第五十五話 「見えない」
「星下は以前、エリダヌスにいらっしゃいましたよね?」
質問内容にも驚いたが、何よりもまずいのは星下の方を向いて目を開いているということ。
アスペラルの話だと「星下を見ることは死刑に値する」だったはず。
もしそれが本当ならドレシアの首は数秒前に飛んでいるはずだ。
そしてそれは本当だったようだ。アスペラルは魔法を発動しかけたのだろうか、ドレシアに向けて手を開いている。更に他の衛兵六名も全員腰に携えていた剣を引き抜いてドレシアに斬りかかる寸前だった。
寸前。そう、寸前だ。
ドレシアに敵意を向けた漏れなく全員がその場に停止している。まるで動けないよう魔法をかけられているかのようだ。
「これは……っ!星下!」
『…………』
ドレシアを攻撃しようとする七人全員を止めているのは、星下だ。
「ドレシア!」
アレクシアはドレシアの身を案ずるが、ドレシアは真っ直ぐ星下を見ている。
『ドレシア』
「はい」
『…………』
「お答え下さい!」
物怖じしない。アレクシアにももしこの度胸があれば、父から引き継いだ国を父が引き継いだままではなく、もっと高みまで発展させることができただろうか。
『そうだ』
「!」
『と言ったら?』
「……もう一つ、聞きたいことがあります」
自分たちが攻撃できないのをいい事に、次第に増長するドレシアにアスペラルの怒りは増し続けた。
「貴様ぁ!星下に生意気な口をーー」
『黙れ』
「ぐっがああああああああああああああああ!!!」
そのままアスペラルの身体は血飛沫を上げてその甲高い断末魔が止まった。
残ったのは小さく圧縮された肉塊と血の池だけ。
その異常な光景にアレクシアは精神がおかしくなりそうだった。
(死んだ……?え、殺したの!?法律に従ってドレシアを処刑しようとしただけで!?)
本当にその刃が届きそうなら例え身代わりになってでも止めるつもりだったので、アレクシアは星下に救われたと共にそのクレイジーさが理解できなかった。
『言ってみろ』
恐る恐る、しかし凛としてドレシアは口を開く。
「あの日、父と何を話していたんですか?」
それを聞いてアレクシアはまさかと何かが繋がったような感覚を覚える。
昔ドレシアに聞いたその話は、ドレシアが小さい頃にした不思議体験だ。体験というより不思議な事をしている両親を見た。
城内の誰もが寝静まった時間。ドレシアの父が何も無いところに向かって話し掛けていたのだ。
ドレシアの父は温厚な人間で、普段からアレクシアとドレシアを怒鳴りつける事なんて絶対にしなかった。
しかしその時、初めてドレシアは父が誰もいないところに向かって怒号を発しているのを見た。
まだ子供だったドレシアはその時眠っていて、大きな声が聞こえて目を覚ました。ベッドの中でその声を聞いているうちに父の声に似ていると感じて気になって様子を見に行った。
その時に見たのがその光景だ。
「あの時は夢だと思っていました。でも違った。だって、今私の目の前にいるはずの貴方も同じように姿が見えないのだから!」
『…………』
ドレシアの前には誰もいない。ドレシアの言葉を聞いてアレクシアも顔を上げる。
すると確かにドレシアの前にはたった一つスポットライトに当てられている玉座があるだけで、周りには何も無かった。
「あの日も父は確実に誰かと話していた。相手は声も姿も無かったけど、私には分かります。貴方は確かにあの日、そこにいた」
『…………』
「まだそこにいるんでしょ!?さぁ、答えて!」
するとさっきまで魔法で拘束されていた周囲の六人の兵士が急に動けるようになる。かなりキツく締め付けられていたのか、全員その場に倒れ込んだ。
『アレクシアとドレシアを下界へ返せ。殺すことは許さぬ』
星下は話を終わらせる気だ。
「待って!質問に答えて!」
『……あぁ』
「っ!」
『居たよ。私はそこに』




