第五十八話 「筋肉」
大きな爆発で三両目は全壊。二両目の後方と四両目の前方も吹き飛んで車両の中が剥き出しとなる。
するとそこに近付く者が一人。
「おほー!派手に吹っ飛びましたなぁ!こりゃこりゃ」
貧相そうな装いとは裏腹にハイになっている陽気なテンションが、夜の暗闇に似つかわしくない振る舞いの男。
中年で草臥れたその肩には矢や爆弾を入れた灰色の大きなナップザックを背負っている。
「こりゃ女王様も死んでるかね?てか、乗ってる車両吹っ飛ばしちまったら分かんねぇや!」
すると四両目から三人と一両目から三人、合わせて六人のエリダヌス兵が同時に男に攻撃を仕掛ける。
しかし次の瞬間、六人同時に男を中心にして吹き飛ばされる。六人とも、男が何をしたのか見切ることが出来なかった。
「無理無理!お前らみたいなヒョロガリが俺の身体についてくるとか無理に決まってんじゃん!」
「くっ、なんだこいつ」
更に六人は同時に攻撃したり、別々に攻撃したり、バリエーションを変えて攻撃の手を緩めないが全て避けるかいなされて対処される。
明らかに六人の中で一番のヒョロガリがこの陽気男なのに、その埋まらない力の差に六人は打つ手を失っていた。
すると粉々に砕けた魔法車の瓦礫から飛び出して不意打ちを男に食らわせる影が。
その攻撃は一刹那で男の両肩と両腿に傷を入れた。
「ナディア様!ご無事で!」
しかしナディアの顔面には凄まじい裂傷が走っていた。左頬から右頬へと矢が貫通したのか、だらしなく裂けた口元から大量の血が溢れ、赤い軍服をさらに赤く染めている。言葉を発してもその言葉の端々に歯切れがない。
「気を抜くな!状況を!」
「一両目は運転手含め全員無事です」
「四両目は一人死亡。一人が無傷で、二人軽傷ですが動けます」
今の報告を聞いてナディアは瞬時に判断する。
「三両目は私以外死んだ。二両目は無事だろうが、不意打ちに賭けたから状況の確認が出来ていない。各車両二人ずつと私を残して、他二人はアレクシア様を乗せて運転手に出発の指示をーー」
ナディアの声が消えた瞬間、さっきまでナディアがいた場所には男が立っている。
「上かよ、ヒョロガリィ!」
ナディアは男の攻撃を上に跳躍して避けていた。
「貴様の魔法、その肉体か」
するとさっきまで軟弱貧相な身体だった男の肉体が、メキメキと音を立てて盛り上がっていく。
ナディアが言い当てた通り、この男の魔法は【肉体強化魔法】だ。
「よぉく分かったな!お前の不意打ちも悪くないが、普段は筋肉を絞ってるから俺の筋は切れん!」
(なんて筋肉量だ。さっき私が与えた傷も、筋肉で肉体を引き締めることにより血を止めている)
「お前が落ちてくる前にぃ!」
ドドドドンッ!
鈍い音が辺りに響く。さっき男を取り囲んでいた六人の兵士は全員殴られて気絶している。
下手をすれば死んでいる可能性もある。ナディアは空中で剣を構えた。
「【エリダヌス流剣技・ラナ】!」
「【肉体強化・あーーーむ】!」
互いの攻撃が入る間合い、ナディアはモーションの大きい男の攻撃に対して身体を回転させて威力を殺す。更にその回転を利用して剣に勢いを付け、その剣技を命中させる。
瞬時に距離を取るが手応えに違和感が残る。
敵を観察すると全くの無傷だ。
確かに斬ったその筋肉は、男の魔法で硬直されて肉の鎧と化しているのだ。敵の肉体強化魔法はかなりハイレベル、ナディアの剣を全く通さない硬度に達している。
それならばと、ナディアは速度よりも力に意識を向ける。
「エリダヌス流剣技・アンゲテーー」
男は一瞬でナディアの目の前に姿を表し、右腕だけでナディアの顔を掴んだ。
「ぐっ……!」
(こいつ、速い!)
男の大腿筋と腓腹筋は、男の顔よりも太く肥大していた。
「ダメダメ、戦いには速度と力が必要なんだ。守りたいものがあんなら、二兎を追え。どっちかを捨てるようなやつに主は守れねぇぞ」
そのままナディアの頭蓋骨ごと握り潰そうと力を加える。
「あの世に行く前にてめぇを殺した男の名をてめぇに刻め。俺の名はタキシー、あばよ」
一撃で破壊しようと力を入れた途端、タキシーは右腕に激痛を感じた。
「ぐっ!!!」
するとさっきまでナディアの顔を握っていた自分の拳が、思っている場所とは違う場所にある。
「ぎぃ、俺の腕をーー!」
タキシーの腕を切り落とした術者は、大破した魔法車の瓦礫の上に立っている。
「出たな、アレクシア・エリダヌスぅううう!!!」




