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東部辺境領の太陽と月

新章突入です。

 東部辺境中心都市ウォルンタース。

 露天が立ち並ぶ表通りを少年と少女が走っていた。

 少年は太陽の光を反射して金色に輝く少し癖のある髪を肩まで伸ばし、黒のジャケットに金糸で刺繍されたものを羽織り、下には同じ意匠されたズボン。革靴を履いた足は石が敷き詰められて整備された通りを力一杯に駆けている。

 その後を遅れて駆ける少女は揺れるたびに音がしそうなほど真っ直ぐに流れる銀髪を腰まで伸ばし、その上にはレースで作られた赤い花がのったベッドドレスを被り、身体を包むのは赤を基調にして所々に白いレースのリボンがつけられたドレス。動きやすいようにするためかスカート部分が普通のものより短く、膝から下の細い足首が覗いている。

 二人は後ろをしきりに気にして振り返り、問題が無いと確認すると速度を上げる。


「急げカラ!!」

「待ってよレオン!?」

「待てん! 急げ!!」


 二人の歩幅は違う。レオンに対してカラの歩幅は短く、二人の距離は少しずつ離れていく。


「来たぞ!!」

「くっ、いつもながら速い!?」


 レオンの声にカラが振り返ると後ろから二人を追う集団が眼に入った。


「お待ちください、レオン様! カラ様!」


 集団の先頭を走る女性が二人に向けて、叫びながら駆けてくる。その目は血走り、顔には満面の笑みを浮かべ二人の背筋を怖気が走る。


「待たん!!」

「ちょっ!? レオン!!」


 叫ぶとレオンはさらに速度を上げ表通りを疾走する。通りを歩く者、露店を覗く者を軽快なステップで最小限の動きでかわしていく。

 しかしカラはスカートが短くなっているとはいえドレスである。レオンのように人混みを器用に避けて走っているが歩幅も違う。レオンとの距離は徐々に離れていった。


「待って、待ってくれレオン!? 置いてかないで!!」


 泣きそうな声で叫ぶカラにレオンは振り返るが、その目が驚愕に見開かれる。既にカラの横を並走するように先ほどの女性が追いついていたのだ。当たり前といえば当たり前だ。今の自分達と彼女達の歩幅は軽く二倍はある。つまり走る速度も二倍である。


「すまないカラ!!」

「えっ?」


 何を言われたのか分からないっといった顔をするカラにレオンは背を向ける。


「確保!!」

「ヒイッ!? い、嫌ぁあああああああああああああ。レオン!! レオォォォォォォォォォォォォン」 


 女性に横抱きに抱え上げられたカラの悲鳴が聞こえたが、レオンは振り返らない。カラはもう駄目だ。

 そう切り捨てて速度を上げるのと横道から屈強な男性に飛びかかられたのは同時だった。男性の首には黒ずんだ鉄製のプレートがかけられ鈍い光を放っている。冒険者!? 驚愕で一瞬動きがとまる。それが致命的な隙になった。レオンは男性に抱きかかえられ肩に担がれる。抜け出そうとするが腰をしっかり掴まれ逃げられそうにない。 


「悪いな、坊ちゃん」


 男臭い笑顔でレオンに笑いかける壮年の男性。汗と土の匂いがするが異臭というほどではない。男性の言葉でレオンは大体の事情を察する。追跡者は自分達を捕まえるのに冒険者を雇ったのだ。


「今回は冒険者まで雇ったのか……」

「ガハハハハ、おうよ。前回逃げられたのが相当悔しかったみたいだな。冒険者ギルドに依頼があった時はとうとうきたかと皆笑ってたぜ」

「ご苦労様でした。依頼達成は店までレオン様達を連れて戻るまででお願します」


 レオンが諦めて男性の肩の上で力を抜くと、先ほどの女性が小脇に同じく諦めた顔をしたカラを抱えて歩いて来る。


「…… カミラ」

「ふっふっふっ、今回は私達の勝ちですレオン様。表通りに追い込んだ時点で我々の勝ちは決まっていたのです。あっレオン様を捕まえた貴方には約束どおり褒賞金を差し上げますので」

「よっしゃ!!」


 自分を抱えたのとは反対の手を掲げて喜ぶ壮年の冒険者を横目で見ながらレオンはカミラを見る。そうしているうちに男性と同じように首に銅や鉄のプレートを下げた男女が何人か集まり悔しがったり、笑ったりしている。

 

「一体何人雇ったんだ?」

「募集したところ、十人の応募がありましたので全て雇いました。皆さん銅、青銅、鉄の方ばかりでしたのでお安くすみましたよ」

「それでも赤字だろう?」

「いいえ! いいえ!! 我々にとってレオン様とカラ様をおもち――― ゴホンゴホン、レオン様とカラ様の服を仕立てるのは至高の御褒美!! 日々を生きるための栄養剤!! 金銭には変えられない喜びなのです!!」


 今絶対おもちゃと言いかけただろうと思いながらカラとレオンは現在は帝都に本店を構え、分店となった服飾品店【ラズウェル】の店主へと出世したカミラをジト目で見る。カミラの顔は意識がどこかに素っ飛んで恍惚とした笑顔を浮かべていた。

 この熱狂振りから分かるように彼女と彼女の店の店員達のカラとレオンへの接し方は異常で、二人が店に来店する日には店は閉められ、二人を使った人形遊びが始まる。二人は延々続く着せ替え人形へと姿を変えガリガリと心身共に削られるのだ。それから逃れるため何度も二人は脱走して今日のような追いかけっこが展開されるのだが、辺境都市では既に見慣れた光景となり二人が逃げ切るか捕まるかを賭けにしている者達までいる。

 今回は自分達の負けである。それはつまり―――


「さぁ、それでは店に戻りましょうか」


 満面の笑顔を浮かべてカミラ達はカラとレオンを連れて服飾品店「ラズウェル」へと向かうのだった。


 連行される兄妹を見送りながら辺境都市の住人達は、今日も辺境領の小さい太陽と月は元気に輝いていると笑いあう。彼等が元気なのは東部辺境領が平和である証だと皆が思っているのだ。

 カラ六歳、レオン九歳。

 二人は辺境領で皆に愛されながらすくすくと育っていた。


お気に入り登録が50を超えました。

ありがとうございます。

これからも頑張りますのでご意見、ご感想よろしくおねがいします。


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