第六十二話 「警告」
取調室では既に尋問官がタキシーに対して取り調べを開始していた。
そこにファーテルが入ってきて、それまでに男から聞き出した情報の報告を受けた。
「(肉体強化魔法を使うタキシーという男、しかしそれ以外の情報は話しません。不気味な奴です)」
タキシーは木製の椅子に手足を枷で繋がれている。右手は先の戦闘で失っているので、手枷は左手のみだ。
「腕と耳はありません。体を貫通している穴は戦闘中に負った傷と思われます。傷口からおそらく、女王の魔法かと。今お話しした名前などの基本情報しか吐きませんが、拷問器具を使いますか?」
わざわざ男に聞こえる声で言い直したのは、拷問の選択肢をチラつかせて情報の自白を促す為だ。
エリダヌスでは拷問制度を取り入れていないので、基本的に取り調べは尋問形式で行われる。
「いや、この男が持っている情報は必ず引き出さなければいけない。ここで吐かないのであれば、天空の管理者の拷問部隊に任せるつもりだ。その時の素材は、残しておかなければな」
もう少し尋問を続けて吐かなければ収容しておくよう指示をして退室しようとするファーテル。
「天空の管理者に俺を連れて行くのか?」
タキシーが口を開いた。
「......何か話す気になったのか?」
「いやあ、せめてものお情けだよ」
そして彼は前を向きながら黒目だけをファーテルに向けこう話した。
「これは警告だ。俺を天空の管理者に連れて行かない方が良いぜ」
「どういう意味だ?」
二人は暫く睨み合う。
「ふはは、せめてもの善行さ」
ファーテルはそれを、命乞いから出た抗いの言葉だと思い聞き入れる価値を見い出さず退室した。
薄暗い城内の廊下を、自室に向かいながら考え込んでいる。
(天空の管理者への引き渡し手続きは明日にでも行わなければ。あとは女王様とナディアの容体だな。ドレシア様は別件の公務でしばらく戻られないそうだし、女王様の復帰までは私が何とかしなくては)
そんなことを考えながら廊下を歩くファーテルの元へ徐々に大きくなる足音が駆け寄ってきた。
「ファーテル!アリー姉さんは!?」
駆け寄ってきたのは留守をしていたグランシアだ。
いつもならもう寝ている時間だが、姉の話を誰かが報告して飛び起きたのだろう。
アレクシアが心配なのはグランシアも、そしてまだ耳に届いていないであろうイルメルシアも同じだ。
ファーテルはグランシアに命は大丈夫だと伝えるも、やはり自分の目で見ないと納得しないようで病室へ案内した。
既にアレクシアは眠りについているのでグランシアは声を聞きたいだろうと優しく起こそうとするファーテルだが、それをグランシアは止めた。
「ありがとうファーテル、寝顔が見れただけで十分だ」
姉の疲れを悟ったのだろう。
グランシアは他の近衛兵の様子を聞き、ナディアが心配なので病室に立ち寄ることにした。
しかしファーテルが病院へ案内しようとすると断られてしまう。
「自分で探すよ。さっきは取り乱してごめんな。母様にも俺から言っておくから、今日はもう休んでくれ。おやすみ、ファーテル」
強い子だ。純粋にファーテルはそう思った。
もし自分がグランシアの立場なら何をしても心配で寝付けるはずもない。
「これが成長、なんですね。国王」
ファーテルは天国に向かってそう呟いて自室に戻った。
翌朝、ファーテルが目を覚ますと既にアレクシアは王室で公務を始めていた。
もちろん傷が完治しているわけではないのでファーテルは治療に専念するように頼み込むが、アレクシアも仕事が残っているのにじっとしていることはできない性分で身体を動かしている方が落ち着くという言い訳でファーテルを渋々納得させた。
ファーテルも、アレクシアは一度こうと決めたら揺るがないことを知っている。
留守中に溜まった仕事を片付けなければいけなかったがまずは昨日受けた奇襲の件を解決しようと、アレクシアは天空の管理者へタキシーの身柄を引き取りに来てもらうよう勅使を向かわせた。
魔法車を、制限速度を無視して専用道を天空の管理者まで飛ばすので今日の夕方から夜までには何らかのリアクションはもらえるだろう。
ひとまずはその回答を待って、他の公務をこなしつつドレシア達に託している文字の調査をアレクシアもサポートすることにした。
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そしてジェミニ国では、ドレシアとイシューがハピネスホテルをチェックアウトしてA-ウルサ国に出発しようとしていた。
やる気満々なドレシアの傍らで気の抜けたイシューがホテルの支払いを済ませた。もちろん王室宛の領収証を切っている。
(はぁ......昨日は結局二時間くらいしか寝られなかった。ドレシアの話が長いのもあったが、俺の優柔不断さもいけなかったな)
ドレシアは両手をグーにして上にあげ、伸びで身体を起こした。
「よーーーし!相変わらず寝心地が悪いベッドだったけどとりあえず休めたわ。じゃあA-ウルサ国に出発しましょう!」
「おー......」
正直ついていけないと思うイシューだが、昨日の話は夜更かししてでも聞く価値があったのでドレシアとの話が長くなってしまったことについては後悔していなかった。
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昨夜ドレシアは自室に荷物を置き、服装を整えてもう一度イシューの部屋に戻っていた。
「私が昨日カインさんから聞いた話を、あなたにも教えておくわね」




