第七話 「出発」
ミュリエムの家の玄関に、四人の姿とそれを見送ろうとするミュリエムの姿があった。
四人はミュリエムの家にあった洋服に身を包み、無防備な寝巻きから開放された。その姿を見るミュリエムの表情はどこか寂しそうだ。
身に纏った服はあまり見慣れないデザインと触り心地で、地底特有の織り方なのだろうかと感じる。
「サイズ合ったかしらね?もう少しゆっくりしていけば良いのに」
しかし千宙達が今置かれている状況を考えるとそういうわけにもいかない。一刻も早く地上に戻らなければいけないのだ。
ミュリエムに礼を言って家を後にした。ミュリエムは、彼らの姿が見えなくなるまでその背中を見守り続けた。
広大なミュリエムの畑を、さっき歩いてきたトンネルがある方角とは反対方向に進んでいく。
畑には根菜類やトマトなどの果菜類もある、色とりどりの畑だ。
結局、家を出るまでにシチューを食べた三人の体には異常が起きなかったので、ミュリエムの出した食事はきっと安全だったんだろう。
千宙は少し損をした気分に陥るが、すぐに気を取り直して先に進んでいく。
それにしてもこのメンバーの再会は、中学の卒業式ぶりだろうか。成未は今でもその時の写真を部屋に飾って、時折その思い出に浸るようだ。
確かにあの時は本当に楽しかった。
千宙も、まだ自分が魔法の才に恵まれていないと本格的に悩むことなく毎日を能天気に過ごせていた事が、思い返せばこの上なく幸せな日々だったと感じる。
そしてその幸せは、このメンバーが与えてくれたのだ。
「あの頃から遥実先輩は本当に人騒がせでしたよね。いっつも会議中に話の腰を折って、星導先輩に怒られてばっかりで」
「でも私はそういう遥実先輩の型破りなところが結構好きだったけどね。千宙先輩もそうでしたよね?」
「私はそんな事ないよ!卒業式の日も盛大に答辞のセリフ間違えるし、ほんとに困ったもんよ」
思い出話に花を咲かせていると、いつの間にかミュリエムの畑を抜けて何もない荒野が広がっていた。
その少し先に、建物が並んでいるのが千宙達の目に入る。人が住んでいる街だと聞き込みができて助かるなという期待を胸に足を進める一行。
そんな期待を胸に秘めつつ、千宙から改めて三人に釘を刺した。
「街に入っても、むやみやたらに自分が地上人であることは広めない!あくまで私たちの素性は秘密にすること」
時には素性を明かすことで情報収集がしやすい状況もあるが、基本的には自分たちの素性を明かすことの方が危険だと千宙は判断したのだ。
そして次に収集する情報についてだ。
まず優先すべきは遥実の居場所に関する情報だが、そもそも遥実がこのUnderworldにいるかどうかも確実ではない。
「でも私たちは全員はっちの夢を見てるわけじゃん?ちっちもそうだし、はっちが私たちにメッセージを送ったって考えるとやっぱりUnderworldにいるのは確かなんじゃない?」
確かにそれは無視できない事象だと千宙も納得するが、偶然という可能性がゼロではない以上、それを鵜呑みにするのも危険だ。
そこで千宙は情報の優先順位を提案した。
もちろん遥実の居場所に関する話は逐一記録して共有する必要があるが、その他にもこれからUnderworldで活動する上でこの世界の情報をインプットすることも重要だ。
ということで四人は、遥実の情報も重要だがまずは優先的にUnderworldの情報収集を行うことにした。
Underworldの情報を収集していけば遥実の情報も同時に手に入る可能性があるので、効率重視で動きたいのも一つの理由だ。
そして街に到着した一行。
四人の期待は見事的中し、街ではたくさんの人たちが生活をしていた。
ミュリエムを見てもわかったが地底人は地上人と見た目に変わりはなく、言語や文明レベルなども全く一緒のようだ。
「あれ?先輩、これ......」
少し街を歩くと未巴琉は落ちていた硬貨に気がつく。それは地上でも通貨として流通している銅貨だった。
どうやら通貨なども同じようで、本当に地上から断絶された世界なのかと疑うレベルだった。
これなら情報収集もしやすいだろう。事前に決めた通り、早速Underworldのことから調査開始だ。




