第五十一話 「準備」
明日の夜にはここにドレシアがやってくる。恐らく明日はそのままジェミニに宿泊して、明後日出発ということになるだろう。
という訳で、ドレシアが到着する前にロマンティックな部屋を用意してイシューの事を男として意識してもらい、良い旅のスタートを切るというイシューの緊急ミッションがスタートした。
「一秒たりとも無駄にはできないこの状況、ドレシアが来るまで資料なんか見てる暇は無い。準備せねば!」
そう言ってイシューは暗くなった夜の街に繰り出した。
時刻は午後七時。季節も冬季に差し掛かる時期なので外はもう真っ暗だ。
とりあえず今日の夕飯は辺りの露店で適当に買えば良いとして、部屋の装飾と明日の夜二人で開けるシャンパン(のようなジュース)を仕入れよう。あとはお菓子もか。
部屋の中に飾る用の発光魔体でも調達しておけばあとはセンスでどうとでもなるだろうと思いそれを探し始める。
黄道十二王国ではないとしても、さすがに一国の首都なだけあってすぐにお目当てのものは手に入った。
あとはジュースとお菓子だ。
ジェミニは国土こそ広くは無いがお菓子作りが盛んで、街のない空き地にはよくお菓子工場が立ち並んでいるのが目につく。
ジェミニのお菓子といえば有名なジンジャーマンクッキーを改良した『カラフルマンクッキー』が女子に大人気だと巷の噂で耳にしたことがある。
クッキーに合わせるなら、オレンジジュースだろう。王道の組み合わせに自分もヨダレが止まらない。
二つを調達してあとは花を買って買い出しは終わりだ。
これさえ揃えればドレシアも満足して、イシューに対して「こんなにできる男だったの!?」と感銘を受けるに違いない。
イシューはそんな妄想を捗らせながら、自分の夕飯用に露店で果物と肉巻き野菜を買ってホテルに戻った。
後で汚すといけないので、先に夕飯だけパパっと食べてしまい部屋の装飾に取り掛かる。
まず机と足元には発光魔体を散らして煌びやかにする。
そしてベッドーー
「ベッド!?」
ここでイシューは衝撃の事実に気付いてしまった。
この部屋にベッドはひとつしかない。
ベッドがひとつということは、同じベッドで添い寝をするということ。
しかしイシューにそんな心の準備はまだ出来ていない。
もし間違って布団の中でドレシアの身体に触れてしまおうものなら、それはもう始まりの合図。きっとイシューの華やかなお・も・て・な・しで温まった心は、その時には既に身体まで火照らせて男の身体を求め始めるはずだ。
いやいや、と首を振るイシュー。
意中の女性でよからぬ事を考える罪悪感と、あわよくばという期待で彼は心中穏やかではない夜を過ごす事になる。
そんなこんなで妄想しては止め、妄想しては止めを繰り返し、最終的には自分を殴ってまで自制したイシューは部屋のセッティングを終えた後眠りにつき、朝を迎えたところで無情な知らせを受けることとなる。
プルルルル、プルルルルーー
眠気まなこのイシューは部屋の電話を手に取った。
「はぁ〜い」
「イシュー様。チェックアウトの時間です」
「は?いや、今日もーー」
「昨夜頂いたご予約では一日分しかご予約されていません」
「え、俺二泊ってーー」
「伺っておりません。恐れ入りますが本日は満室ですので速やかにご支度頂き、ご退室下さい」
せっかく準備したお・も・て・な・しは水泡に帰し、イシューは泣く泣く別のホテルで二部屋確保した。
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そして午前十時、天空の管理者本部は月の門正面。
天空庭園に招かれたアレクシアとドレシアは案内人と合流し、その聖地へ足を踏み入れる。




