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少年達の晩餐会

 海に面した都市というだけあって、晩餐会に並ぶ料理は海鮮を使ったものが多かった。

 香味野菜と共にマリネされた白身魚やイカ、タコ、貝や甲殻類のトマト煮、様々な種類の魚の焼き物、フライにされた貝に甘酸っぱいタレをかけたものや、姿見のまま煮込まれた巨大魚など、他にも様々な海鮮料理がテーブルの上に並んでいる。肉料理もあったが、やはり目に付くのは海鮮料理が多く、湯気を上げるそれらに参加者達の喉が鳴った。

 二階に設営されたステージでは縦笛、横笛、リュートなどの弦楽器、小太鼓などの打楽器の民族楽器を奏でる楽団が置かれ、大広間内に旋律が流れている。

 楽団がいる対面に設営されたステージでは今日の主催者であるソライトが挨拶と晩餐会の開始を宣言していた。それに合わせて皆が銀杯を掲げ、参加者が喉に酒を流し込む。晩餐会が始まった。

 レオンはアークに挨拶に来る、南辺境領の有力者に紹介され、挨拶を返す、を作業のように何度も繰り返していた。帝国内で十本の指に入る有力者であるアークとの知己を得ようと、貴族や商人が引っ切り無しに挨拶に来るためだ。面倒なことだが、アークとしても南で力のある有力者との良好な関係を築ければ東辺境領の利益になるため無下にすることも出来ないのだ。アークとレオンが開放されたのは宴もたけなわとなった時だった。

 周囲では酒の入った参加者達が盛り上がり、談笑を交わし笑いあっている。そんな光景を見て親子で疲れた笑顔を交わしていると、参加者を掻き分けて白髪の巨躯が近づいてきた。その後ろには黒髪の少年を連れている。


「おう、お前たちも終わったか」


 男臭い笑顔で笑うライアンの顔にも、疲れが見えた。隣のカインと言えばウンザリ顔で不貞腐(ふてくさ)れている。


「お疲れ様でしたライアン様。カインも」

「はっ、本当にな。まったく領主というのは面倒なものじゃ」


 そう言いながらもライアンの顔には、仕方ないことと割り切っているのか苦笑が浮かんでいる。横で不機嫌な顔をしているカインの背中を思い切り叩くと怒鳴りつける。


「ほれ! シャンとせんかカイン。お前より小さいレオンが、文句も言わずにこなせることに、ぐちぐちと文句ばかりたれおって!!」

「うっ、だって爺ちゃ―――!?」

「だってじゃ無いわい!! 馬鹿もん!!!」


 大広間中に響く怒鳴り声と、カインの頭に振り落とされた鉄拳が直撃する音に、参加者の談笑の声も楽器の演奏も止まり、会場は静寂に包まれレオン達四人は注目の的となる。カインは声が出ないほど痛かったのか頭を抱えて床を転げまわっていた。


「なんじゃ見世物ではないぞ!!!」


 ライアンの一括で会場からの視線は散り散りになるが、やはり辺境伯同士が集まっているため気になるらしくチラチラと視線を向ける者が見て取れた。そんなやり取りを見て可笑しく思ったのか、ソライトが笑いを押し殺しながら四人のところにやってきた。後ろには同じように笑いを押し殺したクルスが立っている。ソライトに流石というべきか疲労の色は無かったが、クルスの顔には疲労のためか苦笑が浮かんでいた。


「相変わらずですね御大」

「ふん、うるさいわ狐が」

「褒め言葉と受け取っておきますよ、さて子供達。ご苦労様だったね。今から僕達は大人の話があるから、君達は三人で仲良く遊んでおいで」


 そのソライトの言葉にカインは目に見えて喜び、クルスの顔にも安堵の色が浮かぶ。レオンとしては大人達の会話に多少興味があったが、ソライトがさっさと行けと言うように手をヒラヒラ振っているためカインとクルスと共に外の風に当たろうとテラスへと出る。

 夜の冷たい風が頬に当たり気持ち良く、人込みで熱を持っていた体に心地よかった。


「あ~、やっと開放された。疲れた」


 テラスに設置された手摺りに体を預け、背中を仰け反らせているカインにクルスが苦笑する。だらけきった姿が可笑しかったのだろう。


「はぁ~、確かにカインの言うとおり疲れたね。初めてではないけど、慣れても疲れるものは疲れるし」

「確かにな」


 同意するレオンにクルスが笑いかける。まだ大人の男性の険が現れていない顔は、少女のようだ。


「そういえばクルス。お前歳いくつなんだ?」

「僕かい? 今年十歳になるけど、それがどうかしたのかい?」

「それならこの三人の中では俺が一番年上だな」


 自分が一番年長だとわかって嬉しそうなカインにレオンとクルスは内心で、君が一番精神年齢幼いけどね、と思いながら生暖かい目でカインを見る。


「じゃあお前らも来年から、帝国学園にいくのか?」

「そうだね、僕も来年の入学試験を受けるつもりだよ」


 自分が出そうと思っていた話題を、カインが出してくれたことに内心感謝しているとクルスが先に答える。ここからどう自分の思い通りに事を進めていくか段取りを組み立てていくレオン。


「ああ、妹と一緒に入るつもりだ」

「妹? レオン、君双子なのかい?」


 クルスの疑問にレオンは首を振って答える。それにカインとクルスは疑問顔で首を捻った。そして次のレオンの言葉に驚くことになる。


「いや、妹は六歳だ。入学試験の頃に七歳になる」

「はぁ!?」

「そ、それは無理じゃないかな? 帝国学園の入学試験は七歳のしかも女の子が合格できるほど甘いものではないよ?」


 クルスの忠告にレオンは不敵な笑みを浮かべる。


「私の妹なら問題ない」

「いやレオン、今までの入学者の最年少が八歳でもちろん男の子だ。女の子の入学は少ない上に、体力的に劣るから女の子の最年少は確か…… 十二歳だったはずだ。」


 それはレオンも入手していた情報だったため頷く。問題ないと。自信満々のレオンにカインが興味津々といった様子で詰め寄る。


「へぇ、凄い自信だな。そんなに凄いのかお前の妹って?」

「学問では既に貴族の子息の必要教育は終えている。剣術に関しては私を負かすほどだ。ちなみに私の剣術は白銀(プラチナム)級冒険者となら互角に渡り合える。魔術は精霊魔術を中級まで、最近上級に挑戦中だ」


 すらすらとレオンの口から語られる彼の妹の信じがたい能力の高さに、カインとクルスが唖然とする。


「どんだけだよ!?」

「いやレオン、それ身内の欲目入ってないかい? 正直信じられないんだけど」

「全て事実だが?」

「…… ちなみにレオン、君の魔術の腕は?」

「最近上級を覚えた」


 さらりと言うレオンに、二人は目を剥いて絶句する。上級の精霊魔術師といえばそれだけで、魔術師のいない千人の大隊と同等戦力に数えられる、つまり一騎当千。帝国では宮廷魔術師として仕える数名と帝国の冒険者ギルド所属の冒険者に数えるほどいるだけである。間違っても帝国学園入学前の少年が使えるようなものではない。普通なら初級を習得して中級に挑戦を始めていれば皆から尊敬されるくらいなのだ、ちなみにカインとクルスも尊敬される側である。


「レオン俺達友達だよな!!」

「カイン…… 今それ言うと凄く俗な人間と思われるから止めたほうが良いよ」

「ぐっ!?」

「だけど、仲良くはしたいね。どうかなレオン?」


 クルスに言われてカインが言葉につまる。それに苦笑しながら親しげに微笑むクルスだが、目が笑っていなかった。しかしその提案はこちらとしても願ったりである。今後のためにも腹を割っておいたほうがいいだろうと思い、こちらの目的を口にするレオン。


「私は入学と同時に派閥を作ろうと思っている」

「へぇ」

「ん?」


 クルスは理解したようだが、カインは首を捻っている。


「それに僕達を誘うということかな? その意味わかっているかいレオン?」

「わかっている。そうでなければこんなことは口にしない」

「んん?」


 レオンの返答に微笑むクルス。頭の中では受けた時と、断った時の損得勘定をしているのだろう。カインは未だ何の話をしているのかわかっていないのか首を捻り続けていた。


「レオン質問いいかい?」

「何でも聞いてくれ」

「なんでそんな得にもならないことをするんだい? 確かに派閥を作るのは将来君の力になるだろう。だけどそれは別に自分で派閥を作らなくてもいい、君の能力なら既にある派閥に入ったほうが楽にそれが手に入るはずだ」


 その問いにレオンの顔が曇る。腹を割るとは言っても、正直そこまで話すつもりはなかったのだ。何故なら――――


「――― なるほど、親馬鹿ならぬ兄馬鹿かい」

「……」


 全てを説明し終わり、言われると思っていたことをクルスにズバリ言われてレオンは顔を逸らす、本人からすれば決してそんなつもりはないのだが、他人から見ればどう思われるかと言われれば、クルスの言葉を否定できないのだ。

 

「それで? 何の話なんだ?」


 レオンとクルスの二人は同時にカインに向き直る。そして思う、カインにどう説明しようか? と、仕方なくレオンが口を開こうとするのをクルスが手で制するとクルスが変わりに説明に挑む。


「簡単に説明しようカイン」

「おう」

「まず、カインがどこまで理解しているのか知りたいから質問に答えてくれるかい?」

「おう」

「まず派閥って何か知ってる?」

「知らん!」


 レオンとクルスは頭を押さえる。そこからか、と。


「良いかい、派閥っていうのは貴族社会内において利害で結びついた人々によって形成する集団のことをいうんだ。それの流れを汲んだものが帝国学園にある。言ってしまえば将来の貴族社会での立ち位置が帝国学園で既に決まってしまうんだ」

「ほう~」

「本当にわかってる?」

「おう、任せろ!!」


 若干不安が残る二人だが、説明を続ける。


「そこで新しい派閥を作るっていうのは将来の貴族社会に新しい派閥を作ることと一緒だ。レオンはそれをしようとしているんだよ」

「おお、いいじゃねえか。それに俺等に入れって言うんだろうレオン? つまり俺達の派閥を作ろうってことだ、豪気じゃねえか」

「その通りだけどね。そんなに簡単じゃないんだよ。学園には既に派閥がある。そこに新しい派閥を作ろうと思えば、その元々あった派閥から妨害、簡単にいえば嫌がらせを受けるんだ」

「そんなもん無視するか、蹴散らしちまえば良いじゃないか」


 カインの言葉にクルスが笑う。彼が本質を、理屈ではなく本能で理解していることが可笑しかったのだ。


「その通りだよカイン。新しい派閥を作ろうと思えば、それを全部撥ね付け他の派閥にその存在を認めさせるしかない。だけどそれは途轍(とてつ)もない苦行なんだよ、レオンはそれをしようとしているのさ」

「ああ、そこでレオンの妹が出てくるのか」

「なんだわかってるんじゃないか」


 肩の力を抜いて、テラスにあった椅子に座ったクルスを見て、カインが(ほが)らかに笑う。


「派閥ってのがわかんなかっただけだからな、つまりレオンは妹を守りたいだけなんだろう?」

「そうだ」

「それに俺達の力が必要なんだろう?」

「そうだ」

「俺はレオンの友達だ」

「…… そうだな」

「じゃあ、頼めば良い、助けてくれって、そうすれば助けるのが友達だろう?」

「ぷっ、あっはは、あははははははははははははは。確かに、確かにそうだね。いや~、カインは良いね単純で、それでレオン、言うことはあるかい?」


 確かに、説明しただけで頼むことはしなかった。当たり前のことが出来ていなかった自分を恥じてレオンは改めて二人に頭を下げる。


「頼む、私が作る派閥に入って欲しい。お願いするカイン、クルス」


 それに対して二人は。


「任せろ!」

「父上に一度確認を取っからでいいかな? ああ、だけど安心して良いよ、ちゃんと説得するから。僕もレオンの友達ってことで良いんだろう?」

「もちろんだ」

「よし、誓いの儀だ。宣誓!!」


 そう言ってカインは右手で左胸を叩くと、自分の前に拳を突き出す。

 誓いの儀とは約束を必ず守ると自分と相手に対して誓いを立てる儀式で、互いの拳と拳がぶつかることで誓いの完了となる儀式だ。


「我等ここに誓う」


 カインに続いてクルスが右手で左胸を叩き、カインが突き出す拳に自分の拳を合わせる。


「約束を守り抜くことを己と友に」


 最後にレオンが右手で左胸を叩き、カインとクルスの突き出す拳に自分の拳を合わせた。


「「「誓う」」」


 三人の合唱で誓いの儀が終わる。

 それを空に浮かぶ月だけが見ていた。


これくらいで止めておこうと思います。

なんというか、地味な政略ばかりで盛り場が作れないので、話が面白く出来ない…… でも後々の話に繋げるには必要だと思ったんですよ。

なので辺境会議の内容も入れようかと思いましたがスッパリ切ります。後々の伏線入れたかったんですが情報の羅列だけで面白く出来る自信がない。

次回は帝国学園の入学試験の模様をお贈りしたいと思います。

久しぶりに戦闘かけるかな…


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読んでくださりありがとうございました。


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