第五十三話 「天空庭園」
開いた月の門を進んで、一行は天空庭園へ入って行く。
中はとても美しい真っ白な城ばかりで、見渡す限りの青い空が広がっていた。
それに見惚れてドレシアが歩いていると、アレクシアが声をかけて止める。
足元をよく見るとアレクシア達が立っている地面は他の地面と比べて少し色が暗くなっているのが分かる。
そう、これがアスペラルが言っていた指定区域だ。
しばらく歩くと目の前には前に向かって動いている歩道がある。
「すごい、歩道が動いているわ」
「動力魔体を使用しています。設置しているのはベルトコンベアでその両端と中間地点にいくつか魔体を設置して動かしているのです」
魔体とは『魔法体』の略で、魔力を吸収する特殊な水晶玉に作用させたい魔法を込めることでその効果を発揮することが期待できる物体の総称を指す。
例えば『発光魔体』は光を発する効果を持ち、『爆発魔体』は起爆効果で爆弾代わりに使うことができる。
天空庭園には他にも水ではなく魔力が吹き出している噴水や、常に流れている上品な音楽など何もかもが夢の楽園のような空間が広がっていた。
そして街には貴族もいる。こちらを見て何やらコソコソ話をしている。
「貴族の皆様は普段下界の人間とは接触しません。見慣れぬ装いが物珍しいのでしょう」
しかしアスペラルは知っている。世界貴族で下界の人間に好奇心を抱く者などいない。
陰口を叩いているのは恐らく、下界の人間がこの天空庭園に入ったことに対する嫌味だ。二人の耳に届いていないのがせめてもの救いだと思い、アスペラルは足早にその場を離れようとする。
天空庭園を歩き始めて十分ほど経つだろうか。間も無く冬季に入ろうという時期だがあまり寒くない気温がアレクシアは不思議だった。
「天空庭園は気温、湿度、天候などを全て魔法で管理しています。冬季も夏季も存在しません」
本当に貴族というのは生きることに何一つ不自由ないのだろうなとアレクシアとドレシアは思った。
「あのーさっきから気になったんですけど、なんか城がいくつもありますけど所々に固そうな扉があるのはなんですか?」
「軍用の扉です。足元を見ていただければ分かりますがあの扉には下界の人間も入れるようになっています。貴族の方々にとっては、天空の管理者に所属している人間でも副元帥以下は皆同列ですからね」
ということは、元帥だけは違う扱いということになる。
「そもそも世界貴族は、全員下界の政治に不介入です。それは例え星下でもそうですよ。あくまでも星下は天空庭園の中だけの王であり、連合含めて大陸の実権は天空の管理者元帥にあります。そして元帥は一人間としては貴族の一人よりも地位は下ですが、その立場自体は星下と同じです」
形式、世間体、法律というのは便利だが不自由なものだ。
そうこう話しているうちに一行は最深部にあるテレスコピウム城に到着した。ここに貴族の王がいるそうだ。
城の敷地周辺には城を囲う様に鉄製の高い柵があり、その前にはズラーっとアレクシア達の横にいる白い制服を着た兵士が等間隔に居並んでいる。
正面には門があり、動く歩道はそこが終点となっていた。
門にいる兵士にアスペラルは話しかける。すると二言返事で門兵は開門した。
外門を通過すると外庭を通って、城の中に通じる今まで通った中で最も巨大な門が目の前に現れた。
幾つも門があり、ここに辿り着くまでに本当に厚い警備が敷かれているのが分かる。
「最初に通ったのが月の門、途中で見た軍用の門が《星の門》、そしてここが星下を守る最後の門 《銀河の門》です。この先に星下がおられます」
遂に世界の王と対面するアレクシアとドレシア。
「最初に説明した法律を忘れることのないよう」
そうアスペラルが言うと門が開き始めた。
アスペラルと他の兵士が膝を着いて頭を下げたのをきっかけにして、アレクシアとドレシアもゆっくり開く門に向かって膝を着いて頭を下げた。
門の奥には、それを見下ろしている人間がいる。




