帝国学園入学試験 四
今回ちょっと残酷描写があります
コルンの悲鳴を聞いて一番に駆けつけたのはビーンだった。彼もコルンと同じ理由で林に向かっていたためカラやレオンより先に着けたのだ。しかし、それが裏目に出た。林に踏み入った途端首筋を何か鈍器のような物で叩かれ、ビーンの意識はそこで切れる。
ビーンが倒れたのに気付いたカラとレオンは立ち止まり、ビーンを殴打した人物を見る。
それは見たことのある男性だった。何故ならその人物は軽鎧を着込んだ、ビーンと同じ試験官の一人だったからだ。
「おっと動くなよ、お前達。さもないとこのお嬢ちゃんが怪我するぜ?」
「むー、うむーむー!?」
そう言って男は抱きかかえているコルンを目線で示した。コルンは口に詰め物をされ、逃げようと暴れている。カラとレオンは特に慌てる様子もなく、ただただ男の言っていた言葉に首を傾げていた。
「「お嬢ちゃん?」」
二人が声を揃えて言うと、コルンの顔が湯気でも出すのではないかというほど早く赤くなる。どうやら男の言うことは事実らしい、しかし自分達がわからなかったのに何故男にはわかったのか? それは次の男の言葉で明らかになる。
「なんだ知らなかったのか? まぁ確かに俺も直接見なかったらわからなかったがな」
その言葉にコルンの体がビクリと震えて、嗚咽を漏らし始めた。カラとレオンは何故コルンが林に入ったのかに思い当たって、次に侮蔑と怒りを籠めた目で男を見る。よく見ればコルンはズボンを履ききれておらず狐色のフカフカした尻尾が尾骶骨辺りから生えているのが見えていた。
「それで変態が私達になんのようだ?」
「なんのようですか~? 変態さん」
二人は塵を見る目で男を見ながら侮蔑の言葉を吐く。それに男は額に青筋を立てるがなんとか思いとどまって話を続ける。
「お前等に用があるのは俺じゃねえよ、坊ちゃん方用意できましたぜ!!」
男が林に向かって呼びかける。呼びかけに応えて林の奥から出てきたのは、レオン達と同じ年頃の少年の三人組だった。間違いなくレオン達と同じ受験生だろう。
その中のリーダー格らしい金髪の少年が、カラとレオンに向かって微笑む、それは自分が優位だと思っている者が浮かべる優越感を隠しもしない嫌な笑い方だった。
そこでカラとレオンは自分達がどういう状況に陥っているかを確信する。
実技試験開始時に予測していたことだったが、実際目の辺りにすると溜息を吐きたくなる。おそらくだが、彼等は試験官を金で買収したのだろう。これが二人が言っていた試験の穴である。
不正を見逃させ、戦闘の援助も受けているのかもしれない、自分達より前に他の受験生を襲っている可能性もある。
その予測だけでも、カラとレオンが目の前の一行に対する評価を地に落とすのには十分だった。
「やあ、こんにちは僕はドクトル伯爵の嫡男ジライト。まずこんな手法を取ってしまったことを詫びるよ、本当はもっと穏便にことを進めたかったんだけど、そうも言ってられなくてね」
「前置きはいい、要件だけ言え」
自分の言葉をレオンに遮られたジライトと名乗った少年は、あからさまに顔を不快げに崩しながら話を続ける。
「実は僕達は後五個で青妖粘菌の核が三十個になるんだ。君達もっていないかな?」
「つまり私達が持っている物を渡せと?」
「嫌だなぁ、それじゃあ僕が君達を脅しているみたいじゃないか、君達が僕達にくれるというなら受け取ろうというだけさ」
「わからんな? 後五個なら普通に狩っても十分制限時間の日没前には集まるだろうに、それにこんなことをして私達が他の試験官に報告しないとでも?」
レオンの疑問にジライトと取り巻きの少年達は笑う。
「わかってないなぁ。入学試験で一番の成績で入学するのと、それ以下の順位では学園の評価が違うんだよ。それに、馬車の中で聞いてたよ、君達は没落貴族の兄弟と商人の娘だろう? そんな下位の身分の者が伯爵位の父を持つ僕に楯突いて無事ですむと思ってるのかい?」
「よくわかった」
没落貴族のくだりはコルンの予測で事実ではないのだが、あえて否定はしない。面倒くさいから。
レオンの意図を汲んだカラが青妖粘菌の核が入っている袋から一つ取り出す、それを渡すためだと思ったジライト達が前に出る。
「話す価値も無いと言うことがな」
レオンの言葉を引き金として、カラの手から青妖粘菌の核が放たれた。それは試験官の男の顔に直撃し男を仰け反らせる。男の顔は白目をむいて気絶している。男に抱え上げられていたコルンは解放されると同時に地面に向かって落下するが、素早く移動したレオンに抱き留められる。お姫様抱っこで。
「大丈夫か?」
安否を尋ねるレオンにコルンは口に詰め物をされているのでコクコクと頷くと、地面に下ろされる。
その光景を見てジライトが顔を真っ赤にしてレオンに向かって叫んだ。
「こんなことして無事ですむと思ってるのか!?」
レオンはそれに疲れた顔で溜息を吐くと、呟く。
「はあ、馬鹿の相手は疲れる。逆に聞こう、こんなことをして報復されないと本気で思っていたのか?」
次の瞬間にはレオンの拳がジライトの頬を貫く勢いで殴打していた。殴打の衝撃で渓谷の岩だらけの地面に頭から突っ込むジライト、しばらくそのまま滑っていって止まる。
「あ、あが、あああああああああああああ、あ、あ、あ、おばえ、ごんなごどして、だだですむと」
「思ってる」
レオンの言葉が終わると同時に、地面から泥が蛇のようにジライトの体を這い地面に固定する。
「ヒイッ!?」
「ち、中級精霊魔術!?」
その光景を見てジライトの取り巻き達が、やっとレオンが自分達では手に負えない相手だと理解してジライトを置いて逃げようと駆け出すが―――
「逃がさんよ」
レオンが起こした風の障壁の直撃を受けて、ジライトの所まで吹き飛ばされる。
「ぎゃあ!?」
「ぐぎっ!?」
一人は頭を抱えて転がり回り、もう一人は打ち所が悪かったのかグッタリと気絶していた。レオンは取り巻きの二人もジライトと同じように拘束し、白目を向いて伸びている試験官の男も拘束する。
ジライトはなんとか拘束から逃れようとするが、精霊魔法で作られた拘束帯はビクともしない。そんなジライトの眼前にレオンが立つ、その目は完全にジライトを見下していた。
生まれてから一度もそんな目で見られたことがなかったジライトは、怒りで目の前が真っ赤になる。
「ぎ、ぎざまぁああああああああ、覚えていろ。絶対に後悔させてやる!!」
「まだ現状が理解できんか? まあ良い、それに付き合う義理もないしな。カラ、お前はコルンと一緒に先に峡谷を下りてくれ、私はビーンを連れて行く」
「わかった、行こうかコルン」
「あ、いや、だけどな…… わかった、気をつけてなレオンはん」
カラとコルンの二人が見えなくなると、レオンは林へ向かい土の精霊魔法で人型の土人形を作るとビーンを肩に担がせる。この土人形は傀儡とは違い自立行動がとれないため、レオンが直接操らないと動かない、その為レオンもビーンとは反対の肩に乗ると林を出た。
林を出ると、いまだに身動きの取れないジライトがレオンを見上げて怒鳴り散らしているが気にせずに別れの言葉を送る。おそらく今生の別れとなるだろうから。
「さよならだ、ジライトとその他三名。その拘束は同じ中級精霊魔術の使い手でないと破れない、私が関与するのはここまでだ。もうお前達には私は何もしない。精々救助が間に合うのを天に祈るか、自分がやった愚かな行為を嘆け」
レオンの言葉に、ジライトと意識のあった取り巻きの一人がポカンとした顔になる。何を言ってるんだ? と言った目で見上げてくる二人に、もう興味が失せたといった風にレオンは背を向ける。
それを待っていたように岩陰や林の中から青妖粘菌が出てくる。それを見て二人はレオンが言った意味を理解する。自分は何もしない、しかし他の者がなにかするのを止めもしない。つまり見捨てるということだ。
「待て!! いや待ってください!!」
「本当はこんなことしたくなかったんだ!! ジライトに言われて仕方なく!!」
「なっ貴様ぁあああああああああ、お前だって乗り気だったろうがぁあ」
「違う!! 本当にやりたくなかった!! だから! だから助けてくれよぉおおおおおおおおおおおおおおおお」
「頼む!! 助けてくれ!! そうだ! お前の家の再興に手を貸そうじゃないか!! どうだ良い話だろう!?」
「お願いしますお願いしますお願いします」
それを理解した二人は叫ぶ、助けてほしいと、救ってほしいと、顔を涙や鼻水、涎で汚れるのも気にせずに、レオンの背中が見えなくなるまで叫び続ける。
しかしレオンは振り向きもせず、とうとうその姿は見えなくなった。そして変わりに見えたのは、青妖粘菌の空色の体。それがどんどん自分に近づいてくる。
「ヒイッ!? やめろ!? 来るな!! くる、なばぁご!?」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁあああああああああああああああああ、あごぼぉ」
拘束された四人の体が青妖粘菌に包まれる。意識を失っていた二人はまだ幸福だったろう。ジライト達が味わった苦痛を感じなかったのだから。
意識を残していた二人は、青妖粘菌に飲み込まれると同時に肌が序所に焼かれるような痛みに襲われた。半狂乱で暴れようとするが拘束はビクともしない、そうこうしている間に目、口、鼻、耳から青妖粘菌の体が進入してくる。それは食道を下りて胃へ、さらに進んで腸を蹂躙していく。体の内と外から焼かれる痛みに意識が何度も飛びそうになる。視界は赤にそまり、喉は絶叫しようにも青妖粘菌の体がギッシリつまり息も出来ない、身体が痙攣を続けているなか等々胃が破れて青妖粘菌の体が他の臓器に襲い掛かる。一際強い痛みが胸を襲い、ジライトの意識と命はそこで途絶えた。
その後日没を過ぎても帰ってこない班があるとして捜索隊が組織され捜索が始まった。
しかし捜索はすぐに終了することになる。
何故なら峡谷の中腹にて、受験生と試験官のものと思われる鉄剣や衣服の切れ端、骨の欠片が見つかったためである。
数十年ぶりに入学試験中の死者が出たとして、試験内容や対策に不備が無かったのか帝都から調査団が派遣されたが、多少の改善点はあったものの本筋では不備が無かったとして、この件は不問とされた。死者の親族からは反発を受けたが、帝国学園が莫大な慰謝料を支払うということで一応の決着となったのである。
「容赦無いねレオンは」
「生かしておいて裏口で入学されては、後々面倒だ。禍根は切れるなら切れるところで切ってしまうのが最善、後々残しておいても災難しか実らん」
「それはそうだけどさ。運が無かったねぇ彼等も、僕等を狙わなければ長生き出来たかもしれないのに」
そんな会話を、カラ、レオン、コルン、ミスラ家の使用人達で合格祝いとしてビーンの奥さんの食堂を貸し切り祝宴を開いている席で交わしていた。コルンなどはカラとレオンが辺境伯の子息と子女と言うことを聞き萎縮してしまっていた。
ちなみに三人の班は首位合格となり、帝国学園の入学は確定している。
弁当では持たせられなかったという猪の薄切り肉を使った鍋に舌鼓をうつ、他にも鮎の塩焼きや、小魚の揚げ物、小麦粉を使った麺料理、肉を焼いただけの単純なものもあったが、味付けが美味しく皿は次々空になっていく。
「飲んでますか~、レオン様~、カラ様~」
「…… 飲みすぎだメイ」
「こんなメイ初めて見たね」
「んにゅふふふふふふ、良いじゃないですか~、今日は御目出度い日なんですから~」
二人が座っている長椅子に侍女のメイが麦酒の入った木杯を片手にドカッと座る。その顔は酒で赤くなっており、顔は幸せそうに笑っている。
お祝いということもあり、無礼講にしたのが不味かったのか、他の使用人達も出来上がってしまっていた。
「皆注目~」
メイの呼びかけに全員の顔が向く、メイはそれを確認すると腰に手を当てて立つ。
「本日無事、レオン様とカラ様、後コルンさんが帝国学園の入学試験に合格されました」
「おめでとうございます」
「お二人なら楽勝だったでしょう」
「コルンちゃんも頑張ったね~」
「しばらくは御二人を見れなくなるのか…… 寂しいなチクショウ!!」
「おめでとうございます」
「何回目だよ!?」
各自が思い思いに三人に祝辞の言葉をかけていく。今日何回目かわからないそれを経て、メイが次に進む。
「それでは三人の来期からの学生生活の活躍を祈りまして」
メイの声に合わせて全員が木杯を手に取る。
「乾杯!」
全員の木杯が頭上に掲げられ歓声が上がる。
「「「「「「「「「「 乾杯!!! 」」」」」」」」」」
今日十数回目の乾杯の声が食堂の中に響いた。
コルン女の子にしちゃわない?という意見をいただき、熟考したところ。
狐耳糸目少女…… ありだな。
ということでコルンくんには女の子になってもらいました。
賛否両論ございましょうが言ったもん勝ちでございます。あしからず。
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