兄妹対決
「どういうことか説明してもらおうかカラ」
その場にいる全員の思いを代弁するようにレオンは眉間に深い皺を刻みながらカラに詰め寄る。それに怯まずにカラは腰の木剣を引き抜くとレオンに向かって突きつけた。
「今言った通りだよ。僕はレオンに決闘を申し込む!」
「解らん奴だな。何故お前が私に決闘を申し込むのか、その理由を言えと言ってるんだ」
「そ、それは……」
「なんだ? 言えないような理由なのか?」
言い辛そうにするカラに容赦することなく、レオンが畳み掛けるとカラは俯いて黙り込んでしまう。
レオンは多少カラに対して怒っていた。今までの決闘はカラの発言が原因で、言い方を変えればカラのために戦ったのだ。その返礼がこれでは腹が立つのも無理はないだろう。
「話にならん」
冷たく切って捨てるとカラの横を通り過ぎる。そんなレオンの手をカラの手が掴んで引き止めた。
「離せ」
「、、て、か、いで」
俯いたままカラが何かを呟くが、レオンには聞き取れない。
「なんだ? はっきり言え」
「僕は、レオンに勝てないのか? このままずっと力の差が開いていって、僕は、僕はレオンに置いていかれるのかな?」
レオンを見るカラの顔は今にも泣きそうな顔をしており、レオンを困惑させる。
「どうしたんだ?」
「僕は、成長しても、女だから、レオンには勝てないって、母さんが……」
ぽつりぽつりとカラの口から紡がれる言葉にレオンは成程と納得するが、眉間に刻まれた皺が消えることはない。難しい問題だ、と思う。カラを安心させるのは簡単だ「大丈夫だ」と一言言ってやればいい。しかしそれでは根本的な問題は解決しないのだ。カラが女性でありレオンが男性であるかぎり体力や力の差はどうしても発生し、技術面で同等に近い二人に実力の差が生まれるのは避けられないだろう。
レオンがカラの問いに答えることが出来ないでいると、いつの間にか近くに来ていたカリンから二人に声がかけられた。
「ごめんねレオン。私が余計なこと言ったからカラが暴走しちゃって」
その声にカラの華奢な肩がビクリと動く。そのさまを見てレオンは溜息をつきたくなる。重傷だな、と。そんな二人の心情を知ってか知らずかカリンの言葉は続く、その顔には微笑みだけが浮かんでいた。
「それでねレオン。いい機会だからカラに引導を渡してあげてくれないかしら?」
その言葉にカラとレオンはカリンを仰ぎ見る。カリンからの初めてと言える厳しい言葉に戸惑いながら。
「引導を渡すとは?」
「簡単よ。カラにレオンには勝てないと教えてあげて欲しいの。そうすればカラも剣の道を諦められるでしょう?」
なるほど、とレオンは納得する。カリンは前々からカラに武術を辞めるよう言っていた。今回のことは良いきっかけになると思ったのだろう。納得は出来るが実行に移すのは躊躇われる。
なぜなら自分はカラの思いを知っている。この身になる前の誓いを覚えている。共に剣を並べようと、共に駆けようと願った想いは未だ魂の奥に刻まれたまま残っているのだ。
カラを見れば、カリンを睨みつけたまま唇を噛み締め、叫びだしたい衝動を抑えているのだろう小刻みに身体が震えている。
「駄目かしらレオン?」
黙ったままのレオンにカリンから声がかけられる。それは追い打ちの意味が多分に含まれていた。それでも動かないレオンに新たに現れた人物の声がかけられる。
「やりなさいレオン。これは当主命令だ」
「…… 父上。何故ですか?」
カリンの横に現れたアークにレオンは疑問の眼差しを向ける。アークは二人に初めて見せる厳しい顔でその視線を受け止めて言う。
「女とは言え決闘を口に出したカラには責任がある。そして決闘を申し込まれたレオン、お前にも決闘を受ける責任がある。貴族家に生まれた者として、決闘を撤回や拒否する者にはなってほしくないからだ」
「それにカラが剣を、武術を辞めさせられるのは関係ないでしょう」
「女が決闘を口にして負ける。それを続けさせてミスラ家の家名を地に落とせと、そう言うのかレオン? それに、それですめばいいが下手をすれば決闘で命を落とす可能性もある。親としてそんな未来は出来るなら取り除いてやりたいと思うものだ」
「そ、それは――― 」
アークの厳しい言葉にレオンは言い返せない。何故ならアークの言う事は正しいのだ。貴族としても、子供をもつ親としても。
「故にカラ。剣を手放すのが嫌というなら自分が始めた決闘だ。勝って勝ち取れ」
「あれこれ言っても結局は甘いのよね貴方は」
厳しいことを言ったアークだが最後に助け舟を出すのを見て、カリンが溜息をつきながら非難する。それにバツの悪い顔をしながらも前言は撤回せずにカラとレオンの反応を待つアーク。
レオンは無言でカラを見つめる。
カラは両親を見つめた後、レオンに向き直ると木剣を構えた。
「勝負だよ、レオン」
その決意が籠められた視線を受け、静かに目を閉じる。次に開く時には同じ決意をその瞳に籠めてレオンはカラの前に立つ。二人の瞳に籠められた決意とは―――
目の前の敵を倒す。
という戦士ならば誰もが持つ意思。
それをカラの瞳から感じた故に、レオンは敬意を表し同じ意思をもって返すのだ。
二人の準備が整ったのを感じたのかアークはカリンと、話についていけず空気と化していたランスを伴って下がり、審判のハスラーはカラとレオンの間に立つ。
「お二人とも準備はよろしいですかな?」
「いつでも!」
「ああ、待たせたハスラー」
ハスラーはゆっくりと手を上げると振り下ろす。
「それでは、始め!!」
ハスラーの開始の合図と共に二人は大地を蹴った。
二人の距離はすぐに無くなり、互いの木剣が甲高い音を立ててぶつかる。そのまま木剣は離れずに鍔迫り合いへと移行していく、二人の力の差のためか木剣はカラの方へ傾いていき、それを嫌ったカラがレオンの腹部に蹴りを放ち、その衝撃で距離を取る。
「相変わらず足癖の悪い」
「まだまだ!!」
離れた距離を今度は直線ではなくフェイントを混ぜた蛇行で距離を詰めるカラ。それに対してレオンは動かずにカラの動きから目を放さず迎え撃つ。
カラとレオンが再度ぶつかると思われた瞬間、カラの姿がレオンの視界から消える。まったく予測出来なかった動きにレオンは一瞬虚をつかれるが、大きく前に転がることによって左斜め後ろからの突きを避ける。
すぐに体勢を整え、カラの方を振り返ると足元に土煙をあげながら立つカラの姿が目に入った。
「精霊魔法の応用か?」
そうレオンが言うとカラの顔に嬉しそうな笑みが広がった。それを見てレオンの顔にも笑みが浮かぶ。カラは初見であるはずの自分の技を一目で見破ったレオンの慧眼に、レオンは自分に気付かせずに爪を研いでいたカラの周到さに、顔の笑みが止まらない。
「カラ様、今のは?」
何が起こったのかわからなかったハスラーがカラに声をかける。審判として不正であったならば注意するためだろう、だがそんな無粋なことをされては困る。
「問題ないハスラー!! 余計なことはするな!!」
柄にもなく大声を張り上げるレオン。それにハスラーは一瞬驚いた顔でレオンを見るが、すぐに下がり続行の合図を送ってくる。
そう、問題はないのだ。カラが精霊魔法を使うなら自分も使えば良いだけの話である。念話で風の精霊に働きかけ、カラがしていたように身体に風の塊をぶつけて加速させる。視界に映る景色が一瞬で進みカラの眼前に瞬時に移動するが、カラも同じように移動しレオンの視界から消える。
そんな攻防が何度か繰り返され二人は一旦離れると息をつく。
観戦席では、ありえない軌道で駆け回る二人の動きに固唾を呑んで見守っていた観戦者達が息をついていた。それはアークやカリンも同じであり。
「凄いねぇカラもレオンも私には逆立ちしたって無理よあんなの、ねぇ貴方―――」
「あれは、風の精霊魔法を使って、なるほどあれなら、上手くすれば、―――」
カリンが隣にいるアークを見ると、考え込むように手を顎にそえ、ぶつぶつと何事かを呟きながら子供達が駆け回る姿を凝視しているアークの姿が目に入る。
「男って奴は……」
そう言って溜息をつくとカリンはアークからの返事を諦めて子供達のほうに視線を戻すのだった。
既に何度目かもわからない精霊魔法の加速に身体が悲鳴をあげていた。足は限界を訴えるように震え、風の塊を当て続けた背中には既に痛みで感覚も無い、手に持つ木剣も鉛で出来ているように重く感じるが、それら全てを無視して駆ける。
彼も同じ状態だと信じて、風の塊を背面に叩きつけ加速。彼との距離が半分に近づいた時に再度風の塊を背面に叩きつける。加速中の加速。感覚が研ぎ澄まされ世界を彩る全てがゆっくりと感じられる。今まで見せなかった切り札に彼の顔が驚愕に染まっているのが見えた。
彼の胸に自分が持つ木剣が吸い込まれるように近づいていく、彼の木剣はそれに間に合わない。勝利を確信し彼の顔を見る。
そこにあったのは称賛を贈る笑顔。
既に何度目かもわからない精霊魔法の加速に身体が悲鳴をあげていた。足は限界を訴えるように震え、風の塊を当て続けた背中には既に痛みで感覚も無い、手に持つ木剣も鉛で出来ているように重く感じる。
おそらく彼女も似たような状態だろう。彼女を見据えると、瞳に力強い光を宿し一直線に加速してきた。迎え撃つために木剣を構える。彼女との距離はまだあり、目も彼女の速度に慣れてきた。そう思っていると彼女が更に加速する。加速中の加速!? これ以上の加速は無いと高を括っていた数瞬前の自分を張り倒したい。
彼女の持つ木剣が自分の胸に吸い込まれるように近づいてくる。自分の木剣は未だ遥か彼方。己の敗北を知り彼女の顔を見る。
刹那の幻視。
それは金髪の髪をはためかせ、純白の軍服を着た。少女のような顔の青年の姿。
それはかって自分に向かって剣を向けてきた、今はもうない彼女の前世の姿。勇者。
刹那の幻視は終わり、見慣れた銀髪をなびかせ自分に迫る紫の瞳と目が合う。
贈るのは称賛。
ああ、お前の勝ちだ。素晴らしい。顔がにやけるのは許してくれ、嬉しくて戻りそうにないんだ。負けて嬉しいのはおかしいとか言わないでくれよ、自分でも何故かわからないのだから。
そんな私に彼女の持つ木剣が胸に当たるのを感じるのと同時に激しい痛みが私を襲う。
「カラ様の勝利です!!」
遠くでハスラーのそんな声を聞きながらレオンの意識は闇に落ちた。
兄妹対決はカラの勝利で終わりました。
次回はちょっと過去編のほうを入れてみようかな~と思ってます、変更になるかもですが。
お気に入りありがとうございます。
評価もバンバンお願いします。辛口審査でも真摯に受け止めさせていただきますのでバッチこいです。
感想、意見もお待ちしております。
読んでいただきましてありがとうございました。




