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将来の夢は?

「いたたたた、まだ身体中痛いよ。レオンは大丈夫なのかい?」

「お前と一緒にするな。三日も休んだんだ何とも無い」


 そう言うレオンの背中に、カラは静かに忍び寄ると思いっきり背中を叩いた。 


「ぎゃあっ!?」


 普段のレオンからは想像もつかない悲鳴があがり、その場に崩れ落ちたレオンが痛みと怒りにブルブルと震えるのを見下ろす。


「痩せ我慢。意地っ張り」

「言いたいことはそれだけか?」


 立ち上がったレオンの拳骨が、銀色の頭に振り下ろされる。カラの悲鳴が屋敷内に響いた。


 決闘があった日から四日たっていたが、二人の身体は未だに満身創痍(まんしんそうい)の状態が続いている。

 決闘が終わった後、勝ったカラも、負けたレオンも、倒れたまま動かず、慌てた観戦者達が医者を呼び、二人を診て告げた症状は散々なものだった。

 まず二人とも全身打撲。特に肩や背中など身体の側面と背面が酷く、内出血が起こった肌は青を通り越して赤紫に変色していた。他にも骨の至る所にひびが入り、カラは自分が放った最後の一撃の衝撃に耐えられず手首を骨折。レオンに至っては胸骨が折れ、折れた骨がもう少し深く入り肺や心臓を傷つけていれば命を落としていたらしい。

 幸い二人は辺境では最高位の地位を持つ辺境伯の子息だったこともあり、すぐに治癒術士が呼ばれ治療を受けれたので命に別状は無かった。

 しかし治癒術の性質上、骨折や裂傷はすぐに治癒することが出来るのだが、打撲や筋肉痛などは軽減は出来るがすぐに完治は難しいということで、二人は今後の戒めをかねて最初の治療以外は治癒術に頼らず自然治癒で治すことになり、決闘から三日間ベッドから起き上がることも出来ずに侍女達の世話になりながら体を癒していたのだ。

 そして四日目の今日、二人が立ち上がって歩けるようになると、アークとカリンから話があるので集まるよう言われたのである。


「いったい何の話かな?」

「思い当たる件が多すぎてどれとは言えないな」

「そうだねぇ」


 そんな風に話しながら執務室の前まで来ると、レオンが扉を開けて中に入る。執務室の中にはアークとカリンが待っていた。


「おはようございます父上、母上。お待たせしました」

「おはようございます父様、母様」


 レオンが優雅に一礼すると、それに追随するようにカラが両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げて挨拶(カーテシー)をする。普段はここまで(かしこ)まった挨拶はしないのだが、これには理由がある。何故なら部屋にはアークとカリン以外にもう一人客人がいたからだ。


「ああ、おはようレオン、カラ」

「おはよう二人共」

「父上。そちらの方は?」


 レオンが目を向けた先には、首元まで襟があるドレスを着た中年の女性が座っていた。長い髪は頭で巻かれ、そのまま夜会に行けそうだ。だからといって、けばけばしい訳ではなく身のこなしには優雅で気品がある。王族の女性と言われても信じられるような威厳もあった。そんな人物が目の前にいるのだ二人が気にならない訳が無い。


「こちらは、宮廷作法に詳しいアイリーン殿だ。今回は無理を言って来ていただいた」

「アイリーン・ナミリア・ロードレックです。よろしくお二人共」

「はい。初めまして、レオンハルト・アルバ・ミスラです。レオンとお呼び下さい」

「初めましてカラ・レティーシア・ミスラです。僕のことはそのままカラと呼んでください」

「わかりました。レオン様、カラ様。私のことはアイシャとお呼びください」


 挨拶が終わると、レオンとカラはアークとカリンが座るソファーの対面側にあるソファーに座る。アイリーンは一人用のソファーに腰掛け、五人でテーブルを囲む形になる。全員が腰を下ろすのを待っていたように執事のハスラーが人数分のティーカップとポットを持って現れ給仕していく。部屋の中に紅茶の良い香りが漂う。ハスラーがそのまま部屋を出て行くとアークが口を開いた。


「さて二人共何故呼ばれたかわかるかな?」


 アークの問いにレオンが答える。


「検討はつきますが、その数が多すぎて特定出来ませんね」

「同じく」


 その二人の返答にアークは苦笑する。聡すぎるのも考えものだと。


「今回呼んだのはカラの今後についてだ」


 その言葉にカラの体が強張る。


「それは剣を止めろという話ですか父さん?」

「父様だカラ、口調が戻っているぞ。客人の前だ気をつけなさい」

「私のことはお気になさらず」

「…… ありがとうございます」


 一度咳払いするとアークは話を元に戻す。


「いや、もう剣を止めろとは言わない。お前は決闘でレオンに勝ち、自分の願いを貫く権利を勝ち取った。だから私達はもう剣を止めろとは言わないことにする」

「小言くらいは言うけどね」


 アークの言葉に顔に喜色を浮かべていたカラに、カリンが釘を刺す。


「娘が喜んでいるのに、無粋な母親だねぇ」

「心配なのよ、小言くらい許しなさい」

「ふんっ、よ、余計なお世話だよ」


 カリンの言葉にカラは目を逸らすが、銀髪から除く耳が朱に染まっているため照れ隠しだとレオンにはわかった。両親のアークとカリンも解っているようで顔に苦笑を浮かべている。


「さて、話を戻すぞ。カラの今後というのは、将来についてだ。剣を続けるのは良い、だが将来それをどう使っていきたいか。それを確認しておこうと思ってな」

「将来?」

「そうだ、剣を使う職は色々ある。国に仕える騎士となるか、未知と名声を求めて冒険者となるか、武を極める道をいく武人となるか、後は剣を(たしな)む程度に貴婦人となるか。カラはどうしたい? 私としては最後の貴婦人がお勧めだ、なに――――」


 カラはアークの言葉(後半は無視して)を咀嚼する。そして自分が進みたい将来の進路を確認したいということを理解すると隣に座るレオンを見る。


「レオンはどうするのかな? このまま父様の後を継いで当主になるのかい?」

「いや、それには手順がある」


 カラの問いに答えたのはレオンではなくアークだった。


「我が国では、貴族の当主となる子息は一度帝国学園に入学して、騎士として叙勲を受けなければならない。これは慣習化して久しいが、それゆえ怠ると貴族社会での評判を落とすからな面倒だが、もう少ししたらレオンには帝国学園に入ってもらわないとならない」


 レオンの方を向くと、知っていたのか頷くだけだった。知らなかったのが自分だけだったのに少し腹が立ったが今はそれどころではない。


「もう少しって?」

「本来ならもう後一年といったところか、入学試験には実技などがあるからな、体がある程度出来た頃に入学試験を受けるんだ」

「わかった」

「そうか、それで将来どうするかは―――」

「僕もレオンと一緒に入学試験受ける!!」


 そう言うカラにアークは頭を抱え、カリンはドヤ顔でアークを見ている。


「ほらね、私の言った通りだったでしょう?」

「…… ああ、嫌になるくらいな」

「そういう訳だから、アイシャさん。後はお願いね」


 カリンはそう言うとアイリーンを見る。アイシャは頷くとカラに向き直る。


「わかりました、それでは特訓を始めましょう」

「へっ?」


 呆けた顔でカラはアイリーンを見つめるのだった。


今回は短めです、次章の間となる話が何個か入ると思うのでご容赦ください。

今回も読んでいただきありがとうございました。


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