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父と母の結婚

 東部辺境中心都市ウォルンタースの高台には創世神と精霊を祀る神殿が建っている。

 辺境が開拓されて数百年、開拓当初に建てられた神殿のため歴史は浅いが当時の腕利きの職人達が集められて建造されたそれは一つの美術品といっても良いほど作り込まれていた。

 神殿を支える柱にそれぞれ火・水・土・風とある四大精霊の姿を模した姿が掘りこまれ、壁には創世神話の物語がモザイク画で描かれており、礼拝堂に創世神の石像が鎮座し来る者を迎えている。

 そんな神殿では今日これから辺境伯であるアーク・シュレイ・ミスラの結婚式が行われるため、帝国の要人、辺境領周辺の有力貴族、都市の有力者や豪族が、礼拝堂に並べられた椅子に座り。神殿の外では都市の住民達が今日の主役である花婿と花嫁を一目見ようと集まっていた。

 カラとレオンも例外ではなく、レオンは白で統一された礼服、カラは白のレースを何枚も重ねて作られたドレスを着て、礼拝堂の最前列で叔母であるヴァイオレット、祖母であるエルダと共に座っていた。


「アークの結婚式は二度目だけれど、何度経験しても感慨深いものがあるわねぇ。何故か一回も挙げていない子がここにいるけど」


 ガリィッという歯軋りの音が隣に座るヴァイオレットの方から聞こえたが、聞こえなかったことにして。


「レイナ母上の時もこんなに大きい式を挙げたのでしゅか?」

「これほど大きくは無かったわねぇ、あの時は私の旦那が存命だったからアークも領主ではなかったし、今回は領主の結婚式ということで大々的にやってほしいと街の住人から要望があったみたいねぇ」

「なるほど」

「まぁ、街のほうでは結婚式に(かこつ)けてお祭り騒ぎするみたいよ、要望出してきたのも商人が多かったみたいだし、商魂たくましいこと」

「な、なるほど」

『たくましいねぇ』

『まったくな』


 などと話しているとこの神殿の最高責任者である神官長が現れ、その後ろをアークとバルタザルが歩き祭壇の前で止まる。それを待っていたように鐘が鳴り結婚式の始まりの時を告げた。

 

 鐘が鳴り止むとオルガンの演奏が始まり、それに合わせて声変わりがまだの少年神官達が創世神を讃える祝詞を詠唱し、その後ろでは神官達が念話によって唱和している。

 それに触発された精霊達が、蛍のような火種を振りまき、いくつもの水滴を生み出し窓から射す光を反射して輝かせ、風が色とりどりの花びらを神殿内に運んでくる。

 そんな精霊達の祝福が一段落するとバージンロードに続く扉が開かれ、妖精の仮装なのか背中に透明の羽を着け頭に花輪を被った少女達が、手に持った籠から白い薔薇の花びらをバージンロードに振り撒きながら歩いてくる。

 その花びらが敷き詰められたバージンロードを歩くため、新婦であるカリンがその姿を現すと礼拝堂の中は静寂に包まれ感嘆の溜息や固唾を呑む音が響く、それほどにカリンの花嫁姿は美しかった。

 純白のドレスには真珠が連なるように縫い付けられ光を放ち、頭にはベールを被って顔を隠し、引きずるほど長いそれを先ほどの子供達より年長の少年少女が四大精霊を模した赤、青、黄、緑の色の格好をして持ち、カリンの後ろに従っている。手には白百合で作られたブーケを持ち、ゆっくりとバージンロードを歩いてくる。


『綺麗だねぇ』

『…… ああ』


 カラとレオンもその姿を見て、幸せになるであろう二人を想い嬉しさが込み上げてくるのを感じていた。

 しかしそれ以上に幸せを噛み締めていたのは新婦であるアークだろう。顔の微笑みは崩れていないが嬉しさからか両手が強く握られ震えていた。

 カリンがアークの横まで来ると二人は微笑み合うと祭壇に向き直る。


「それではこれより、アーク・シュレイ・ミスラとカリン・イヴィス・プリスケインの結婚式を執り行ないます」


 二人が祭壇の前にそろったのを確認して神官長が結婚式の開会を告げる。

 その宣言を聞いてカラとレオンは首をかしげた。


『あれ?』

『んん?』

『母さんの名前が違わないかい?』

『そうだな』

「カリンしゃまの名前が違いませんか? エルダお姉しゃま」

「ああ、それはねぇレオンちゃん。未だに貴族間の婚姻では相手の格が合っていないと、くだらない難癖をつけてくる者がいるのよ。カリンちゃんの家はそこらの貴族より裕福な家ではあるけれど貴族ではないし、今は生家とは絶縁中。だからバルタザル君の家に頼んで、カリンちゃんをプリスケイン家の養女としてミスラ家に嫁入りするようにしてもらったの」

「…… なるほど面倒なものでしゅね」

「そういうことを気にする者に限って高位の貴族で、特に目立った能力も無く家柄のみで宮殿に出入りしているような者達です。声をかけられても深入りはしないように」

「本当にねぇ、レオンちゃんも自分の時は気をつけなさいねぇ」

「はぁ」


 自分の番などまだまだ先過ぎて実感は湧かないレオンだったが一応頷いておく。そうこうしている間も式は続き神官長の口から誓いの祝詞が紡がれるところだった。


「アーク・シュレイ・ミスラ。汝はカリン・イヴィス・プリスケインを汝の妻とし、死が二人を分かつまで、愛し共に生きることを誓うか」

「誓います」

「カリン・イヴィス・プリスケイン。汝はアーク・シュレイ・ミスラを汝の夫とし、死が二人を分かつまで、愛し共に生きることを誓うか」

「はい、誓います」


 二人の誓いの言葉に神官長は頷く。


「よろしい、互いにその誓いの印として指輪の交換を」


 神官長に(うなが)されアークの横に控えていたバルタザルが、指輪の入った台座を二人の前に差し出す。指輪をまずアークが受け取り、カリンの左手をとると左薬指へと嵌める。自分の指に嵌った指輪を嬉しそうに眺めてからカリンは指輪を受け取りアークの左薬指に嵌めた。


「それでは誓いの封印を」


 それを聞いてカラとレオンはニマニマと唇を震わせる。隣ではエルダも似たような顔になっていた。

 そんなカラ達には気付いていないのだろう、アークはカリンの顔を覆っていたベールを両手で持ち上げ顎に手を添える。徐々に二人の顔は近づいていき、唇が重なった。


「これにてこの二人は創世神の前で夫婦となった。二人に創世神の祝福があらんことを祈りましょう」


 そう言って神官長が手を打ち鳴らしたのを合図に神殿中の人間が拍手をして扉に向かう二人を見送る。扉を抜け階段に続くテラスに出ると、外で二人の登場を待っていた住民達が祝福の歓声を挙げた。

 それにアークとカリンが手を振っている間に、二人が通った正門とは違う裏門から神殿内にいた貴族の子女達や未婚の女性が我先にとテラスの下へと陣取る。その中にはミナとエマの姿も見てとれた。集まってくる人影が一段落したのを確認したカリンはブーケをテラスから放つ。


「「「「「「「「「「「「「「「「 やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ 」」」」」」」」」」」」」」」」


 裂帛の気勢を上げて少女達がブーケに向かって殺到していく。その光景は餌に群がる獣を彷彿(ほうふつ)とさせ、周りで見守る男性陣が若干ひいていた。

 その(ブーケ)の争奪戦も終わりの時を向かえ、勝者の少女がブーケを英雄が剣を掲げるように高く掲げていた。その周りに敗者となった女性達が崩れ落ち、ある者は地面を見つめたまま動かず、ある者は高く掲げられたブーケを歯軋りしながら見つめている。

 ミナとエマもご多分に漏れず、二人はしっかりと手をつなぎ「あんなものなくても大丈夫っすよ、大丈夫」「そうだね! そうだよね!」などと負け犬の遠吠えを盛大にあげていた。

 そんなミナとエマをなるべく視界に入れないように気をつけながら、アークと腕を組んでカリンは階段を降りていく。

 階段を降りきると屋根無しの豪奢な馬車がまっていた。アークが先に乗ると次にアークの手を借りてカリンが乗り込む。このまま馬車に乗り、ウォルンタースの街中を半日かけてのパレードである。

 その後はミスラ家で祝賀会が夜通し開かれる予定となっており二人は気合を入れなおすとパレードへと向けて馬車を走らせていった。

 

 馬車を見送ったカラとレオンは、ヴァイオレット、エルダと共に家路を走る馬車に揺られていた。


「さてと、私達は先に家に帰って夜の祝賀会の準備よ。と言っても今日の主役はアーク達だし社交界へのお披露目も終わっていない貴方達はお部屋でお留守番だから、今日の仕事はお終いねぇ。お疲れ様」

「二人とも大人しくしていて、偉かったですよ」


 そう言ってレオンの頭を撫でるヴァイオレットはとても魅力的に見えた。何故これで結婚相手が見つからないのか不思議である。


『不思議だねぇ』

『まぁなんとなく理由は分かるが……』


 馬車は途中お祭り騒ぎの住民達の列に足を止められることもあったが無事ミスラ家の館に着く。四人が正門をくぐると、エルダと共に帰ってきていた家令のミハエルと執事のハスラーが出迎えた。二人が並ぶとそっくりであり、髭と単眼鏡(モノクル)の違いがなければ見分けがつかない、それもそのはずで二人は双子らしかった。


「「お帰りなさいませ」」


 声をそろえて出迎える二人。


「はい、ただいま」

「ただいまでしゅ」

『ただいまー』

「ただいま帰りました、留守中何か変わったことは?」


 ヴァイオレットの質問を受けて二人には珍しく困りましたな、といった顔をしてからミハエルが答えた。


「お客様がお出でになっております」

「客? 結婚式がある今日にですか?」

「はい、皆様が館を出られてから来られまして、それからずっとお待ちです」

「それは不味いですね、仕方ない―― アークも不在ですし私とお母様で応対しましょう。よろしいですね? お母様」

「しょうがないわねぇ。それで? お客様は誰なのかしら?」

「それは――― 」

「俺だよ」


 ミハエルが答えようとする前に、館の正門から出てきた壮年の男性が答える。その男性を見て、ヴァイオレットは額に手をあて空を仰ぎ、エルダは扇子で口を隠して溜息をつく。


「…… 陛下」

「はぁぁ、堪え性のない男ねぇ」


 そんな二人を見て、悪戯が成功した少年のようにグローリア帝国第五十八代皇帝クラウス・ヴォルフガング・ソウ・アドラーは笑った。


「久しぶりだなエルダ、ヴァイオレット。カリンは元気か?」


次回で幼児編終了の予定です

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