第五十二話 「門前」
昨晩はカインと久しぶりに食卓を囲んで、アレクシアとドレシアは幸せな気持ちに包まれていた。
しかしそんな平穏な時間も束の間、その時はやってきた。
午前十時、天空の管理者本部にある月の門にてーー
「こちらアスペラル。午前十時、月の門開門を申請する」
茶髪の刈り上げ兵士は、頭に指を二本あてがい魔法陣を展開してそう言葉にした。
門の開閉を管理している天空の管理者の担当者に念話魔法で呼びかけているのだろう。
アスペラルの後ろにアレクシアとドレシアがおり、二人の左右に三名ずつ見た事がない制服を着た兵士達が二人を囲んでいた。
布製の真っ白な制服にはシワもシミもなくこれでは戦えないだろうと思うほどの軽装だった。
「確かにこれなら血も目立ちそうね」
「ドレシア。やめなさい」
やけに敵視するドレシアをアレクシアが宥める。
ここに来る前にナディア達も入れてもらうよう頼み込んだが、アレクシアとドレシア以外の入国は許して貰えず開幕早々世界貴族への悪印象が植え付けられた。
「開門承認まで少しお待ちください。入国前に幾つかご認識下さい。ここから先は天空庭園、貴族の国となりますので特別な法律があります」
「法律?」
基本的に殺人罪や国家反逆罪などの重罪は、処罰の差はあれど各国間で法律の有無に大きな差はない。
しかし小さな窃盗や交通違反などは国によってかなり法律に差があり、発展途上国では窃盗が罪に問われない国もある。
そして天空の管理者各拠点内とどこの国の領土にも属さないいわゆる無主地は、天空法と呼ばれる天空の管理者が定めた法律が働いている。
アスペラル曰く、天空庭園には天空法とは更に異なる天空庭園にのみ適用される特別な法律が存在するそうだ。
「下界から上界に上がる方が気を付けなければならない法は大きく三つあります」
恐らく下界はアレクシア達が暮らしている世界、上界は天空庭園の事を指しているのだろう。
その呼び方にアレクシアとドレシアは不快感を抱く。
「一つ、下界の人間は天空庭園での魔法使用は禁止です。二つ、我々の隊列外及び指定区域外への侵入は禁止です。三つ、このあーー」
「ちょっ!待って待って!」
話を遮るドレシアに明らかな苛立ちを示すアスペラル。
「隊列の外に出ちゃいけないんですか!?それに指定区域って?自由に見て回れないんですか!?」
制限の強さにドレシアは猛抗議、アレクシアも同じように制限が多いと感じているのかこれを制止には入らなかった。
「中に入れば指定区域がどこなのかは分かります。自由に見て回ることはできません、ここから先はいわば聖域ですので。嫌でしたら取り止めましょうか?」
そんな話、こっちから願い下げだわ!と言いたいところだが、貴族からの世間体を気にするとそんなことは言えるはずもなくドレシアは引き下がるしか無かった。
「続けます。この後、我々は星下に謁見します。」
「せいか?」
「貴族の王です。三つ目のルールは、星下のお姿を決して見てはなりません」
会うのに見てはいけない、という奇妙なルールがまるで理解できなかったのでそれをそのまま質問してみる。
「星下の御前では膝を着き、頭を垂れながら会話をしてくださいということです。ちなみに、先程説明した三つの法律を一つでも破った場合は私達があなた方を即刻処刑します」
アスペラルの言葉にアレクシアはすぐに戦闘態勢を取り魔力を練り上げる。
しかしアスペラル含む全ての兵士は動かずにじっとしていた。威嚇が効かないアレクシアも逆にここまで動じられないとこの威嚇に意味が無いと感じた。
「安心して下さい。法を破らなければ問題はない貴重な機会です。今魔力を練り上げたのも不問に帰しますので、どうぞ今少しお待ちを」
恐らくアスペラルはアレクシアよりも強く、力で抑え込める自信があるからそう話しているのだ。
するとアスペラルは突然何かに集中する素振りを見せる。少ししてアレクシア達の方を向く。
「開門します。それではーー」
「「「「「「天空庭園へようこそ」」」」」」
ガコン!という物々しい音と共に、その場にいる全員の背丈以上ある巨大な門が開き始めた。
そしてアレクシアとドレシアは貴族の国へ足を進め、再び門は閉まる。




