第五十六話 「まだ」
星下はドレシアの質問に「その場にいた」と認め答えた。
「やっぱり、ならもう一つの質問にも答えて!あの日貴方は、父と何を話していたの!?」
『…………』
「答えなさい!!!」
しかし返ってくるのは、広いこの広間に反響するドレシアの声だけ。
「恐らくもう、星下はお下がりになられた」
倒れ込みながら兵士の一人がそう話した。
「我々も下がるぞ。星下の前で面を上げて命があるだけ、有難いと思え」
ドレシアの胸には無念さが残る。
昨日のカインの話に引き続き、ここまで父の死に近付いた事はこれまでの調査でもなかった。
そしてそれはアレクシアも同じで、何も出来なかった分アレクシアの方がドレシアよりも強くその感情が残っていた。
悔しさの余りその場に立ち尽くすドレシアの腕を、兵は掴んで門の外へ引き出そうとする。
「自分で歩けるから、離して!」
兵士の腕を振り払い、ドレシアはアレクシアに話しかけた。
「ごめんね、私だけ勝手に色々聞いちゃって」
「私は何も出来なかったからいいのよ。それと、あの時あなたが言っていた話は本当だったのね。信じてあげられなくてごめんなさい」
ドレシアから聞いていた彼女の不思議体験を、アレクシアは『きっと夢だ』とドレシアに言い聞かせていた。
父の死に関わっているかもしれない重大なその出来事をただの思い過ごしだと見過ごすように、無意識に加担してしまっていたのだ。
「やはり、昨日のカイン様からの話と照らし合わせて聞いても関係がありそうね」
「っていうか怪しさしか残んないよ。はぁ〜、イシューに愚痴ろっと」
とは言ったものの、意外に思い詰めていないドレシアにどこか安堵するアレクシアだった。
二人はその後月の門から天空の管理者本部へ戻り、そのまま帰路へと就く。
魔法車に向かう途中ナディア達に天空庭園の感想を聞かれたのでドレシアは死にかけたと答えたところ、ナディア含むエリダヌス兵全員が天空庭園に付き添った兵士に抜剣しかけたので急いでそれを止める。
カインもレベルエイトも公務で出ているそうなので、挨拶は不要だと天空の管理者案内人から言われそのまま魔法車へ乗り込んだ。
ここでアレクシアは乗ってきた魔法車が一編成なので、帰国する前にドレシアをジェミニに降ろさなければいけないことに気付いた。
「ナディア、ドレシアを途中で降ろしたいのですがよろしいですか?」
ナディアはそれを快く承諾して天空の管理者本部を後にした。
「折角だからアリーもジェミニに泊まっていこうよ」
「私は大丈夫。国の事もあるし、イシューが邪魔だと思うだろうから」
アレクシアはイシューの事を慮るべきと考え、超絶鈍感なドレシアでも分かるようにわざとらしくそれを断る。
しかしドレシアは全くその配慮の背景を気にする素振りを見せなかった。
「そう?イシューはそんなこと思わないと思うんだけどなー」
魔法車がジェミニへと進んでいく中、アレクシアはこの天空の管理者本部訪問で気になる事が二つあった。
一つはさっきの星下の言葉。
ソール、そして『違った』というあの言葉。まるで自分に何かを期待していたが、そうではなかったという思い違いを認める発言。
自分は特別な人間ではない。唯一他人と違うことがあるとすれば、早くに父を亡くしているということ。
星下は自分に何を期待していたのだろう。
そしてもう一つは、昨日のカインの話。
確かにあの話はナディアを含むエリダヌスの兵に聞かれると大事になりかねない内容。当然、アレクシアとドレシアも平常心でいることは出来なかった。
帰国次第、詳しく調べる必要がありそうだ。
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『…………』
テレスコピウム城。その銀河の門の奥では、先程星下の機嫌を損ねてしまったアスペラルの血溜まりがまだあった。
その血溜まりの上をまるで誰かが歩いているかのように小さな波紋がピチャン、ピチャンと音を立ててある方向へ進んでいく。
そして血溜まりを抜けても尚、赤い足跡が波紋の行先を更に延ばして辿る。
『ソール、お前はもう選んでいるはずだ。どこにいる……!』
そこにあるのは姿のない悍ましい程の怒気だった。




