第六十六話 「サギッタ国」
イシューとドレシアがA-ウルサ国を目指す旅でジェミニ国を出発してから五日目。二人はプトレマイオス大通りを北に歩き続けていた。まだまだ目的地への旅路は長そうだ。
プトレマイオス大通りは大陸の中で最も巨大な主要街道で、人が横に四百人は並んで歩くことができる程の道幅だ。
魔法車や馬車だけでなくドレシア達のような歩行者も多く行き交う通りで、この大通りが四十八の国に通じていることから物流や観光など多くの目的で使用される。
ドレシアとイシューは現在サギッタ国を歩いていた。
「つーかーれーたー、休憩しよ!きゅーけー!」
確かに食事や寝床は立ち寄った国でしっかり取れているとは言ったものの、五日間日中はぶっ通しで歩きっぱなしなので流石のイシューも疲れを感じていた。
「魔法車とか借りてこられなかったのかよ?王室にいくつも余ってるだろ?」
「あたしじゃ魔力ないから運転できないもん。イシューは運転下手くそだし」
「は!?俺は運転上手いわ!エリダヌスからケンタウラーまで、車内に立てたコップを落とすことなく運んだんだぜ?」
「それ魔法車じゃなくて馬車だったじゃん。ってか、逆に馬車の方がすごいんだけどね」
そんな話をしていると、サギッタ国とアクイラ国の国境に到着した。
この五日間で二つの国境を通過して、いずれもドレシアがエリダヌス国の王族だった為に入国証なく通過できた。
しかしここでは思っていたような反応は返ってこなかった。
「ダメだ、アクイラ公認の入国許可証がないと入国は許可できない」
「なんでよ!私はエリダヌス国の王女ドレシア・エリダヌスよ」
「それを証明するものは?」
「うっ」
その後も何度か押し問答を繰り返したがやはり通過することはできなかった。
なんでも、検問官の言い分としては「王族がこんな軽装で護衛もつけずに公務で来るなんてあり得ない」という至極真っ当なご意見を振り翳した。
なかなか検問官が折れないので二人は一度諦めて国境を離れる。
「軽装な王族だっているでしょ!?私の威厳がわからないのかしら!?」
ドレシアはご立腹だがいくら喚いても状況を変えることはできない。A-ウルサ国へ向かう為にはアクイラ国を通過しなければいけない。
他のルートでも行けないことはないが、大陸連合非加盟国を経由しなければいけないのであまり立ち入りたくないのが本音だ。
「仕方ねぇな。アクイラの入国証は金さえ払えば買えるからサギッタでなんか仕事もらって買おうぜ。もう手持ちの立替金もないしな」
「えーこんなに疲れてるのに働くのやだー!」
駄々をこねるドレシアを引き摺って、イシューはサギッタ国の一番近い街に戻った。
サギッタ国は人口六万人ほどの小国で国土もそこまで広くない。
イシューも魔法が使えるので手早く人助けをして報酬がもらえそうな仕事を探すことに。
近くの街に入ると、住民達が普通に生活していたので片っ端から話しかけて仕事を求めて探し回る。
すると七人目に話を聞いた三十代後半くらいのお団子ヘアが特徴的なご婦人が、息子の家庭教師をしてほしいというのでその話を引き受けることにした。
条件も良く、一週間後の試験で赤点を回避できればその分の食事と住まいはタダ。さらにそれとは別で成功報酬もなんと五十万スピカ支払うそうだ。
アクイラの入国証は三万スピカで購入できるので、イシューは額面を聞いて即答。特に学があるイシューにはうってつけの仕事なのでそれを引き受けて、ドレシアは別の仕事を探しに愚痴を言いながらもう一度街へ繰り出した。
「本当に良いのか?寝床と食事まで、二人分だぞ?」
「大丈夫よ、ただしあの子が赤点を取った時は二人分の生活費と家賃として十万スピカ請求するからね」
ローリスクハイリターンなどこの世には存在しないと思い、その話を受けることに。
早速イシューは子供部屋へ向かう。
試験は一週間後だが、今日は既に午後四時を過ぎているし勉強は明日からにして挨拶だけしようと思った。
家は一階建ての平家なので階段を使う事なく部屋に行けるが、婦人に言われた部屋に入るなりイシューは部屋を間違えたと思い咄嗟に扉を閉めた。
しかし中にいた男は部屋の中から「間違えてないよ」とイシューを再び中へと誘い込んだ。
イシューは心の中で、本当に入るのを間違えたのは部屋ではなく仕事先だったと後悔を滲み隠した。
「今年の家庭教師さん?僕の名前はイデオ、よろしくね」
「お前、何歳......?」
「三十一歳(二十七留中)」




