第六十五話 「同舟」
『ドラゴン』歴史の教科書と空想世界にしか登場しないその単語が三人から一気に現実感を奪い去った。
しかしアレクシアとドレシアは、一週間前にドラゴンの話を聞いている。アレクシアに至っては過去を含め二度も実際にその姿を目に留めている。
「ドラゴンって......冗談ですよね?」
アレクシアから話を聞いた時とは打って変わって半ば笑い混じりで問いかけるドレシアだが、カインの表情は至って真剣だった。
ドラゴンは天空の管理者発足時のA一年よりも遥か昔に絶滅した古代生物。普通の考えでは、今の時代に生きているはずがないとされる生き物だ。
ドレシアはアレクシアからついこの間聞いた話とは別で、子供の頃にドラゴンに会ったことがあると言う話も聞いている。
「信じる」そう言ったものの、信頼をおいている姉の話でさえドラゴンの存在を完璧に信じることができていなかったドレシアにとって、更に目を背けたくなる父の死という話においては余計に信じることができなかった。
「ドラゴンが関係していると思ったのはその切れ端の断面だ。初めはドラゴンではない別の獣のような生き物に切り離されたと思った。しかしその断面には現存しているどの生命体にも合致しない魔力が付着して、明らかに魔法で切断されたものだと分かる。だからドラゴンと断言するのは早計ではあるものの、歴史上で人間以外に魔法を扱う生き物がドラゴン以外には存在しないという点でその結論に至った」
「まだ解析中なのですか?」
アレクシアが質問するとカインはそれを肯定した。しかしそれは、兵服を切り離したのがドラゴンの仕業であるということを否定もしくは保留にしていることと同義だった。
もうドラゴンの仕業であると断定するのであれば追加の鑑定は必要ないはずだ。
しかしそれでも鑑定を続けている理由を、カインはドラゴンだと断定できない別の理由があると説明した。
「魔力が人間に近いんだ。正確には、その魔力は不定期に魔力の質が変わる。ある時はドラゴンの魔力になるがある時は人間の魔力になる。だからドラゴンが兵服を切り離したと断言することができないんだよ」
人間とドラゴンの魔力にそれぞれ変質し続ける。何とも不思議な現象に二人はそれ以上何も聞くことはできなかった。
「ドラゴンの件はまだ確証もないからあまり気に留めないでくれ。とにかく今日二人に伝えたかった事は以上だ」
カインから聞いた話で分かったことはアレクシア達の父はグロビュール高原に行っていた可能性が高く、更にそこで天空庭園の兵士に危害を加えられた可能性があるという大きくまとめると二つのことだった。
もちろんドラゴンの話も放置するわけではないが天空の管理者の解析班でも突き止めることができないことを自分たちだけで考えても仕方ないと思い、アレクシア達は一旦無視して他の謎を突き止めることに集中しようとなった。
カインと話していた部屋を退室し、控え室に戻るとナディア達が先に戻っていたので先程聞いた話を伝える。
「な!?ということは、先代は貴族の者達に!」
「落ち着いて!部屋を出てからここに来るまでの間にドレシアとも話し合ったけど、一旦そうは決めつけないでもう少し情報を集めてみることにしたわ」
今回アレクシア達にもたらされた情報はとても貴重なもので、今後父の死の真相を暴くならその行動の大きな足がかりとなる。
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という話を午前二時頃、二人きりの部屋の中で硬いベッドに腰掛けるドレシアから隣に座る勇気がなかなか出ないイシューへ話した。
「というわけでアリーから頼まれている剣の文字解読とは別でお父様の死についてももう少し調べたいと思って、A-ウルサに入ったらグロビュール高原にも立ち寄って現地を調べてみたいの」
突拍子もない話にイシューは戸惑うが、彼も先代国王のことは気がかりなので了承した。何よりドレシアと一緒にいられる時間が少しでも長くなるのは思わぬ幸運だ。
「よし、じゃあ明日から出発してどっちも真相を突き止めるか!」
(そして俺が頼れる男だと、ドレシアに分からせてやる!)
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そして翌朝、既に睡魔で瞼が閉じ去りかけるイシューを横目にやる気満々のドレシアが先頭になって二人はA-ウルサ国を目指し始めた。




