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女傑の帰還

 三階の高さから落下するアーク。風の精霊を纏っているのか落下速度は少しずつ落ちていき危なげなくレオン達から離れていない芝生の上に着地する。服が所々焦げているが大きい怪我は見当たらなかった。

 それを確認するとレオンはアークに駆け寄ろうと走りはじめる。バルタザルも続く。


「アークお得意の風の精霊魔術か、驚かせるなよ」

「バルタザル兄さん!?」

「父上何があったのでしゅか?」

「レオンもか!? いいから二人共離れろ巻き添えを喰うぞ!!」


 二人を確認したアークが叫ぶが、それを待たずに頭上から拳大の火球が数十発飛んできた。


「おいおいおい!?」

「くっ、レオン!! 私の後ろへ!!」

『レオン!?』


 アークが風のバルタザルが土の精霊に呼びかけ、火球を風で切り裂き散らし土が盛り上がり防いでいく。二人に庇われたレオンと籠の中から見上げたカラは壁が吹き飛んだ執務室から飛び降りるヴァイオレットを見た。身体には紅蓮に揺らめく炎を従え、炎が生み出す上昇気流を操っているのか、ゆっくり悠然と降りてくる。


「ヴァイオレット何事だ!?」

「どきなさい、バルタザル。邪魔するなら貴方も消し炭にしますよ?」


 元々鋭い眼光をさらに鋭く尖らせてヴァイオレットが冷徹に告げる。それに脅しは含まれておらず、ただただ事実を告げていた。邪魔をするならお前も消すと。

 彼女の周囲には先程とは比較にならない熱量を放つ数十本の火槍が展開されており、穂先はこちらを狙っている。驕りも冗談でもない、一本でも体に突き立てば必死の必槍。


「落ち着け、ヴァイオレット! 弟を殺す気か?」

「ええ、それがなにか?」


 明日の天気を語るように軽く返答するヴァイオレット。その異常性にバルタザルの顔が引きつる。


「アーク! お前何やった!?」 

「婚約を取りやめろと言われたので断った」

「…… 伯母上?」

『どういうことだい?』

「貴方は彼女がどのような娘か知っていると思っていましたが――― 私の買いかぶりでしたか?」

「知っていますよ、それを知ったうえで私は彼女と結婚する!」


 そうヴァイオレットに宣言するアーク。レオンとカラは首を捻る。カリンの素性が問題らしいがアークからもカリンからも何も聞いていないので何が問題なのか解らないのだ。


「どういうことでしゅ父上?」

『??』

「…… お前は知らなくていいことだ」

「なっ!? 母上になるかもしれないカリンしゃまのことでしゅよ! 私も知る権利があるはじゅです!」

「…… そうか、確かにそうだな。カリン殿は…… カリン殿はな。皇帝陛下の愛妾だった方だ。つまり皇帝の寵愛を受けていた女性だ」

『「はぁ!?」』


 レオンとカラは同時に驚いた声をあげるとアークを見る。アークは真剣な眼差しでヴァイオレットを睨み、ヴァイオレットは苦虫を噛み潰したような顔をしている。その表情が事実だと告げていた。


「で、では、カラは?」

「皇帝陛下の血をひく御子だ」

『はぁ!?』


 自分が皇帝の血をひく御子だということに驚くのと同時に、皆の苦りきった顔の理由が分かってくる。そして今現在酷く面倒くさいことになっているのが理解できた。

 レオンもカラと同じ考えに到るが、それでもアークを庇うようにヴァイオレットの前に立つ。


「伯母上! とにかく矛を収めてくだしゃい」

「愚弟の返答次第です。婚約を破棄しますかアーク?」

「しないといってるでしょう姉上、自分がいき遅れているからといって弟の結婚にまで口を出さないでもらいたいですな!!」

『あわわ』

「うわぁ」

「…… ア、アーク、お前正気か!? 殺されるぞ!!」

「ヴァイオレット様になんてことを!? 弟君とは言え許しませんよ!! ヴァイオレット様はいき遅れていらっしゃる訳ではありません!! ふさわしい殿方がまだ現れていないだけです!!」


 アークの暴言にカラ・レオン・バルタザルは固まり、今まで黙って静観していたアイラが爆発した。言われた当人であるヴァイオレットは満面の笑顔だが額に青筋が何本も立ち、今にも破裂しそうになっている。

 これは召集つくのか? と全員が頭を抱えそうになっていた時声がかけられた。


「あらあら楽しそうねぇヴァイオレット、アーク」


 そう言ったのは豪奢な赤いドレスを纏った貴婦人だった。アークとヴァイオレットと同じ赤い髪を縫い上げ四方に垂らし、金色の瞳は笑みの形をかたどっているが瞳の奥は笑っていない。肌には皺一つ無くほくろがあるかさえ疑わしい。

 後ろにはハスラーに似ているが、綺麗に整えられた髭を生やし燕尾服を着た男性を(とも)なっている。その姿を見て姉弟の顔は嫌な相手が来たと歪み、レオンやバルタザルの顔は安堵に変わる。

 

「…… お母様」

「…… 母上」

「お婆様、お久しぶっ―――!?」


 お婆様と言った瞬間レオンと貴婦人の距離は零となりレオンは両手で頭部を鷲掴みにされる。徐々に腕の力を増していきながら貴婦人はにこやかに笑う。


「だめよぉ、レオンちゃん。以前にも言ったでしょう? 私のことはエルダお姉さんって呼びなさいね」

「わ、わかりましゅた。エルダお姉しゃま」

「ん、よろしい。それで貴方達、庭で精霊魔術の練習でもしているの? アークが結婚するというから遠路はるばる帰って来たのだけれど…… 私の勘違いだったかしら?」


 ヴァイオレットが諦めたように火槍を消して溜息をつく。


「全て知った上で帰ってこられたのでしょうお母様? それでどちらの味方なのですか?」

「相変わらず聡いわねぇさすが私の娘。だけど聡い女は殿方に嫌われるわよ? ああ手遅れだったわねぇ、貴方本当に私の娘?」


 明らかに侮蔑を含んだその一言でヴァイオレットの顔が先ほどに増して青筋が立ち、端正な顔立ちが鬼の表情へと変わる。見ていられなくなったバルタザルが割って入る。


「あの、お久しぶりですエルダ様。その辺で止めてやっていただけませんか?」

「あらプリスケイン家の坊ちゃんじゃない、お久しぶり。貴方も未だにその子に振り回されてるのねぇ、もうくっついちゃいなさいよ貴方達」

「お母様!! 今は私の話ではなくアークの話をしているんです!! 私の計画が全て無駄になるのですよ、陛下に知られれば当家がとり潰される可能性もあります」

「うるさいわねぇ、ハスラーから全部聞いてるわよ。陛下には私から説明しておくから安心しなさいな。あの男には貸しがそれはもう両手じゃ足りないくらいあるんだから。片手分にしてやるとでも言えば渋々納得するでしょうよ」

「なっ!?」

「本当ですか母上!?」

「本当よ、はいこれで解決」


 パンパンと手を叩いて場を占めるエルダ。そして歯を見せてニヤリと笑う。


「それじゃあ、花嫁を見せてくれるかしら?」


次回は結婚式の予定。

これが終わったらやっと主人公パートに…… 入れるはず!!


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