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夜の向こうのプロジェクト  作者: 冬馬美沙
第1章 出会いと発見
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第2話 彼女は何者?

 ゴルフコンペから数日後、黒田はシステム部の管理職たちを会議室に集めた。


 議題は、入力後の画面反映が遅いという現場の相談だった。


「問い合わせとしては、以前から何件かあります。画面の再読み込みや再ログインで、その場は解消するケースが多いようです」


 システム部長の佐々木が資料を示す。


「同じような相談が繰り返されているのに、根本的な原因はまだわかっていないんだな」


「はい。問い合わせがあった時点で画面が反映されれば、対応完了として記録しています。特に午前中に発生したという記録が複数ありますが、現場の作業の流れまでは確認できていません」


「実際にどんな使い方をしているのか、見せてもらう必要がありそうだな」


 黒田は、コンペで夏美と話したことを思い出した。


 夏美は、黒田の会社に常駐する大手ベンダーのチームリーダーだ。五人ほどのメンバーをまとめ、自社製品やインフラの運用・保守を担当している。社内では係長相当の役職だと聞いていた。


「森咲さんたちの会社は、今回のシステム製品の提供元なのか?」


「いいえ。製品の提供元は別の会社です。森咲さんたちは、自社製品やインフラの運用・保守のために常駐しています」


「では、今回の件はどこまで相談できる?」


「森咲さんのチームが製品そのものを調査したり、改修したりするわけではありません。ただ、こちらで困りごとがあると相談に乗ってくれますし、森咲さんから『何かお困りのことはありませんか?』と声をかけてもらうこともあります」


 佐々木は、別の資料を開いた。


「担当しているインフラの負荷状況や、確認できるサーバー・ネットワークのログを見てもらったり、業務処理のタイミングをこちらと一緒に整理してもらったりできます。製品側に問い合わせる必要があれば、調査情報をまとめたり、関係するベンダー同士の役割分担を調整したりすることもあります」


「製品の提供元に確認する前段階を、支援してくれるわけか」


「そうですね。以前、別の不具合があったときも、森咲さんがこちらの担当者と状況を整理して、対応方針を話し合う打ち合わせに出席してくれました。担当範囲内の調査はチームのメンバーと分担していましたが、範囲外の課題については、森咲さん自身が切り分けや関係者との調整を支援していました」


 黒田は、資料に目を通した。


「今回も、まずは現場の作業と、システム側で確認できる記録を突き合わせたい。森咲さんに相談して、ヒアリングに同席してもらおう」


「承知しました。システム部からも担当者を出します」


「現場でどんな作業をしているのか、こちらも一緒に確認しよう。原因を決めつけるのは、そのあとでいい」


「わかりました」


 会議が終わり、管理職たちが資料を片づけ始めた。黒田は佐々木に声をかけた。


「森咲さんとは、私も直接話したい。日程を調整してくれないか」


「承知しました。田辺さんを通して確認します」


 黒田は会議室を出ながら、コンペでの夏美を思い返した。


 スコアはともかく、会話の中では、相手の話を聞きながら自然に問いを重ねていた。


 その彼女は、チームをまとめ、担当外の問題にも自ら関係者との打ち合わせに加わり、解決に向けた調整を支援している。黒田は、現場の状況をどう整理するのか、実際に見てみたいと思った。


 その日の夕方、田辺から夏美に連絡が入った。


『黒田さんから、入力後の反映遅延について相談がありました。システム部の方も参加して、現場の方にヒアリングすることになりそうです』


 夏美はチームの予定を確認してから返信した。


『承知しました。現場での作業の流れと発生する時間帯を確認できるとよさそうですね。こちらで確認できるインフラの状況やログも、あわせて整理しておきます』


『わかりました。日程を調整します』


 夏美はメッセージを閉じ、チームのメンバーに声をかけた。


「入力後の反映が遅れる件で相談が入りました。まず、こちらの担当範囲で確認できるインフラの負荷状況やログを整理しておいてください。製品側への確認が必要かどうかは、現場の話を聞いてから判断します」


「わかりました」


 メンバーたちは、それぞれ確認項目を整理し始めた。


 夏美は自分のメモに、現場の操作手順、発生する時間帯、反映までにかかる時間、業務処理のタイミングを書き出した。システム部が把握している業務上の情報と、チームで確認できるインフラの負荷状況やログを並べれば、次に確かめるべきことが見えてくるはずだった。


 担当外の製品を直接調べることはできない。それでも、周辺の状況を確認し、調査情報を整えて、関係者が次の対応に進めるよう支援することはできる。


 コンペでの出会いをきっかけに、黒田は夏美の役割を知った。


 今度は、現場の困りごとを一緒に確かめる番だった。


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