大惨事になっておらず(真っ赤になってはいたが)、ホッと息をついていた
カラとレオン一行はカラとレオン用の部屋、使用人用の部屋、二部屋を借りている。これも辺境伯権限でアークが取っていたもので、本来なら一部屋の予約もこの時期は難しいのだ。
アークに感謝しながら旅の疲れを癒していると、部屋の扉が四回ノックされた。
二人は顔を見合すとレオンが扉を開く。
そこに居たのは、小柄ながら身なりの良い格好をした壮年の男性が立っていた。
「御寛ぎのところ申し訳ありません。私当宿屋「一角馬の泉」の店主をしておりますホルスと申します。本日は当宿屋をお使いいただきありがとうございました」
ホルスと名乗った男性はそう言って一礼する。
「それで何か?」
「はい。このたびの宿泊は帝国学園の入学試験のためと聞きまして、毎年そういうお客様には当宿屋からサービスとしまして当日のお弁当を用意させていただいておりまして、お客様の好き嫌いなどありましたら、教えていただけないかと」
「へえ、それは嬉しいねぇ」
「ありがたいが本当に良いのか?」
「はい。当宿屋からの応援の気持ちであります。それにアーク様には何度も御贔屓にさせていただいておりますので」
善人の笑顔を浮かべて言うホルス。なるほどアークの人を見る目は確かなようである。
「ではお願いできるか? 二人共嫌いなものは無い、美味いものだと嬉しいがな」
「それは御任せください、当宿屋は食事が美味いのが自慢で御座います、しかし…… 二つでございますか?」
「ん? ああ、受けるのは私だけではないんだ」
「僕も受けるからね」
ホルスの疑問の声にベッドに座ったままだったカラが不敵に笑う。それに目を細めるとホルスは笑う。
「ほほっ、それは豪気ですな御嬢様。しかし無理をしてはいけませんぞ? 毎年何人もの少年達が試験を受けにきますが、合格するのは半分にも到りません」
「そうなのか? 貴族の子息の間では入れて当たり前と聞くが」
レオンが首を傾げるとホルスは薄く笑うとレオンの疑問に答える。
「お若いレオン様方にはわからないかもしれませんが、世の中にはどこにでも裏道が御座いまして」
それにカラとレオンはなるほど、と頷く。
「なるほど、裏口があるのか」
「だけど天下の帝国学園だよ。そんなので入ったボンクラが通用するのかな?」
「妹君も御理解されましたか、流石アーク様のお子様方で御座いますね。それにはなんとも情けない話ですが、貴族の方達は帝国学園に入学した、という事実があれば良いのですよ。それで面子が保たれますからな」
「そんなのに貴重な入学枠が消費されるのかい!?」
「同感だな、合格に到らなくとも惜しかった者を入学させたほうが余程帝国に有意義だと思うが」
二人の言葉にホルスは困った顔になる。悪いと思っていることを黙認する者にとって、正論程痛い刃は無い。しかも、それを自分の子供より幼い子供に言われるのだ。鋭く肉を抉るような言葉である。
「既に慣習となってしまった者を我等のような、平民にはどうすることも出来ません…… それにアーク様もこのことは知っておられるでしょう。それはつまり、アーク様でも手が出せないほど根が深いということです」
「…… わかった、嫌なことを聞いたなホルス。明日の弁当と今日の晩御飯楽しみにしている。――― 嫌なことを聞いたな」
「いいえレオン様、御気になさらずに。御弁当と晩御飯の件は了解しました。料理人に知らせておきます。それでは失礼致します」
最後に一礼するとホルスは去っていった。それを確認して扉を閉める。
「それで、どうするんだい?」
「どうもしない、今の私達では何もできん。せいぜい自分達はそんなものに世話にならないよう努力するだけだ」
レオンの言葉にカラがむっつりと頬を膨らませる。その姿はエルダ達の教育の甲斐あってか妙に可愛らしい。だからといってどうしようもないことには変わりないのだが。
「まあ、何か思いついたら言う」
「そうこなくちゃ」
二人は悪い笑みを浮かべると、試験の準備を始めた。
「一角馬の泉」の晩御飯は牛肉のステーキだった。脂が綺麗に取り除かれた肉で、よく火の通ったそれには、しっかりと下味がつけられ噛めば噛むほど肉の旨みが口の中に広がった。それを胡麻が混ぜ込まれたパンと一緒に食べる。肉と胡麻の風味が口の中に広がり、自分の頬から笑みがこぼれるのがわかった。一緒に出されたスープは何種類もの野菜を煮込んだもので、薄い塩味が肉料理と良くあった。これなら試験日の弁当も期待できる。
さて次回で少年期終了の予定です。
最近ご都合主義が続いた気がするので、ちょっと次章かその次には二人には手痛い挫折を味わって欲しいところです。
最近更新時間を変更しました。
意味は特にありません。いや本当に制作が追いつかなくなったとかそんなのじゃないんです。
今回も評価、お気に入りありがとう御座います。本当に励みになります。減った時は軽く絶望しますが、真摯に受け取らせていただいております。
意見、感想もお待ちしております。
つたない小説ではありますが、今回も読んでくれてありがとうございました。




