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海へ

「海だ」


 レオンの目の前には、視界の端から端まで広がる水平線が見えていた。


「そういえばレオンは海を見るのは初めてか、どうだ初めて見た海の感想は?」


 前世では何度も見たことがあるため、それ程感動を覚えてはいないのだが、最初に海を見た時の想いは思い出せる。


「雄大ですね。私の存在などちっぽけなものなのだと言われているようです」

「そうか、レオンもそう感じるか……」


 屋根付きで四頭立ての馬車に揺られ、レオン達親子は海を眺めながら南辺境伯領に向かって走っていた。後ろには使用人が乗る馬車が二台と、護衛として騎馬隊も十数騎同行している。

 何故かというと、辺境伯会議が開かれるためである。


 帝国に辺境領は計三地方ある。帝国の北には荘厳(そうごん)なるミフレ山脈が広がるため北に辺境領は無く、他の東、西、南に各辺境領が存在する。

 各辺境領にはそれぞれ特色があり、東辺境領はルードゥス連合国との貿易や、エッツの森で冒険者が狩って来る魔獣の素材などで収益を上げており物流の中継地点として栄えている。軍事力は国境ということもあり他の貴族の領地よりは多く兵を抱えているが、連合国とはここ二百年以上友好的な関係が続いているため辺境領の中では一番少ない。

 南辺境領は領地の大部分がルイーダ海が面しており、経済は漁業とルイーダ海に点在する島々が形成する国家、シードラ共和国との貿易で栄えている。軍事力は海に面していることもあって海軍に力を入れており、帝国の海軍の大半を南辺境伯が掌握している。しかし海軍に力を入れている分陸軍が他の辺境領よりも若干目劣りすると言われている。

 そして最後になる西辺境領だが、ここは帝国と何度も戦を交わしているアセリア王国に面した場所であり、両国の間に広がるダシュカット平原をその領地と定めている。何故王国との戦争が続いているかというと、王国からダシュカット平原を越えた先には広大な穀倉地帯が広がっており、王国はそれを狙って侵略を繰り返してくるのだが、王率いる軍隊と西辺境伯が率いる軍隊に毎回叩きのめされているのだ。そのため軍事力は辺境領最強を自負している。経済面でもその軍事力を支えるだけの屋台骨として、前述に記したとおり広大な穀倉地帯を保有しており、帝国の胃袋としての役目を果たしている。

 このように辺境伯は帝国の盾としての役割を与えられており、この三家が結託すれば帝国を滅ぼすことも出来ると言われているが、そうならないために皇帝からの絶大なる信頼を与えられた一族が代々受け継ぎ治めていた。

 そんな三家が年に一度集まり、皇帝への忠誠と、各々の領地についての現状を確認しあうために開かれるのが辺境伯会議である。これが開かれるのは東辺境領と西辺境領に挟まれた南辺境領が多く、今回もそうだった。

 レオンもこれが毎年行なわれていることは知っていたが、同行するのは初めてである。会議が開催される南辺境中心都市ソディック。レオン達が住む東部辺境中心都市ウォルンタースからは街道を直進して馬車で四日かかる。


「海が見えたということは、もう少しで到着ですね父上」

「ああ、ソディックは私達のウォルンタースとはまた違った活気がある。母さん達にも、なにか珍しい土産を探して持って帰ってあげよう」

「――― カラは大丈夫でしょうか?」


 あれ以来特訓を続けるカラは、エルダ達が驚くほどの速さで知識と技術を見につけているらしい。レオンもそれは身近にいる者として実感していた。しかしそうなればなるほど前世の面影が無くなっていくようで、言いようのない不安も感じるのだ。


「心配か?」

「ええ、最近のカラの雰囲気を見ると尚更に、時たま見せる顔が別人のようです」

「女とはそういうものだ、私達男などとは比べようもないほど早く大人になっていく、ましてや貴族の子女となれば尚更だ。それに足すように母上とアイリーン殿の指導だ、今カラは駆け足で大人の階段を上っているようなものだろう」


 前世でも女性との関係は数えるほどだったため、レオンはアークの言うことに、そういうものか、と頷くことしか出来ない。自分がかって称えた戦士の面影が消えないことを祈るばかりだ。


 そうこうしていると馬車に取り付けられた窓から覗く景色に、海岸線に沿()って造られた港と、それに寄り添うようにして立ち並ぶ建物の数々が見えてきた。白い石壁と赤い瓦で造られたそれらは、乱雑ながら高台から見下ろすと、赤と白の対比が絶妙で一見の価値があるものだった。


「見事ですね」

「だろう、この景色はソディックの名物の一つだ。絵葉書としても売っているそうだから、土産話の一つとして買っていくのも良いだろう」

「それは良いですね。クリスやアリアが喜ぶでしょう」


 そんな風に家族への土産話に花を咲かせていたが、ソディックの町の門が見えてくるとアークの顔つきが変わる。アークはレオンの顔を見ると重々しく尋ねる。


「それでレオン。本当にやるつもりか?」

「ええ、今回の件が成功するかしないかでは、学園での過ごし方が大きく変わります。駄目元でもやっておいて損はないでしょう」

「失敗した場合、余計厄介なことにならないか?」

「それも考えましたが、やって成功した場合の利益が失敗したときの損失を上回りました。だったら成功を狙ったほうが良いでしょう」

「わかった、私は手助けはしてやれないから。必要なものや人員があったら後ろの馬車にいる家令のミハエルを使え、母上付きであるだけあって優秀だ。本来は屋敷を任せる立場の者なんだが、母上が連れ回してくれたおかげで今では執事のハスラーのほうが屋敷については詳しくなってしまったがな」

「わかりました」

「武運を祈る」


 アークは金色の頭を撫でると大きく頷く、それにレオンは頷き返した。


「必ず、南辺境伯子息クルス・ライアス・イダと西辺境伯子息カイン・ノーリス・サイロンを私が作る派閥に迎え入れます」


新章と言っておきながらレオン、君は何故海にいっているのか……。


今回も読んでくれてありがとうございましたー

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