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婚約後のミスラ家

 ミスラ家は急遽決まったアークとカリンの婚約によって、毎日が慌ただしく過ぎていた。

 そんな中でも暇を持て余していたのがカラとレオンである。二人とも幼い子供ということで手伝うことも無く、忙しく動き回る人々を眺める日々が続いていた。

 今日も今日とて部屋に(こも)り続けるのも飽きてきたので、カラと庭にでも出ようと思い声をかける。


『部屋に篭りきりもつまらないだろう? 庭にでも出ないか?』

『頼むよ。今の僕は寝返りくらいしか出来ないからねぇ、自由に動けないのがここまで苦痛だとは思わなかったよ』

『ああ、私も経験したから解る。さて侍女(メイド)に手伝ってもらいたい所だが、今の館内の忙しさを考えると私達の我侭で振り回すのは申し訳ないな。仕方ない、ベガを呼ぶか』

『ベガ?』

『ああ、普段は庭の奥にいるんだが念話で呼べば来るはずだ……… よし気付いたな』

『??』


 暫くするとカラ達がいる部屋の扉がノックされる。ただノックされた場所が異様に低かった。


「来たな」


 レオンはベッドから立ち上がり扉を開ける。開いた扉の隙間から顔を出した銀色の毛むくじゃらのそれを、カラは最初犬だと思った。しかし全身が部屋に入ることによってそれが間違いだと気付く、犬より大柄にすぎるのだ。軽く牛程の大きさはある。


『狼!?』

『違うな。狼に似ているが大きさが一回り大きいだろう? これは獣から突然変異で産まれる魔獣という種らしい。知能も普通の獣よりあって私なら念話で簡単な意思疎通くらいはできる。他の獣からも産まれるらしいが――― 私はこいつしか見たことはない』

『なんでそんなのがこの館にいるのさ!?』

『私の誕生日祝いにと、辺境都市にある冒険者ギルドの長がまだ子狼だったこいつを贈ってきたらしい。子狼の頃から躾ければ良い番犬になると言ってな。もらった時は父上も困ったようだが、母上がいたく気にいったらしくてな獣使いを雇って躾けていた。その過程で獣使いが使う念話の存在に気がついてな、錬度が低かったのか駄々漏れでどういう仕組みか良く解ったのには助かった』

『僕この館に来て暫く経つけど一度も見たことないんだけど?』

『普段は侍女達が怖がるからな、庭の奥で過ごすように言ってある。今日は………まぁ大目に見てもらおう。さてちょっと待っていてくれ』


 レオンはそう言うと部屋から出て行ってしまう。部屋にはカラとベガと呼ばれた銀狼の魔獣が残された。カラがベガを見ると彼も興味深そうにカラを見ている。


『こ・こんにちはぁ』


 念話でベガに挨拶してみると、ベガはカラの近くによると口を近づけてきた。喰われる!? 本能的な恐怖で逃げようとするがまだ寝返りしかうてない自分には無理な話で。カラの顔の前でズラリと鋭い牙が並んだ口が開かれた。

 次の瞬間ザラリとした感触がカラの顔面を下から上へとのぼっていく。それはベガの大きい舌がカラの顔面を舐めあげたもので、それは続けて何度も繰り返される。


『うひぃ、や・止め、止めて!?』


 止めるように念話で叫ぶとベガは叱られたように一歩下がると耳を寝かせて上目使いで見上げてくる。なにこの可愛い生き物!?


『怒ってないよ~、大丈夫だよ~』


 そう言うとベガは嬉しそうにカラに鼻先を押し付けてきた。それが可愛かったので手を伸ばして鼻上を撫でてやると嬉しかったのか、さらに押し付けてきた。しかしそれは赤ん坊の身体の体重に対して強すぎて強制的に寝返りをうたせられる。


「あぶ」


 突然うつ伏せにされた衝撃で口から声が漏れる。それが面白かったのか、ベガはカラを左へ右へとコロコロ転がし始めた。本人は楽しいのかもしれないが、されるほうは中々に大変でくるくると目が回る。抵抗はするのだが力が違いすぎてどうすることも出来ない。


「あふ」

「ふあ」

「あび」

「ふひゃ」

 

 そんな攻防を続けていると、レオンが赤ん坊が入りそうな大振りの(かご)にクッションを敷き詰めて戻ってきた。


『…… 何してるんだ?』

『助けてレオン!?』

『…… ベガ、そのくらいにしておいてやれ』


 レオンに言われてしぶしぶといった風に下がるベガ、タイミング悪くうつ伏せの状態で置かれたので息が出来ない。

 

「むーむー」


 手足をバタバタと動かして戻ろうとすけれど、なかなか上手くいかない。四苦八苦しているとレオンが助け起こしてくれた。


『…… 本当に何をしてるんだお前は?』


 籠をベッドに置きながら呆れた口調で言ってくる。これでも必死なのだ、そんなこと言われても困る。


『うう、ひどい目にあったよ』

『…… まぁ良い、籠に入ってもらうぞ』

『?』

『ベガに銜えて庭まで運んでもらう』

『!?』


 有無を言わさずカラは籠の中にころがされ毛布をかけられる。次の瞬間には籠の吊り紐をベガが銜えて軽々と持ち上げられる。そのまま階段を降りて正面玄関を出ると丁度来客が正門にあったところだった。

 客人は長身の燃えるような赤髪の女性を先頭に同じく長身の黒髪をオールバックにした男性と黒髪をセミショートにした女性の三人組で侍女の一人が応対している。

 レオンは正門まで歩くとベガに止まるように指示して客人に一礼する。


「ようこしょいらっしゃいましたお客人。当家の嫡男レオンハルト・アルバ・ミスラと申しましゅ。当家に御用でしゅか?」


 侍女と客人の後ろ二人はベガに驚いて身がまえていたが、先頭の女性は特に気にする風もなくレオンを興味深そうに眺めていた。


「なるほど、手紙で聞いてはいましたが確かに利発そうですね。将来が楽しみです」

「私を知っているのでしゅか?」

「ええ、アークから何度も手紙で自慢されましたからね」


 レオンに目線を合わせるために女性は屈むと微笑んで頭を撫でてくる。それは気付かないほど自然な動作で驚愕する。いつ頭に触れられたかわからなかったのだ。気を抜いていたとは信じられなかった。


「おや…… もう武術の訓練をしているのですか? 精進するのは良いことです。驕らずに励みなさい」


 一瞬体が硬直したのを気取られたのか、そんなことを言われた。この女性は尋常ではない。


「ところでレオンハルト、父君は在宅ですか?」

「は、はい、父上なら執務室にいると思いましゅが」

「ありがとうレオンハルト、バルタザル、アイラ。二人はお茶でも出してもらって待っていてください、私はアークと少し話をしてきます。メイ頼みましたよ」

「はい、ヴァイオレット様」


 茶髪の髪を三つ編みにした、そばかすが可愛らしい侍女のメイが返事をするとヴァイオレットは館の中に早足で入っていくと見えなくなってしまった。


『誰?』

『………… あっ!? 確か父上の姉の名前がヴァイオレットだ』

『ああ、なるほど。それじゃレオンの伯母様だねぇ』

『じきにお前の伯母にもなる』

『ふふふ、そうだねぇ』


 そんなことを念話で語りながらヴァイオレットを見送って、レオンは残された客人の二人に向き直る。バルタザルと呼ばれた男性は興味深そうに、アイラと呼ばれた女性には睨まれた。何故?


「ふーんアークの息子かぁ、あいつの息子がこんなにでかくなってるんだ俺も歳をとるわけだ」

「父上とお知りあいなのでしゅか?」

「ん? ああ、俺はヴァイオレットとは、あ~っと、アークの姉でお前の伯母さんとは幼馴染でなアークとは子供の頃によく遊んだもんだ」

「しょうなんでしゅか」

「ところでレオンハルト…… だったか? どこかにいくつもりだったんじゃないのか? 籠に入ってるのなんだい?」

「はい、庭に出ようと思っちぇいました。籠の中は今度私の妹になる赤ん坊が入ってましゅ」

「へぇ… なるほど、それじゃあ俺達も一緒してもいいかい? 確かテラスがあっただろう、そこで話さないか? ということでお茶はそこに頼むメイさん」


 バルタザルはそう言ってメイに片目をつぶって微笑むとレオンとカラが収まった籠を銜えたベガと一緒に庭に面したテラスへと歩いて行く、アイラもそれに続いた。

 テラスにあるテーブルにつくとレオンはベガにカラが収まった籠を椅子に置かせて自分の足元に伏せさせる。バルタザルはベガを見て感心した。


「良く馴れてる、よっぽど腕の良い獣使いが調教したんだな」

「そうでしゅね、赤ん坊の頃から一緒にいるので兄弟のようなものでしゅ。ところで叔母上が帰ってくるとは、聞いてはいなかったのでしゅが、何かあったのでしゅか?」

「ああ、それは――― 」


 バルタザルがレオンの問いに答えようとした時、館の三階にある壁の一部が爆音と共に吹き飛んだ。材木や屋根瓦の破片が庭に落ち、それを追うように人影が落ちてくる。


「な・なんだぁ!?」

『何!?』

「あ、あしょこは執務室!? 父上!!」


 落ちてくる人影はアークだった。


ほのぼのするはずが…… どうしてこうなった?


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