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従兄弟

「今日の昼食は魚介かい? 奮発したねぇ料理長」

「まぁ今日は月に一度の特別の日だしな、張り切りたくもなるだろう」


 そんな言葉を交わしながらカラとレオンは爽やかな香りの香草をペーストにしたソースが添えられた白身魚のソテーに舌鼓をうち、胡桃が入ったパンを一口大に千切って頬を膨らませる。塩見が少し強いソースは淡白な白身魚とよくあっており、数ヶ月ぶりの海の幸の美味に二人の頬は自然と緩む。

 カラとレオンが住む東部辺境領には海が面した土地がなく、海の幸を手に入れようと思うと海がある港町から海水を入れた樽に魚を生きたまま詰め、馬車で数日の旅をしなければ食卓に上がることはない。数日といっても海に棲む魚にとっては過酷な旅である。道中死んでしまう魚は少なくなく、運搬費用や手間賃を考えるととどうしても値段は元値を大幅に上回る値段となってしまうため、辺境都市で海の幸は庶民には手の届かない高級品となってしまうのが今の現状である。

 二人が座る食卓には同じように、滅多に口にすることが出来ない海の幸に老若男女三十人程が舌鼓をうっていた。

 彼等はカラとレオンの父アークを当主とするミスラ家に(つら)なる親類縁者達だ。今日は月に一度ある親戚一同が会する食事会で、各領地で起こる問題や貴族内にある政界での身の振り方等を親戚一同で話し合い意思疎通するのが目的である。

 カラとレオンも大人達が交わしあう話に耳を傾けるが、現在は平和なもので問題といえば領内でおこる小規模な野盗や自然発生した低位の魔獣の話題が出たくらいで、話は経済面への話へと流れていく。


「先代から行われている、エッツの森の耳長族(エルフ)、ミフレ山脈の髭小人(ドワーフ)との国交の構築はどうなっていますかアーク殿? 彼等との交易が行えれば我等は連合と合わせて三方の国との交流地点となり、かなりの収益が見込めますが」


 一人の壮年の男性がアークに対して発言すると全員がアークを見る。耳長族と髭小人との交易路の建設は先代から行われてきた事業であるため、親戚内での関心も高い。


「使者を送り続けているが両者とも色好い返事は帰ってきていない。使者が生きて帰ってくるだけ先代の頃よりは改善したと言うべきかな」

「なるほど、両者とも我等人族よりも長命種でなにより強い、強行にでて下手にこじらせる訳にもいきませんしな」

「そういうことだ、今後も使者と友好の品を送り続けるしかあるまい、数百年国交が無い者同士だ少しずつ歩み寄るしかないのだろう」


 アークの消極的な意見に皆は文句も言わずに頷く、すぐに結果が出る問題ではないと皆が理解しているのだ。

 そんな中レオンは思ったことを口にする。


「父上、冒険者の中にも耳長族の方がいます。彼等に使者として出向いてもらってはどうでしょう?」


 アークはそんなレオンを微笑ましいものを見る顔で頷く。


「今使者として出向いてもらっているのは彼等なんだよレオン」

「失礼しました」


 己の失態に珍しく赤くなって俯くレオンにアークは慰めの言葉をかける。


「いや、良い意見だったぞレオン。我々はそこに行きつくまでに数十年の時がかかった。お前はそれを初見で考えついたんだ誇っていい。また何か思いついたら遠慮せずに言いなさい」

「ありがとうございます、父上」


 その後は、特に目立った話もなく食後のティータイムが終わると大人達は男性陣と女性陣に分かれ趣味や家族の話に興じている。

 カラとレオンは大人達から離れ、久しぶりに顔を合わせた近い歳の親類との再会していた。その顔ぶれは総勢六人。カラ、レオン、クリスティナ、アリアの四兄弟、他にいるのは整った顔立ちの黒髪の少年と同じく黒髪で気の強そうな少女だ。

 他にも子供はいたが自分達より年長の者ばかりで、そちらは他の場所で集まって顔を合わせている。何人かがこちらを、正確にはカラをチラチラと横目で盗み見てくるが気にしないでおく。

 少年のほうがランス五歳、少女のほうがマリア、クリスとアリアと同じ四歳。共にカラとレオンの伯母であるヴァイオレットの子供達であり従兄妹にあたる。


「久しぶりだねぇランス、マリア。元気にしてたかい?」

「何か変わったことはあったか? 二人とも」

「はい、レオン兄さんもカラ姉さんも元気そうで安心です。また美しくなられましたね。クリスとアリアも相変わらず可愛いよ」

「「久しぶりなのよ、ランス」」

「ありがとうランス。しかし君、そういうところますます父親に似てきたねぇ。そういうことは好きな子が出来た時だけにしといたほうがいいよ」

「なら問題ないです、僕が好きなのはカラ姉さんですから」

「いや、それが問題なんだけどねぇ」

「諦めろカラ。大丈夫だ。いずれランスもお前の本性に気付く」

「どういう意味かなレオン?」


 顔を合わせるたびにランスは今のようにカラに愛の告白をしてくるのだが、カラは子供の言うことだからと軽くお礼を言うに留めておいた。ただ最近は彼の父親の影響なのか、女性への気配りが五歳児とは思えないほど洗練されてきていた。だからと言って自分が心動くことは無いのだが、彼の将来が少し心配になるカラである。それからレオンとは後で話し合う必要性がある。


「お兄様ばかりずるい、私もレオン兄さまとお話したい」 

「ああ、ごめんよマリア」

「別にいいのランス兄さまが気が利かないのはいつものこと、お久しぶりレオン兄さま。クリスとアリアも。カラ姉さま、レオン兄さまに近づきすぎ、離れて」

「…… 相変わらずだねマリア。私には挨拶無しかい? しかし君もレオンが好きだねぇ」

「カラ姉さまは信用できない、いずれ私のレオン兄さまを取っていく気がしてならない。ランス兄さまをあげるから、それで我慢して」

「いや一応兄妹なんだけどねぇ」

「――― マリア、いつ私がお前のものになった?」


 マリアもランスと同じで恋する乙女だ、ただ対象はレオンである。そのためなのかカラはマリアに嫌われていた。伯母から受け継いだ辛辣な口調も相俟(あいま)ってカラの心を抉る。それもこれも子供に悪い影響をあたえる大人がいるせいである。


「よぉ、小さいのが集まって何話してるんだ?」


 悪い大人の登場である。


「出たね、首悪」

「いきなり酷いな!?」

「お久しぶりです、バルタザル伯父上」

「お、おお。久しぶりだなレオン。そ、それでどうしたんだお前の妹は? 反抗期か?」

「反抗期というか…… ははは」


 笑って誤魔化すレオン。はっきり言ってやればいいと思う。子育てもっとしっかりやれよと。ジト目で見上げると壮年の美丈夫の顔が苦笑いを浮かべていた。

 バルタザル伯父とレオンが言ったように、ヴァイオレットはアークとカリンの結婚式からまもなくバルタザルと結婚していた。それからすぐにランスが産まれ、次の年にはマリアが産まれている。結婚した後、バルタザルは生家であるプリスケインの当主となったが主導権はヴァイオレットが握り続け、恐妻家で愛妻家という可笑しくも微笑ましい立ち位置を維持し続けている。

 カラはバルタザルとレオンの手を掴むと、すぐ戻るとランス達に言い残すとランス達から離れた場所へと移動して二人に顔を近づけるように手招きした。三人で円陣を組むような形になる。


「伯父様」

「なんだ? 可愛い姪っ子からそんな風に睨まれるようなことをした覚えはないんだが……」

「ランスとマリアのことなんだけどねぇ」

「二人がどうかしたのか?」

「どうしたもこうしたもないよ! ランスは求愛してくるし、マリアは恋敵として私を目の敵としてくるし、どういう教育しているのさ!!」

「お、おお。なるほど…… だからか。最近二人から個別に恋愛について相談されたんでな、俺の経験談を話して聞かせたりしてるんだが。ランスはカラが好きだったのか、そうか…… 将来二人が結婚する未来があるかもしれないのか――― カラ、お義父(とう)さんと呼んでみ――― がふっ!? ごほっごほっ、な、なにするんだカラ」


 明後日の方向に思考が素っ飛んでいくバルタザルの無防備な腹に、とりあえず渾身の正拳突きを叩き込む。しかし流石に元騎士というだけあって咳き込む程度ですんでいた。


「この親にしてこの子ありってことが良くわかったよ。もうこちらで対処するから、これ以上よけいなことしないでくれないかな!?」

「よ、よくわからんがわかった。――― そうだ、マリアの恋敵ってどういうことだ!? マリアにも好きな相手がいるのか!? カラを恋敵と見ると言う事は―――― レオっ、ン !?」


 カラにどういうことか詰め寄ろうとして屈む形になっていたバルタザルの首筋に、独楽(こま)のような回転から繰り出されたレオンの上段回し蹴りが炸裂して意識を刈り取る。そのまま斜めに崩れ落ちるバルタザルを見ながらカラは溜息をついた。


「面倒くさいことになっちゃったかもしれないねぇ」

「お前が言わなくてもいいことを言うからだろう、それより手を貸せ」

「はいはい、よっ!! お、重たいねぇ」

 

 バルタザルの手を肩に担ぎ上げ、なんとか移動しようとするレオンに手を貸すと二人で苦労しながらもバルタザルを近くの椅子に座らせる。彼はそのまま放置することにして、カラとレオンが残してきた四人の元へ戻ろうと歩いていると何やら騒がしく叫びあう声が聞こえてくる、何事かと喧騒がするほうに歩いていくとランスが年長組の数人と激しく口論を繰り広げていた。カラとレオンは小走りに近づくと両者の間に割って入る。カラがランス側にレオンが年長者側に立つと両者は口論を一旦止めて黙り込んだ。


「はい、双方落ち着こうか」

「なにがあったゴドウェル。年長者として年下の者を怒鳴りつけるなど恥ずかしいと思わないのか?」

「ちっ、レオンか」

 

 レオンに咎められた少年ゴドウェルは舌打ちをするとばつの悪そうな顔をして視線をそらす。少年といっても茶髪を短く刈り込んだ顔は既に凛々しく引き締まり、背丈はレオンと比べても頭二つ分は高い。それもそのはずでゴドウェルは今年で十四歳になり帝国の規定でいえば後四年すれば成人と見做されるのだ。そんな成人間近の少年が五歳児のランスを怒鳴りつけていたのである、しかもゴドウェルは遠縁とはいえ親類の一員、親類の無作法は一族の恥にもなる。いくら身内の席とはいえレオンが咎めたのは当然と言えた。


「それで何があったんだいランス?」


 目に涙を溜めながらも意地でも流すまいと懸命にこらえながら、ランスはカラを見ると事の顛末(てんまつ)を語り始める。

 カラがレオンとバルタザルを連れて離れていってからゴドワェル達が話しかけてきたこと、最初は近況をお互い交わすだけで問題は何も無かったこと、ただカラの話題になってから雲行きが怪しくなり始め、ランスがカラを愛しく想っていることを話すとゴドウェルや周りの面々が無理だのつりあわないだの、売り言葉に買い言葉で口論は激化、先程の場面へと繋がるらしい。

 なんとも幼稚な話である。


「ゴドウェル、なんだってそんなことしたんだい? 君そんなことするような人じゃないだろう?」


 カラが自分より大分高いゴドウェルの顔を上目遣いで見上げると、ゴドウェルとその取り巻きの顔が赤くなる。それを見てカラとレオンは粗方の理由を察すると思った。


 面倒くさい。


 つまりゴドウェルとその取り巻きはカラに気があるのだろう。それで何かとカラと接点の多いランスも同じだと知り、あわよくば諦めさせようと先程の顛末(てんまつ)となった訳だ。そういえば取り巻き達も先程年長組の中でカラをちら見していた者達である。

 

「カラには他に相応しい相手がいると思って言ったまでさ」

  

 他の取り巻きが未だに顔を赤くしている中、逸早く立ち直ったゴドウェルが言う。この時点で大分まいっているカラだったが一応聞いてみる。


「たとえば誰だったら相応しいのかな?」

「そ、それは。た、たとえば俺とかだな」

「ふーんゴドウェルがかい? 参考に聞くけど、どういう基準で決めているのかな?」

「そ、それは。俺は帝国学園での剣技の成績は同年代の中では一番なんだ、他にも精霊魔法の下級魔法だってほとんど習得済みだしさ」


 それを聞いてカラは素直に関心する。

 帝国学園とは帝都にある貴族の子息が通う学園で、帝都中の貴族の子息が一般教養から武術、魔術を教育する場所であり他にも歴史学、医学などの顕位が集まる帝都の頭脳とも言える場所である。そこで同年代の中で一番と言えば帝都の同年代の中では一番ということになる。あくまで帝国貴族の子息の中では、であるが。


「それは凄いねぇゴドウェル」

「だろう!」


 カラが賞賛すると我が意を得たりと言わんばかりに、胸をはるゴドウェル。それを見たランスが悔しそうに手を握り締め俯く。しかし剣技や精霊魔法を使えることが、女性が男性に求める全てではないと思うけれど余計面倒くさくなるので()えて口には出さない。そのかわりに代案を提示するのだ。


「それじゃあ、僕に相応しい人はレオン兄さんより強い人が良いな――― という訳で僕が好きな人はまずレオンに勝ってからにしてね」


 カラの言葉を受けてその場にいた男性陣の視線がレオンに集中する。傍観を決め込んでいたレオンの顔は驚愕で目は見開かれ、次いでカラをジト目で(にら)みつける。

 そんなレオンに決闘申し込みの手袋がそこにいる男性陣分投げつけられレオンにぶつかると床へと落ちた。


妹が欲しければ兄を(私を)倒していけ!!

などとレオンは思っていませんが、次回はそういう展開になる予定。


評価、お気に入り登録ありがとうございます。

意見、感想いつでもお待ちしていますのでよろしくお願いします。


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