第八話 「地区」
まず四人は書籍店に立ち寄った。
本を購入するお金を持っていないので、目ぼしい本を見つけたら千宙が記憶してどこかの紙に書き写す模写作戦だ。やっていることはほとんど泥棒と変わらない。
「あったよ!ちっち!」
「この第一層の地図か。よし、貸して」
早速千宙は本を隅々まで見始める。
「こんなことするくらいなら、隠れて持って行っちゃいましょうってー。僕らがやってることほとんど泥棒と変わんないですから」
しかしそれは成未が頑なに許さなかった。たまに街の書籍店にいる、立ち読みは堂々とするがその本を万引きすることはしない臆病者と同じ類だ。
本当は立ち読みさえ嫌悪感に溢れる成未だったが、つべこべ言ってられないことは理解しているのでせめてもの妥協案がこれに落ち着いたという経緯である。
次に週刊誌を見つけた。
しかし手に取った週刊誌はかなりくたびれており、とても最新の情報を語っているとは言い難い骨董品に成り果てていた。
中には『女神からの挑戦状か、聖女からのギフトか!?徹底調査、破廉恥おパンーー』千宙はそこまで読んだ時点で、勢いよく誌面を閉じた。
「最低だ」
「最低です」
「最低」
「え!続きは!?」
思春期男子の雅博には是が非でも続きが気になる代物だったが、続きを見るのと引き換えに仲間からの信頼を失うことは容易に想像できたので彼はそっと本を置いた。
というわけで本屋での調査は一旦終了。忘れないうちに千宙は記憶していた内容を紙に書き出した。
彼女は地図を書き記した。
今いるのが《プレーリュド地区》。プレーリュドと隣接している地区は全部で三つ、全て同じ方角にあるが反対側のどの地区とも繋がっていない地区の縁側に、今朝入ってきた地上への大穴がある。
各地区はトンネルを通って移る地区もあれば、隣接しており地区境が設けられている地区もある。プレーリュドから出る地区も同じ様に、トンネルを経由する地区もあれば地区境によって隔てられている地区もある。
ここで全員の目に留まるのが地底政府の本拠点がある《カデンツァ地区》、ここは注意した方が良いだろうと千宙は意見した。
カデンツァは、第一層にある全ての地区と隣接するよう配置されているが、唯一今いるプレーリュドはカデンツァと隣接せず、間に《インタリュード地区》がある。プレーリュドが最果てで、他の地区と比較して少し離れた位置にあるのも原因だと推察できる。
さて、地理情報はなんとか叩き込んだが、まだ何かと勝手がわかっていない気がする。
せっかく見つけた週刊誌も変態編集者が地底にいるというゴミみたいな情報しか齎してくれなかった。
ここでコーヒーを飲みながら一服したいが、残念なことに彼らはお金を持っていなかった。正確にはさっき未巴琉が拾い上げた銅貨一枚のみ。
地上でも銅貨一枚でできることといえば、口直しにしかならないようなキャンディを買うことしかできない。到底これで、四人分の気分転換ができるはずもなかった。
盗みをする訳にはいかず、お金を稼ぐためには働くしかなかった。どこか人当たりの良さそうな店主を見つけて、食べ物を恵んでもらうか働かせてもらうしかない。
今後のことを考えると後者の方が何かと都合が良さそうだが、果たしてそんな都合良く雇い主が見つかるだろうか。
すると待ってましたと言わんばかりに未巴琉が声を上げて、私に任せてくださいとずかずか歩き出した。
こうなると未巴琉を止めることはできないので、三人は半信半疑のまま未巴琉に付いていくことにした。
すると、未巴琉の目がキラリと光る。ターゲットを見つけたようだ。
彼女はまさかの、声に「きらり」と出してある露店に向かって突き進んだ。千宙達は、相変わらずこの不思議ワールドには......と少し離れた所で傍観するが、その思いとは裏腹に意外にも交渉は進んでいるようだ。
一分二十秒ほどだろうか、話していた未巴琉が戻ってきて満遍の笑みでこう話した。
「雇ってくれるみたいです!」
三人は初めて未巴琉のキャラクターに感謝した。




