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辺境伯の跡継ぎ達

 訂正しよう。迷わされた。

 その理由を説明するには少し時間を遡ることになる。

 あれは、アークと別れ夜の舞踏会の準備も終わり、後の段取りを侍女(メイド)に頼んで、いざという時の脱出路として館の間取りを覚えようと、館内の探索のため扉を出たときだった。(アークは子供が物珍しさに探検しようとするのを大人ぶって探索と言ったと思ったようだが)


「お前だろう? レオンって奴は」


 レオンが声をかけられた方を向くと、そこにはレオンより頭一つ分は高い黒髪を短く刈り込んだ少年が立っていた。その顔には先程あったライアンの面影がある。彫りの深いその顔は将来渋い美丈夫になりそうだ。そう思いながら、彼が今回の目的である少年の一人かとレオンは少年に向き直る。


「君は?」


 そう聞くレオンに少年がいきなり殴りかかってきた。レオンの顔を狙った大振りの一撃を軽く躱すと少年と距離をとる。さすがのレオンも驚いた。


「なにをする!?」

「へえ、爺ちゃんが言ってた通りだ、お前結構やるな!」


 嬉しそうに笑う少年を見てレオンは少年の意図を悟る。つまり今のは少年なりの腕試しなのだ、まともに受けていれば少年の評価は下がっていただろう、危ないところだった。


「俺の名前はカイン、カイン・ノーリス・サイロンだ!」

「私の名前はレオンハルト・アルバ・ミスラ、レオンと呼んでくれれば良いよカイン」

「よしカインお前は素質がありそうだ俺の舎弟にしてやる」


 腕を組んで嬉しそうに宣言するカインにレオンは―――


「嫌だよ」


 当然である。今回の目的は彼ともう一人を自分が作る派閥に招き入れることである。彼の下になるのでは駄目なのだ。レオンが上、もしくは対等でないと意味がない。というか初対面でそんなことを言われれば大抵の人間は断る。

 しかし、それはレオンと一般人の理屈でありカインには通用しなかったようだ。カインはレオンに断られたと理解すると顔を赤くして怒り出した。


「なんでだよ! 俺は辺境伯の孫だから。これは名誉なことなんだぞ!!」

「それなら私も辺境伯の息子だから君とは対等ということになるよ」


 レオンが溜息を吐きながら説明するとカインはキョトンとした顔になってから納得顔になると頷いた。


「確かにそうだな。じゃあ友達にしてやるよ、よろしくなレオン」


 そう言ってカインは手を差し出してくる。レオンはその手を握り返すと二人は握手を交わした。上から目線なのが若干気になるが、それは後々修正していけば良いだろうと判断してこちらも答える。


「よろしくカイン。仲良くしよう」

「おう! それじゃあ早速、ここの探検しようぜ!」

「ああ、私も探索しようと思ってたところだ。一緒に回ろうか」


 レオンとしても目的は一緒だし断る理由が無い、それにカインともう少し親交を深めるのも良いだろうと頷く。


「よし! それじゃ行くぞレオン!」


 言うが早いかカインはレオンの手を掴むと館の廊下を走り始めた。レオンより大きな体の膂力は凄まじく、手を摑まれているため、引きずられるようにカインの後ろをついていくことしかできない。

 視界に映る景色は目まぐるしく変わっていき、気付いたときには自分が何処にいるかサッパリわからない状況になっており、冒頭の状況へと至るのだ。


 そして現状はまったく変わらず、歩けど歩けど目的のものが見つからない。


「部屋が見つからない……」

「なに難しい顔してるんだよレオン?」


 横から現状を理解していないカインが不思議そうな顔で訪ねてくる。迎賓館の廊下はどれも似たような造りになっており、自分の部屋がどこかわからないのだ。扉を一つ一つ開けて回るわけにもいかず、使用人に聞こうにも、自分達は随分奥まで来てしまったようで彼等の姿はなかった。

 窓から外を見ると、太陽が今日の役目を終えて沈みはじめていた。


「カインも今日の晩餐会に出席するんだろう? 早く部屋に戻って準備しないと間に合わない」

「げっ!? そうだった。爺ちゃんに怒られる!!」


 レオンの言葉に現状を理解したカインが目に見えて慌て始めるが、何の解決にもならない。

 今日何度目になるかわからない溜息をついていると、近くの部屋から物が崩れるドドドドという音が辺りに響いた。


「な、なんだ!?」

「あの部屋から聞こえたね」


 レオンが指さす部屋は他の部屋が1枚扉なのに対し、そこは両開きの大きな造りになっており、他の部屋とは趣向が違った。


「行ってみようぜ」


 そう言うやカインは両開きの扉を開け放ち中に入っていく。まったく躊躇というものが無い。


「やれやれ」


 今後カインの行動に振り回されることが多くあるかもしれないと諦めの溜息をつき、レオンもカインの後に続く。

 そこで見たのは(うずたか)く詰み上がった本の山だった。その山の麓から人間の足が生えておりピクピクと痙攣している。その光景にカインとレオンはあまりの惨状に動きが止まった。

 そして同時に思い至る。あれ助けなくていいのか? と、余程特殊な趣味の人間でなければ、あの状況は苦しいはずである。


「引っ張り出すぞレオン!」

「わかってる!」


 二人は本の山からかろうじ出ている人間の足を掴むと、力一杯引っ張る。幸い埋もれている人間は小柄だったため、子供二人でも引っ張り出すことが出来た。

 引っ張り出して気づいたのは、それがレオンやカインと同年代の少年だったことだ。目は気絶しているため何色かわからなかったが、肩口で切られた翡翠色の髪は見覚えがあった。


「おーい、起きろ」


 レオンが自分の考えに没頭している隙に、カインが少年の頬に往復ビンタをかましていた。本当に躊躇が無い、考えるより先に体が動く人間なのだろう。みるみる内に少年の頬は赤く染まっていき、痛みのためか目が少しずつ開いていく。


「おっ気付いたか?」


 そう言いながら、最後だとばかりに大きく振りかぶったカインの手が少年の頬を打ち抜き、今までで一番大きなパチーンという音が辺りに響いた。その衝撃に耐えられなかったのか少年の首が仰け反る。

 その光景にレオンは少年に同情すると、カインの肩に手を置いた。


「もう十分だカイン」

「ん、そうか? まだ痙攣してるぞ、こいつ」


 それは君のせいだと出掛かった言葉を喉下で止め、痙攣し続ける少年の介抱を始める。外傷は特に無く、気絶していただけなのだろう。後から加えられたカインからの往復ビンタによる頬の腫れのほうが痛々しい。暫く様子を見ていると少年の目が開く。


「うっ、いたたた」

「おっ、気がついたな」

「大丈夫か? 痛むところは?」


 少年は座ったまま上半身を起こすと、レオンとカインを見、振り返って本の山を見て納得したらしく、レオン達に頭を下げた。


「助けてもらったみたいだね、ありがとう。痛いといえば…… 何故か頬がヒリヒリするんだけど」

「ああ、それは俺が―――」

「そうか、それで何があったんだ?」


 カインの言葉に被せるようにレオンが聞くと少年は何があったかを話し始めた。なんのことはない、本棚の上の方にあった本を取ろうとしたら、乗っていた梯子が傾き本棚に激突。そのまま梯子は倒れ、床に放り出されると、梯子が当たった衝撃で本棚から本が落ちてきて生き埋めになったらしい。

 丁度レオン達が通りかかったから良かったものの、下手をしたらそのまま誰にも見つからず何日も放置されていたかもしれなかったのだ。


「改めて礼を言うよ、ありがとう。そうだ、まだ名乗ってなかったね。僕はクルス。クルス・ライアス・イダだ」

「俺はカイン。カイン・ノーリス・サイロンだ!!」

「私はレオン。レオンハルト・アルバ・ミスラ」

「ああ、やっぱり。僕以外の子供はいないはずだから、そうじゃないかと思ったんだ」


 納得したように頷くクルスの手を立たせる。背はレオンと同じくらいで翡翠色の髪と眼。整った顔は優しげな微笑を浮かべている。レオンやカインとはまた違った美少年である。


「そう言えば、夜に晩餐会があるはずだけど、用意とか大丈夫なのかい?」


 その言葉にレオンとカインの二人は自分達の現状を思い出した。


「すまないクルス! 道案内を頼めるか!?」

「えっ? あ、ああ、わかった」

「よし、それじゃ走るぞ!! レオン! クルス!」


 言うが早いかカインは走り出す――― レオンとクルスを置いて。既に見えなくなったカインを見送ってレオンはクルスの肩を叩く。


「それじゃあ案内を頼めるかな?」

「彼は良いのかい?」


 クルスの困惑気味の顔に対して、レオンは此処では無いどこか遠くを見つめる目をすると呟く。


「―――― 良いんだ」


後二話くらいで新章入れると思います。

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