第四話 「犯人」
千宙達の前に姿を表した女性。その声を聞き、四人は声の方向に集中する。
白髪、少し年増だろうが老体と呼べる程あまり歳をとっている風体ではなく、中年という表現が正しいだろう。
その女性は自らをミュリエムと名乗り、千宙達に説明を続けようとするが、その前に千宙からの質問が飛ぶ。
「ハルミに招かれた……って、どういうことですか!?」
ハルミ、という存在をまだお互い確認したわけではないが、状況から千宙達は遥実が自分達の知っている遥実であると確信を持っている。
御光遥実。千宙と成未の同期で、彼も千宙達と同じ時期に生徒会会計を務めた男だ。
中学を卒業してから彼はその後の進路も消息も不明になっている。
「やはり貴方達だったのね」
聞くところによると、遥実が同じように地底に落ちてミュリエムと接触したのはおよそ二年ほど前のこと。
その時に遥実はミュリエムにこう言い残したのだそうだ。
「近いうちに俺の仲間たちが地底に来る。そうしたら、面倒を見てやってくれ」
ミュリエムも半信半疑だったのだ。なにしろ待てど暮らせど彼の仲間が現れぬまま二年ほど時間が経って、ようやく現れたのだから。
だが、これで互いに合点がいった。
千宙達にとっては、ここに自分達を呼び込んだのは遥実。ミュリエムにとっては、あの時言っていた仲間達がこの者達なのだと。
成未は遥実がどこにいるのかをミュリエムに質問するが、ミュリエムは悲しい表情で俯きながら首を横に振った。
「彼は少し迅速果断なところがあるからね。けれど、地底世界からは出ていないと思うわ。地上には上がれないからね......」
地上に上がれない。その理由を聞くべく、千宙達は固唾を飲んでミュリエムの次の言葉を待った。
その、「地上に上がれないとはどういうことか?」という説明を求める彼女達の目線を察してミュリエムはその理由を語り出す。
ミュリエム曰く、地底世界と地上世界が繋がっている場所はこの《地上への大穴》だけ。他に世界が繋がっている場所はない。
更に地上への大穴の土壁は、お互いの世界を攻撃から守るために魔力の膜が土肌を沿うように形成され、それは大穴のちょうど真ん中の高さで互いの世界を断絶するバリアのようになっているそうだ。
それは全ての魔力や魔法を弾き飛ばす結界の役割を果たすが、例外として魔力を持つ生命体や質量を持つ物体は通過する事ができる。
だからさっき雅博が土魔法を発動しても、この土肌に影響を与えることはなかったのだと千宙達も合点がいく。
ここで未巴琉はさっきからミュリエムが口にしているある言葉について気になって質問をする。
「あの、さっきからお話しされている途中でちょくちょく出てくる、『地底世界』ってなんですか?」
「ここのことよ。ここが地底世界、《Underworld》の入り口なのよ」
ここで千宙には、衝撃に近い点と点が繋がる感覚を覚える。千宙はUnderworldのことを知っていたのだ。
中学でも高校でも、一般の地理の授業で教えることは決してないが、千宙にはそれを知るきっかけがあった。
中学時代、生徒会では学校や国周辺の視察という名目でよく校外活動を行っていた。
その時は遥実と二人だったが、その活動先で発見したのがさっき下から見上げた大穴だったのだ。遠目だがここから見上げる大穴と、当時の校外活動で発見した時に驚嘆した穴の大きさが酷似している。
当時遥実は冗談めかして「地底世界に繋がっているのかもな!」と話していたが、千宙は何かが引っかかってその穴について独自で調査を行っていた。
そして調査を進めていくと、地底には地上よりもずっと広い世界が広がっていて、その世界で人間達が文明を築き上げているということを知った。
その時は世界の広さなどまるで見当もつかなかった千宙にとっては、そんな場所もあるのかと他人事に捉えていたが、まさか自分が今その世界に叩き込まれるなどとは数十分前に目覚めた時は想像できるはずもなかった。
千宙は恐る恐る、もしかしたら彼女の中ではそんな答えは存在しないことを薄々感じていたのかもしれないが、一縷の望みに賭けてミュリエムに質問する。
「どうすれば地上に戻れますか?」
ミュリエムは何も答えず、まるで自分の娘を見るような暖かい眼差しを向けて答えた。
「その答えは、遥実くんが知っているかもね。」




