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妹を賭けた決闘

 レオンはいつも武術の修練に使う木剣を持って庭に立っていた。庭に広がる芝は綺麗に刈られており、その芝の上では先程レオンに決闘を申し込んだ面々がクジ引きで順番を決めている。庭に面したテラスを見ると、いつの間に用意したのか机や椅子が並べられ、大人達や各家の子女達が観戦のために集まっている。ちょっとした余興と見做されたらしい。その中には当然カラやその妹達の姿もあった。

 レオンが見ているのに気付いたのかカラが手を振ってくる。そんなカラに向かって「お・ぼ・え・て・ろ」と口を動かして今の自分の心境を伝えておく、それに気付いたのかカラの笑顔が若干引きつったのを確認して多少溜飲を下げると前に向き直った。

 丁度クジ引きが終了したのか最初の挑戦者が進み出る。審判を任されたのはミスラ家の執事を務めるハスラー。

 レオンは木剣を正眼に構えると、自分より大きい対戦者を見据える。自分より頭二つ分低いレオンを見て勝利を確信しているのか対戦者の少年の顔には余裕の笑みが浮かんでいる。レオンとしても侮ってくれればそれだけ隙が大きくなり楽に勝てると思っているのであえて忠告はしない。わざと負けてカラを困らせるのも良いかと一瞬脳裏をよぎったが、そのために自分が格下の相手に負けるなど戦士としての誇りが許さない。


「それでは両者共に準備はよろしいですかな?」


 ハスラーの問いかけに二人は頷く。


「では、始め!!」


 掲げられたハスラーの手が振り下ろされ、試合の開始を告げる。それを合図に二人は大地を蹴った。


「りゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 雄叫びをあげながらレオンの頭上に上段からの振り下ろしを繰り出す少年。それは基本に忠実な一撃で力と速度が十分にのった一撃だったが、レオンはそれを僅かに身体をずらすことで紙一重で避けると、そのまま横をすり抜けざまに少年の胴に木剣を打ちこむ。

 二人が離れるのと同時にハスラーの手が上げられる。


「勝負あり!! レオン様の勝利です!」


 ハスラーの口からレオンの勝利が告げられると観客席から歓声があがる。カラや妹達にいたっては飛び跳ねながら喜びを表現していた。それにレオンは片手をあげることで応えると、次の対戦相手に向き直った。


 四人目の対戦者をレオンが先程と同じように一瞬で打ち負かせるのを見てカラは手を叩いて歓声をあげていた。隣ではクリスとアリア、マリアが同じように歓声をあげてレオンの勝利を祝っている。


「レオン兄さま~、次も瞬殺よ」

「兄さま強いのよ~」

「兄さま格好良いのよ~」


 試合前にレオンから釘を刺されたため、嫌がらせでわざと負けられるかと内心ヒヤヒヤしていたカラだったが、勝ち進んでいくレオンを見てその心配も霧散していた。今は素直に自分の我が儘(わがまま)で困らせてしまったレオンを応援することにした。

   

「がんばれーレオン」

「カラ姉さま!!」


 するとマリアに凄い目で睨まれる。応援くらい良いと思うのだが、恋する乙女は狭量になるのだろんか? 仕方ないので椅子に座って大人しく観戦することにする。

 試合に目を向けると七人目の対戦者がレオンの素早い動きに翻弄されて転倒し、頭に寸止めの一撃を打ち込まれた所だった。

 七度目の歓声があがり次の対戦者がレオンに相対し、二本の木剣が打ち合わされる。危なげなく相手の一撃を受け流すレオンを眺めていると後ろから近づいてくる気配を感じて振り返る。近づいてきていたのはカラにとって身近な人物だった。


「母さん」


 そこに立つのは三児の母とは思えないほど若々しいままのカリン。相変わらず見事な銀髪はカラと同じように三つ編みにされ後ろに垂らされており、カラを産んだ頃より大人びた顔立ちは絶世の美女と言っても遜色ない。


「聞いたわよカラ、貴方を巡る戦いなんですって? これ」

「はなはだ不本意だけどねぇ」

「あらあら、あれだけの男性に想われるなんて女冥利に尽きるじゃない。贅沢な子ねぇ」


 カラの両頬を摘むと意地の悪い笑顔を浮かべるカリン。楽しんでいるのを隠そうともしない母親にカラは溜息をつく。


「娘が困っているのを笑うなんて、悪い母親だねぇ」

「そういうなら早く本命を見つけるのねぇ」

「六歳の娘に何を言ってるんだか…… 」

「恋愛に歳は関係ないわ、大事なのは相性。私とお父さんを見れば相性がどれだけ大切かわかるでしょう?」

「はいはいご馳走様、子供に惚気るのやめてよね母さん」


 カリンが言うように結婚してから喧嘩らしい喧嘩もせず、お互い愛し合っている二人は親類内でも鴛鴦夫婦(おしどりふうふ)として有名である。そんな二人に憧れもするが、未だに男性を恋愛対象として見れないため素直に頷けないカラである。

そんな親子の会話が続く間にもレオンの試合は続き十一人目の対戦者の木剣を空高く打ち上げているところで、また周囲から歓声があがる。


「武術の先生のジークさんから聞いてはいたけど、レオンは強いのねぇ」

「本職は槍だけどねぇ、剣も今の僕じゃ勝てないくらいには使えるよ」

「ふーん、いづれは勝てるみたいな言い方ね」

「当然。今は体格差で負け越してるけど、体格差が無くなれば剣同士でなら僕の負けは無くなるよ」

「あらあら、それじゃあカラは一生レオンに勝てないかもしれないわねぇ」

「な、なんでさ!?」


 信じられないと自分を見る娘に微笑みながら、カリンはカラの頭を優しく撫でる。


「貴方が女でレオンは男だからよ。貴方の身体が大きくなれば、レオンの身体も同じように大きくなる。そして女と男の身体は大人になった時、男性の方が力が強くて大きいわ」

「レオンはそうじゃないかもしれないじゃないか!?」

「お父さんの息子であるレオンが?」


 アークは他の男性と比べても背が高く、体格も細く見えるが鍛えられ引き締まったその身体は並みの男性とは比較にならない膂力をもっている。レオンはそのアークの息子であり既に年上の少年を圧倒するほどの身体能力をもっている。カリンが言う未来になる確率が高いのはカラにもわかった。

 だからと言ってレオンに剣で勝てないことを許容する訳にはいかないのだ。

 何故なら―――


「僕とレオンは対等じゃないと駄目なんだ」


 そう言って駆けていく娘を、カリンは困ったものだと見送るのだった。


 尻餅をついた十三人目の眼前に剣先を突きつけ、レオンは一息つく。

 対戦者達を見ると残っているのはゴドウェルと、なぜかランスもいた。残っているのはその二人だけで他の面々は観戦席へと戻り、家族から冷やかしや(ねぎら)いの言葉を受けている。


「体の疲れは大丈夫なのかレオン?」


 ゴドウェルがレオンの前に立つと聞いてきた。その顔には油断も(あざけ)りも無く、レオンを強敵と認めている。


「優しいんだなゴドウェル」

「ふんっ、負かした時に疲れを理由にされる訳にはいかないからな」

「厚意だけ貰っておく、負けた時に言い訳するくらいなら舌を噛み切ってやるさ」

「そうか、なら手加減はしない!!」


 ゴドウェルは木剣を上段に構えるとレオンを見据える。それに対してレオンは正眼に構えた。

 先に動いたのはゴドウェル。上段から風を斬って振り下ろされる一撃がレオンの頭上を襲うが、レオンはそれを後ろへ飛んで躱すと突きを放ってゴドウェルを牽制する。


「やるじゃないかゴドウェル」

「それはこっちの台詞だ!」


 二人はお互いの技を称賛すると笑い合う。その後は挨拶は終わりだと言わんばかりに、庭を縦横無尽に駆け、木剣を打ち合わせる。それが数度繰り返され互いに相手の隙を見逃すまいとしながら木剣で斬り、薙ぎ、突いていく。

 そしてそんな攻防も終わりを向かえる時が来た。ゴドウェルの横薙ぎの一撃を躱したレオンが足を滑らせ体勢を崩してしまったのだ。それを見逃すゴドウェルではない、すぐさま上段に振りかぶると渾身の力でレオンに振り下ろす。


「もらったぞレオン!!」


 勝利を確信するゴドウェル。しかし必中の確信をもって放った一撃は(むな)しく空を斬る。なぜなら

レオンの足が滑ったのはゴドウェルの隙を作るための嘘。ゴドウェルが上段の振り下ろしを最も得意とすると読んで、それが最も効果を発揮する場面を作り上げ誘導したのだ。

 それに気付かなかったゴドウェルはレオンの思惑通りに動かされ、渾身の一撃を放ったことによって大きな隙の出来たゴドウェルの腹部に、余裕をもってゴドウェルの一撃を避けたレオンによる横薙ぎの一撃が叩きこまれる。


「くそっ!!」

「勝負あり! レオン様の勝利です!!」 


 ゴドウェルの悔しそうな罵声を掻き消すように、今日十四回目になるレオンの勝利がハスラーの口から告げられた。

 

「強かったよ、ゴドウェル」

「嘘をつけ、余裕だったろう?」

「本音を言えばな、だが強かったのは本当だ。誇って良いと思うぞ」

「ちっ、嫌な奴だ。人のプライドを粉々に砕いたうえに上から目線でものを言いやがって。覚えてろよ、次は勝つ!!」

「まぁ頑張ることだ。だが次やるときには私はもっと強いぞ」

「それ以上に俺は強くなってやるよ!!」


 勇ましい捨て台詞を吐いて退場するゴドウェルを苦笑しながら見送ると、レオンは最後の対戦者に向き直る。


「さてお前で最後だなランス」

「よろしくお願いします。レオン兄さん」


 行儀良く頭を下げるランス。レオンはそれに呆れ顔で応えた。


「お前も参加しているとは思わなかったがな」

「カラ姉さんに相応しい男の条件がレオン兄さんより強い男というなら。レオン兄さんは僕が倒すべき相手です」

「そうか、なら倒してみろ。言っておくが手加減するつもりは一切無いぞ」

「望む所です!!」


 そう言ってランスは正眼に構える。それに対してレオンは構えもせずに相対する。


「始めてよろしいですかな?」 


 二人の会話が終わるのを待ち今まで気配を消していたハスラーが、審判の役目をまっとうするため二人に声をかける。


「はい! お願いします」

「ああ、始めてくれ」

「では―――」


 ハスラーは観客席に向き直ると歌劇の役者のように手を大きく広げる。


「それでは! 本日の最終戦の始まりです!! 始め!!」


 そんな芝居がかった仕草のままレオン達に振り向くと上げていた手を振り下ろし試合の開始を告げた。

 そうやって試合が始まってもレオンは正眼に構えたまま、レオンは構えもとらずに木剣の剣先をだらりと地面に向けて持った無防備に見える体勢のまま動かない。レオンのそんな態度に(あなど)られたと思ったのかランスが口を開く。


「僕をなめているのですかレオン兄さん」

「そう思うなら攻めてくればいい」


 ランスの問いに意地の悪い笑みを顔に浮かべてレオンは手招きをする。それを馬鹿にされたと思ったランスは顔を朱に染めて打ちかかろうとするが、それを待っていたレオンがランスよりも速くランスへと迫る。反射的にランスは後ろへ逃げようとするが遅かった。ランスが持つ木剣にレオンの木剣が蛇のように(から)まり、次の瞬間にはランスの手から木剣は離れ宙を舞っていた。

 呆然とするランスの眼前にレオンの木剣が突きつけられる。ランスは悔しそうに俯き、両手を強く握り締めながら今一番言いたくない言葉を搾り出す。


「負けました」


 その言葉を聞いたハスラーが手を高く掲げ決闘の結果を声高く告げる。


「レオン様の勝利です!!」


 観客席からは拍手が飛び、一人で十五人抜きを果たしたレオンに賛辞の声援が送られた。それに応えるように木剣を掲げるレオン。そんなレオンの背にランスは問いかけた。


「最後に僕に使った技はなんですか?」

「別に技と言うほどのものでもない、お前の剣を巻き込んで跳ね飛ばしただけだ。こんなものよほど実力差が無いと成功しない。解るか?」

「僕ではレオン兄さまの相手にはならないと…… そういう意味ですね」

「そうだ――― 悔しいか?」

「…… はい」


 唇を血が出るくらい噛み締めて答えるランスに、レオンは背を向けたまま言った。


「なら強くなれ、私を剣で負けさせるくらいにな」


 そう言うレオンの背中はランスには何倍にも大きく感じられた。だが、だからこそ、その背中を持つ男が強くなれと言うのならば、それに応えたいと思うから。


「はい!!」


 ランスは力一杯の返事をレオンに向かって返すのだ。

 

「レオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!」

 

 そんな二人に向かってレオンの名を叫びながら駆けてくる少女がいた。三つ編みにした銀髪を(なび)かせる姿は二人が良く知る少女のものであるのだが、少し様子がおかしい。

 ドレスを(まと)っていた筈の華奢な身体を包むのは武術を習うときに使う丈夫な布を使った胴着へと変わり、腰には木剣が、手には何故か手袋を握り締めている。


「カラ姉さま?」

「何をするつもりだ、あの馬鹿は」


 ランスは何が起こっているのか分からずにキョトンとし、レオンは嫌な予感しかしないカラの姿に顔をしかめる。

 カラは二人の前まで、というかレオンの前まで来ると手に握り締めていた手袋を振りかぶるとレオンに向かって投げつけた。カラの手から離れた手袋は綺麗な放物線を描いてレオンの顔面にぶつかると地面に落ちる。それを確認してカラは叫ぶ。


「決闘だレオン!! 僕カラ・レティーシア・ミスラはレオンハルト・アルバ・ミスラに決闘を申し込む!!」


最後はカラからのお礼のほっぺのキスで終わるはずが…… どうしてこうなった!?

次回は兄妹対決勃発!! の予定。

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