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過去の場景 後編

 黒狼将軍ガルカ。彼は自軍からそう呼ばれている。これは彼を見れば解るが、彼の身体を(おお)う黒い毛皮と狼の頭部が由来だ。

 そのガルカは今戦場を駆けていた。相手はガリア帝国への援軍として派遣された騎馬軍一万。槍状になり一転突破してくる敵に対してこちらも自分を先頭に軍を槍状に展開すると正面から衝突する。

 自分の身の丈を越す大剣を小枝を扱うように振り回すと先頭の騎馬の騎士の頭を粉砕し、返しの刃でその後ろの騎士の胴を馬の首ごと両断する。返り血で全身を濡らしながらガルカは吼える。


「さあ、かかってこい人間共。我はガルカ! 魔王軍将軍ガルカよ!! ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 名のりが終わると、ガルカは敵軍へと突っ込み、哄笑と血の旋風を巻き起こしていく。


「相変わらず派手ですねガルカ将軍は、ああ、我々は真似しなくて良いですよ。我々には我々の戦い方があるんです」

「はっ」


 そんなガルカの姿を遠目に見ながらナリスは両側面からガリガリと矢と魔術による火球、石弾等によって敵の騎馬軍を削っていく。敵からの攻撃が届かぬ遠距離からである。

 味方に被害が及ばない距離からの攻撃で敵には最大限被害が出るように軍を展開し、こちらに攻めてくる敵がいれば離れ、敵が諦めると同じ距離から攻撃するように命令を徹底している。自分が指揮する同胞の耳長族(エルフ)は寿命が長い分、生殖率が他の種族に比べて低い。ゆえに一兵も無駄にするつもりは無い、今のような殲滅戦に近い迎撃戦であれば尚更である。


 二人がそうやって一万の騎馬軍を蹂躙するのを高台から眺めていた魔王は、二人が戦う戦場から北へと視線を動かす。そこにあったのは北に広がる山脈の根元に広がる森だった。


「どうかされましたか? 魔王様」


 それを不思議に思ったのか近衛隊の隊長を任される黒い猫耳と尻尾を持つ獣人の青年が声をかける。魔王は森から目を放さずに青年に答える。


「森に棲む鳥達が西から順番に騒ぎ、飛び立っている、おそらく敵が来るぞ」

「まさか!? では将軍達が戦っているのは――― 囮ですか!? 馬鹿な…… あんな大規模な囮、聞いたことが無い。クソッ! すぐに迎撃態勢を組みます!!」

「ああ、頼む。だが…… 間に合わんか?」


 近衛隊長が駆けていくのを見送って魔王がそう言うのと森から騎馬軍が飛び出したのほぼ同時だった。愛用の槍を手にすると魔王は不敵に笑う。魔王に迫る騎馬軍は二千程と少ないが、こちらは態勢が整っていない近衛隊が五千、どちらが優勢かといえば敵軍が優勢であると言えた。


『まさか救援に来たはずの国と自分の軍の主力を囮にするとはな、成功したから良いものの失敗すれば大打撃どころではないぞ。下手したら全滅して一つの国が地図から消えるというのに。いったいどんな指揮官が率いているのやら…… フッ、多少興味をそそられるな』


 そう思っている間にも敵の騎馬軍は丘を駆け上がりこちらを目指してくる。自軍の迎撃陣形は半分が展開出来た程度で全力で直進してくる騎馬軍を止めるには心もとない。


「魔王様!! お引きください、将軍達のもとまで辿りつけば安全です」


 息せき切って走ってくる近衛隊長の頭を槍の石突で軽く叩く。


「辿りつければ、だろう? 全力で駆け上がってくる騎馬隊を避けてガルカ達のもとまで向かうには一度交戦しないと無理だ。それを迎撃陣形をとってる最中の近衛隊でやってみろ。被害が馬鹿にならん」

「しかし!? 魔王様の安全を最優先するならば我等が盾となって魔王様をガルカ将軍達に手渡すのが最も安全です!」

「だから、私は蝶よ花よと守られる深層の姫君じゃないんだぞ? これくらいのことなら建国当初いくらでもあった。それを全部剣と知恵で乗り切ってきたんだ、今回もそうするだけだ。もうちょっと危機を楽しめ小僧」


 そう言うと魔王は槍を片手に騎馬すると丘の上部で陣形を展開している近衛隊のところに向かって下りていく。


「お、お待ちください魔王様!?」

「急げ、急げ小僧。戦場の時間は金よりも貴重だ。特に今のような危地の時は尚更な」


 近衛隊がいる場所に到着すると魔王は騎馬した者達のところへ向かい槍を高く掲げた。


「騎馬した者は私に続け!! 小僧、お前は私達が押し止めた敵を残った者達で包囲殲滅しろ!!」

「は、はっ!! 魔王様御武運を!」

「小僧もな。いくぞ!!!」

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」」」」


 一千の騎馬を率いると丘を駆け下り、こちら目掛けて駆け上ってくる敵軍を見据える。先頭を駆けるのは金髪の髪をはためかせ、純白の軍服を身に纏った少女だった。その手に握られた剣が纏う光の加護には見覚えがあり、冷静だった思考が一瞬で怒りへと塗り変わる。


「奴の走狗か貴様!!!」


 仇敵の加護を受けた人間は過去何度か相対し全てを屠ってきた。奴等は現れるたびに力を増し手強くなっている。ゆえに初見で殺すのが今までの経験上最良の選択だった。


「奴の加護を得たことを悔やみながら死ぬがいい!!」


 馬が交差する瞬間を狙って少女の心臓を狙い槍を突き出す。少女はそれを馬から飛び降りることで躱すとふわりと地面に降り立ち、すぐさま迎撃態勢をとる。そして二人は初めて目を合わせた。


「死んだような瞳だな娘」


 魔王がそう言うように少女の瞳には意志の光がなく、整った顔立ちも合わさって人形のように見えた。それに違和感を覚える。今までの加護持ちの者達は、その力に酔い、溺れながら、奴に心酔した瞳は濁りギラギラと輝いていた。だが目の前の少女から感じるのは、なにもかも諦めた老人に似た倦怠感だ。まだ十代前半であろう少女が纏う空気としては違和感が甚だしい。

 その違和感に戸惑っていると、少女の危機と感じた騎士達が数人こちらに切りかかってくるのが見える。


「勇者様お引きを!!」

「死ね! 魔王!!」

「皆、勇者様をお守りするのだ!」


 騎士達の言葉に首を捻る。勇者? こんな年端もいかない娘を勇者と祭り上げたのか? 奴の加護があるとはいえ恥とは思わないのか? ああ、そうか。この娘が纏う空気には見覚えがある。ガルカ達を最初に見た時もこんな雰囲気を纏っていた。

 つまり奴と奴を信仰する者達の奴隷なのだ、あの娘は。

 そう思うと目の前の娘が憐れに思うと同時に、自分に群がる騎士達に怒りが湧く。


「恥を知れ!! 痴れ者共が!!!」


 怒りのままに槍を自分に殺到してくる騎士達の胸を、腹を、首を、眉間を、突き刺し殺す。その魔王の勢いに続くように、高所から駆け下りる近衛騎馬隊が敵軍に牙を剥く。勢いを殺された敵軍はそれをまともに受けて前軍は壊滅的な被害を受けた。そのため後軍の足は止まり、陣形を整えた近衛歩兵隊に包囲され徐々にその数を減らしていった。

 勝敗が決したのを確認すると、魔王は勇者と呼ばれた少女を探す。辺りを見回すと、近衛の一人から騎馬を奪い、生き残った騎士達を率いて撤退する後ろ姿が見えた。退き際の判断の速さに感心する。どうやら頭は回るようだ。


「しかし戦場に慣れていないな、私達しか見えていない」


 そう魔王が言うように勇者達が逃げる方向には、魔王が襲撃されたことに気付いたナリスが、自軍の半分をガルカに残し、残りの五千の兵を率いて先回りして退路を塞いでいた。


「ご無事でしたか魔王様!」

「ああ、小僧お前もな。さて私はこれから追撃戦に入る。残軍の掃討は任せたぞ!!」

「えっ!? ちょっ、ま、魔王様!?」


 近衛隊長の返事を待たずに、騎馬隊を率いて追撃へと向かう。向かう先では勇者軍とナリス軍が激突していた。


 ナリスのはらわたは煮えくり返っていた。魔王を襲った敵軍に、そして魔王の危機を事前に気付けなかった自分にだ。知謀を(つね)とするナリスにとって、敵に欺かれまんまと敬愛する魔王を危険にさらしたことは恥辱以外の何事でもなかったのだ。

 ゆえにその恥辱を(そそ)ぐため目の前の敵軍は一兵たりとも逃がす気は無い。そしていつものように同胞を無駄に死なせるつもりも無い。それを両立するためにナリスの戦術級魔術が顕現する。


≪ 物言わぬ者達よ、我は命ずる。我が魂の呼びかけに答え立ち上がり、我が意に応えよ ≫


 ナリスから青白い光が輪になって広がり戦場を駆け抜ける。


≪ 傀儡(ゴーレム)創造 ≫


 ナリスの詠唱が終わると同時に戦場にある地面や岩、木々が(うごめ)き始めた。それらは次第に大きな人の形を取ると立ち上がる。土は泥傀儡(マッドゴーレム)、岩は岩傀儡(ロックゴーレム)、木は木傀儡(ウッドゴーレム)、戦場に転がる死体は死肉傀儡(フレッシュゴーレム)へと姿を変え敵軍に襲いかかる。

 そして戦場での戦闘は虐殺へと変わった。

 泥傀儡(マッドゴーレム)には、沼に棒を刺すように攻撃が通らず、捕らえられて泥の体の中に囚われ、泥によって窒息し息絶えると泥だらけの死体が戦場に転がった。

 岩傀儡(ロックゴーレム)の岩の体を切り裂く剛の者は何人かいたが、切られてもすぐに元に戻り、切り続けて刃がボロボロになった者から岩拳を振り下ろされ戦場に赤い花を咲かせていく。

 木傀儡(ウッドゴーレム)に対しては敵兵達は善戦していた。繰り出される丸太の拳を避けながら肉薄し切り裂き、戦斧を振り回し叩き割る。しかしそれは一部の者であり、丸太の蹴りを喰らい空高く打ち上げられ地面に激突する者や、丸太の拳を受けて数メートルを吹っ飛ぶ者がほとんどだった。

 死肉傀儡(フレッシュゴーレム)と相対した者達が一番悲惨だったろう。彼等はかって同胞だった者の死体で出来た腕に抱き絞められ、万力のような力で絞め殺されると、そのまま死肉傀儡(フレッシュゴーレム)の体に組み込まれ、その体を巨大化させるのに一役買うと次に組み込む仲間を捜しにいくのだ。


 小1時間たったころ戦場には、千五百は残っていた敵軍が五十人程にまで数を減らし、傀儡(ゴーレム)達に囲まれ、息も絶え絶えに生き残っているのみとなっていた。そこには勇者もおり、傀儡(ゴーレム)を何体か屠っていたが、倒す度にその分増え続けるため切りが無い。

 そんな傀儡(ゴーレム)達の囲みが割れ、勇者達に向かって歩いてくる者達がいた。

 一人は狼の頭部を持ち、上半身を黒い毛皮で覆われた獣人の男性。

 もう一人は銀髪で眼鏡をかけた耳長族(エルフ)の青年。何故か顔面蒼白で獣人の男性におぶさっていたが。

 そして最後の一人は彼等の標的であった魔王だった。


「おのれ魔王!!!」

「悪魔め! いずれ天罰がくだるぞ!!」

「勇者様我等が道を開きます。魔王の首をとりましょう!!」

「そうです勇者様!! この距離ならばいけます」

「いきましょう!!」


 罵倒と実現不可能な妄想を垂れ流す騎士達を一瞥もせずに魔王が呟き、手を振り下ろす。それは騎士達にとって死神の鎌に等しい。


「ああ、逝け。愚か者共が」

「なんだと、ぼぉげべぇッ!?」

「ぎょび!?」

「やめ、でべぇ!?」

「あああああああああああああああああああああ、ぼぎょ!?」

「かばぁ!?」

「あ、あああ、くそ、くそ、ぐじょおッ!? あぎゃあああああああああああ、だずげっ、ぎィッ!?」

「勇じゃ!?」

「あああ、勇者様助けてください、がぶっ!? だずげで!! ゆうじゃざまぁぁああ…… ぼびゅッ!?」

「くそ! くそ!! 助けろよ勇者!? 女神の加護があるっていうから。あんな無茶な作戦をぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ、あ、やめべ、げぇッ!?」

「あ、あぁぁぁぁ…… 」

「でべッ!?」

「………………」

「ぎぃィィィィィィィィィィィィィィィィ!? いッギィ!?」

「…………」

「こぼっ!? ごほっ!? ぶぼっ!? ほぉー、ぶっ……」

「……」

「た、だ、ぎ、が…………」

「…」


 それを受けて傀儡(ゴーレム)達が何度も、何度も、何度も、腕を振り下ろし残っていた騎士達を肉塊へと変えていく。傀儡(ゴーレム)達の腕の上下運動が終わり、そこに残っていたのは、既に原形の形を判別できないほど破壊された五十数人分の肉塊と、五十数人分の血液で造られた血の池、そして純白だった軍服を血で赤く染めて佇む勇者と呼ばれた少女だけだった。

 その勇者に向かって魔王は歩を進める。


「魔王様!?」

「むぅっ!?」


 その魔王の行動にガルカとナリスが声をあげるが、気にせずに進む。そして血の池で靴が汚れるのも気にせずに魔王は勇者の前に立つと、無造作にほっそりとした顎に手をそえて自分の方に顔を向かせる。


「娘。お前はなんのために戦っている?」


 魔王の問いを受け少女の目に初めて光が揺らめいた。


「理由なんかない。それから、僕は男だ」


 前者は予想通り、だが後者は予想外だったゆえに魔王の目が見開かれる。後ろではガルカが大声で爆笑し、ナリスは顔を逸らして小刻みに震えていた。


「そ、そうか。それはすまなかった」

「別に、慣れてる」

「それも悲しいな……」

「うるさいねぇ、それで? なんで殺さないんだい?」


 機嫌悪げに見上げてくる少女、もとい少年に、魔王は目線を合わせる。勇者の目はいまだに意志の光が薄かったが先ほどよりは光が増していた。


「なに、私の戦う理由を知ったら、奴の加護を受けたお前はどうするのかと思ってな」

「なんだい? おじさんの自分語りを聞けっていうのかい?」

「ああ、ガリアの王都は落ちた。後は各国との停戦交渉と、捕虜の引き渡し交渉だけだ、まぁ捕虜はお前しかいないがな。その間に聞いていけ」

「はぁ、わかったよ。別に死んでも良いんだけどねぇ、あの国に戻っても良いことなんか無いし」

「子供が死んでも良いなんて口にするものではない。それを言っていいのは、髪が白くなるまで生き抜いて、後悔が無い人生を歩めた者だけだ」


 そう言って魔王は勇者の頭を撫でる。勇者は最初驚いた顔で自分の頭を撫でる魔王を見上げるが、魔王と目が合うと、されるがままにな頭を撫でられ続けていた。


「お前に真実を教えてやろう、それからどうするかはお前しだいだ」


 そう言う魔王を人形の瞳が見つめていた。






 目を開ける。

 暗い部屋の天井が見えた。


「くぅー、すぅー、くぅー、すぅー」


 横から聞こえる規則正しい寝息の方に顔を向ける。

 そこには長い銀髪を寝台に広げ、突っ伏して眠るカラがいた。

 ああ、そうか。

 懐かしい、今では遠い昔の場景を夢に見ていたらしい。

 夢で見た、かってのカラを思い出す。

 あの頃、自分が負けるとは思ってもいなかった。


「成長していたのだな」


 昔と同じように、銀髪の頭を撫でる。サラサラとした銀髪が心地よい。


「んにゃー、くふふふふ」


 良い夢でも見ているのか、笑みを浮かべて手に頭を押し付けてくる。愛らしい猫のようだ。


「風邪をひくぞ」


 そう言って自分にかかっていた毛布をかけてやる。寝台まで運んでやりたかったが全身が打撲でもしているのか、腕を動かすだけで激痛が走る。恐らく精霊魔法を使った加速の後遺症だろう。今後多発は控えたほうがよさそうだ。

 幸せそうに眠るカラを見る。


「次は負けん」


 そうしてカラの横で目を閉じる。今度は夢も見ずにレオンは泥のように眠りについた。

夢落ちかよ!!

と思ってる方すみません。

ちょっと今回グロ多めかな~と思うので読者さんの反応が心配です。

これでokでたら、今後増える傾向になるかもなので、感想、意見ほしいです。正直作者本人もひく系の展開にいく可能性が…。

な~んてことがなきにしもあらずです。

今回も呼んでいただきありがとうございました。


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