第三話 「生徒会」
突如として大穴の底に落とされてしまった千宙。
穴の外に出る方法が無く、辺りを見回すと一人の人間が近くに倒れていた。
その場からその人間を観察するのに月明かりだけでは少し暗いので、目を細めながら近付いて凝視する。
倒れているのは女性だ。
この時千宙は、自分では冷静に状況を俯瞰できているつもりだったが思いのほか焦っていた。
その女性が誰なのか、一緒に落とされたのか、自分とは敵対する立場に立つ可能性が十分あるにも関わらず、何を考える暇もなく見付けた途端に揺すって起こそうとした。
少し揺するとその女性は目を覚ました。
「う〜ん……」
まだ頭が冴えていないようで、千宙は優しく声をかけた。
「大丈夫?」
「う〜ん、あれ、私……」
ここで千宙は再び違和感を抱き、暫くしてその正体が違和感ではなく既視感だったのだと判明する。
聞き覚えのある声、さらりとした黒くも色素の薄い長髪に透明感溢れる真っ白な肌、そして何より特徴的なのは口元にある黒い痣。
そう、千宙はあまりの焦りに一目では区別出来なかったが、この女性は千宙と同い年で一緒に生徒会役員を務めた業羅成未だ。
「なるみ!」
「あれ、ちっち。なんで私の部屋に?……ってか、ここどこ!?」
千宙から成未へ事情を説明し、成未もようやく事の重大さを理解した。
「再会を喜ぶ暇もないってのはこの事ね。成未はこの状況、どう見る?」
「私にも分からない。とりあえず、他の人達も起こしてみない?」
ここで千宙は同じようにこの場所へ転送されたのが自分と成未だけではなく、他にも周りに人がいることを知った。
今度は実際にぐるっと歩きながら見て回り、見落とさないよう千宙はじっくり周囲を見た。すると周りには他にもう二人の男女が倒れていた。
千宙と成未は二人を起こしてみる。
二人が目を覚まして更に千宙は驚かされる。なんと倒れていたのはこれまた千宙たちと同じ時期に生徒会を務め上げた二人。
短髪直毛の角刈り、熱血男児ですと言わんばかりの風体だが少し腹元が緩いのは観堂岩雅博。
オールバックから片方の肩に乗せて束ねた髪を下ろし、低い背丈でほっぺもまん丸の女の子が白砂山未巴琉だ。
雅博は会計監査、未巴琉は会計補佐。二人とも千宙と成未の一つ下の学年で、後輩という立ち位置だ。
二人とも千宙達と同じく状況が掴めていないようで、三度説明を千宙より繰り返す。
「ってことは私たち、眠ってる間に訳わかんないところに転送させられちゃったってことですか〜!」
中学時代から変わらぬ未巴琉のブリブリっぷりに、一同もう少し落ち着いて欲しいと思うのはまるで変わっていない。
「転送されたって決まった訳じゃないだろ?少しは落ち着けよな、僕の魔法もあることだしさ」
そんな中でも雅博は至って冷静な素振りを見せる。
聞くところによると、彼は中学を卒業して高校に進学してからというもの、地層研究部に所属して地学に対する研鑽を重ねてきたようだ。
中学時代も魔法の成績は優秀、特に彼は【土魔法】の使い手だったのでこの場はまさに独壇場ということだ。
「私の結合魔法じゃてんで話にならないから、お願いね!」
「そういえば星導先輩、魔法はほんっとにダメでしたもんね」
千宙はこの一言でめちゃくちゃムカついた。
義務教育過程を含めて全ての小中高大学校には、一般科と魔法科がある。
名前の通り魔法が使える生徒は魔法科に入学する事となっていて、魔法が使えない生徒は一般科だ。
特に魔法強豪校や魔法省、大陸連合などの国立機関への直通校でもなければ基本的に入学時に試験がない。
つまり親の意向や自分の意思で魔法科に入学することも一般科に入学することもできるわけだ。
これは特に国立の学校が一律でそういう考えなのだが、将来の職業に対する本人の意思を尊重したいという大義名分があるようだ。
魔導士として名を馳せる目標がある者が、入学試験時点でセンスがない場合落第必至となってしまう状況をこれで防ぐことができる。
しかしそれは建前で、大体の家庭は「親が子供を一流の魔導士にしたいから」とか「魔法科に入学して親の期待を裏切りたくない」という親絡みの事情を持つ生徒が多い。
千宙は前者で、親からの『すんごい圧力』にやられて魔法科に入学することになってしまった。
後輩にここまでボロクソ言われるなら、いっそのこと魔法科に入学試験をつけてくれれば良かったと千宙はこれまでの魔導生生活で何度も思ったことを再び考えた。
そんな千宙の内心など露知らず、雅博は鼻を鳴らす。
「まあ、僕に任せてくださいよっと!」
そう言って雅博は勢い良く魔法を発動する。掌には魔法陣が展開されて一同の期待は高まるが、空を切るとはまさにこのこと。
確かに雅博は魔法を発動したつもりだろうが、側から見れば上にえいやぁと声が聞こえそうなくらい気持ちよく右手を上げただけ。何も起こることはなかった。
雅博はしばらくして、もう一度同じことを繰り返すが結果は変わらない。
この事象から察するに、どうやら周囲の土肌は魔法を受け付けないらしい。
この状況にどこかホッとする千宙の姿があった。
そういえば、状況をよく思い返してみるとおかしな点があることに千宙は気が付いた。
当時このメンバーで生徒会を務めた際は全部で六人のメンバーがいた。
しかしここに集められたのは千宙、成未、雅博、未巴琉の四人だけ。
「二人、足りないね......」
確かにと言わんばかりに他の三人もそれに気付く。
するとここで雅博が、敢えて、というわけではないが誰も言わなかったその奇妙な体験を口にする。
「でも僕、今日寝てる時に遥実先輩が夢に出てきたんですよね」
ギョッとした顔で他の三人は雅博を見た。
「私も見た」「私も!」「......私もです」
確信。ここに自分たちが召喚されたのは、遥実が関係しているんだと一同は確信する。
すると更に、これまでその場にはいなかった新しい声がその場に現れる。
「貴方達が......」
一同、声の方を向くとそこに立っていたのは少しふくよかな女性だった。
「貴方達はハルミくんに、この地底世界へ招かれたのよ」




