第五話 「シチュー」
千宙達はミュリエムの提案で彼女の家に案内されて、暗いトンネルを歩いている。
道を照らす僅かな灯りは、三十歩ほどの等間隔で土壁にかけられたウォールランプによるもので、油で火を灯しているのかところどころ油が切れて火が消えている。
「地上への大穴の底からはこの道が見えなかったでしょう?あそこまではこの道の灯りが差し込まないように調整したのよ。変な人たちに入ってこられても困るしね」
ミュリエムの声だけが反響するトンネルは、その果ても見えずにUnderworldの更に深くへ入り込んでいくように思えて、千宙達をより一層不安にさせた。
「地上からたまに迷い込んでくる人たちがいるからね、私はそういう人たちの案内人をしているのよ。畑仕事とかもしているから、たまに助けが間に合わなくてそのまま街に入ってしまうことがあるけどね」
十分ほど歩いたところで、トンネルの先に明るい世界が広がっているのが見えた。
「まるで昼間のように明るいですね」
「私の住んでいる地区は昼間しかないわ。Underworldはいくつかの地区で分かれていてね、この先の地区は昼間しかないけれど、中には夜があったり逆にずっと夜の地区もあるのよ。面白いでしょう?」
明るい風景に目を細めながら千宙達はゆっくりとその世界に目が慣れていくとその光景に驚かされた。
そこは地上世界と見紛うほどの開けた世界、本当に地底なのかと思うほどの美しい青空と一面の畑が広がっていた。
「すげぇ......」
「うわー!」
雅博と未巴琉は思わず声に出してしまうほどその光景に魅せられ、ミュリエムにとっては期待通りのリアクションといったところだろうか。
「全部うちの畑なの!さぁ、お家に上がってまずはご飯でも食べましょう」
トンネル出口の少し横に立派な二階建ての木造一軒家がある。これがミュリエムの家だろう。
「さぁさぁ!」と背中を押されて四人は家に入る。
中に入ると料理の途中だったのか、香ばしい匂いが鼻を包み込む。これはシチューだ。
ミュリエムの畑でとれたジャガイモを使っているそうで、ちょうど出来立てだと話してくれた。
エプロンを着用しながら手を洗ってテーブルに着くように促してくれるミュリエムに返事をしながら四人は洗面所へ向かった。
卓についてシチューを食べながら千宙達はさっきトンネルでした話の続きを聞く。
地上への帰り方についてあくまでミュリエムは知らないが、呼んだ張本人である遥実ならあるいは帰る算段がついているのではないかとミュリエムは考えているそうだ。
確かに生徒会の頃から何かとお騒がせな遥実だとしても、帰り方を知らないで未知の世界に飛び込むほど阿呆ではないだろうと四人は意見を合わせた。
そうなればやらなければいけないことは明確で、遥実を探しに行かなければいけないということだ。ちなみにミュリエムは遥実が向かった先に見当はついていないそうだ。
「考えられるとすれば、今いる地層よりも更に下の層にいる可能性があるわね」
「下の地層?」と四人は声を合わせた。
「今いるのが第一層で、そこからさらに第二層、第三層と続いて全部で第五層までUnderworldは広がっているのよ」
その話が本当なら確かに地上世界よりも広そうだなと千宙は納得する。
しかし、その広いUnderworldの中でたった一人の人間を探すなんて途方もない作業だ。
何か良い方法はないだろうか。
「ところでシチュー、全く手を付けていないようだけれど、どこか具合でも悪いのかしら?」
心配そうな表情をするミュリエムは千宙のシチューが全く減っていないことに気がついた。
「すみません。せっかく振る舞って頂いたのですが、お腹の調子が良くなくて。トイレを借りても良いですか?」
緊張からだろうかとミュリエムも心配してトイレの場所を案内した。
たった一つの減らないシチューをよそ目に、三人は美味しい美味しいとシチューを頬張った。




