第五十話 「明日へ向けて」
世界貴族の王から、天空庭園への招待を受けたアレクシアとドレシア。
「世界の王……」
「とは言っても、世界貴族は政治不介入だから世界にとっては王でもなんでもないがね」
しかしアレクシアは腑に落ちていなかった。
何故、見ず知らずの自分たちを招待するのか。貴族からしたらエリダヌスもその王族である自分達もさほど興味の対象ではないはず。
確かに世界貴族は政治不介入であり、この誘いを例え断ってもエリダヌスの地位が揺らぐことはないだろう。
しかしどうにも拭えぬ不信感がある。少しでも貴族から猜疑の目を向けられる事が、何かエリダヌスの不利になるような気がしてならなかった。
「分かりました。そのお誘い、謹んでお受け致します」
「そう言って貰えて嬉しいよ。私から案内役には話を通しておくから、明日午前十時に月の門集合で良いかな?」
すると心配になったドレシアが小声でアレクシアに話しかける。
「(ちょっとアリー、そんな簡単に承諾しちゃって大丈夫!?)」
「(仕方ないわ。ここで貴族からの印象を落とす訳にはいかないもの。現地の対応は基本的に私がやるから、ドレシアも着いてきて)」
渋々ドレシアは承諾するが、アレクシアの弁明も虚しくあまり不安が拭えていなかった。
「大丈夫です。カイン様もご同行頂けるんですか?」
「すまないね、私は明日別の公務があって同席できないんだ」
アレクシアとしてはカインがいてくれたら文字通り百人力だったが、これも女王の試練と捉えて濁りなく承諾した。
「最後にアレクシアとドレシアに話したいことがあるんだ。すまないが、他の兵は席を外してもらえるかな?天空の管理者側も外しなさい」
ナディアもさっきの世界貴族の話から若干きな臭さを感じていたので、ここで席を外せと言われると独断では黙っている訳にはいかない。
そんな思いからアレクシアにどうするべきか判断を委ねる目線を送るが、アレクシアは軽く頷き「大丈夫」という目線を送った。
そう言われるとナディアも従うしかなく、他の近衛兵を引き連れて退室した。同様に天空の管理者所属の兵士や案内人、カインの秘書と思われる女性も退室して部屋には完全にカインとアレクシアとドレシアの三人だけになった。
「すまないね、さっきの話もあるから少し不安だろう」
心を見透かしたような言動、カインは幼い頃から二人を見てきたのでその心中は簡単に察せた。
「呼び止めたのは他でもない、君達の父君についてなんだ」
二人は驚きがそのまま身体に伝い、その肩を跳ね上げた。
「新しい情報が入ってね、君達には伝えておこうと思ったんだ」
もう命が亡い自分と近しい者の話に、謎が解ける期待とイシューが煽った『知ることによる後悔』を察した不安を感じる二人。しかしカインは無情にも語り出す、彼が掴んだまだ彼女達が知らない事実を。
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その頃イシューはプトレマイオス大通りを歩いてジェミニ国へ到着していた。
イシューはジェミニでドレシアと待ち合わせをして、プトレマイオス大通りをジェミニからさらに北上してA-ウルサに入国する予定だ。
ジェミニは入国証制度を導入しておらず、承認を受けていない人間も立ち入ることができるから入国と滞在は難しくない。
その為、イシューは生業にしている薪売りでもよくジェミニに来ることが多い。
首都に到着次第ホテル探しだ。
早めに見つけたいと思っていたが、思いの外早く空き部屋を見つける事ができた。
「はい、空室がございます」
「本当に!?よっしゃ!」
「しかし、本日のーー」
「あぁあぁ、大丈夫!金なら幾らでも払うから!あ、領収書だけお願いね」
今回はドレシアがいるのでホテル代はエリダヌス国の公費として補填が出る。
ドレシアに想いを寄せる男としてはなんとも情けない話だが、貧乏癖がついているイシューは子供の頃から『貰えるものはもらっておけ精神』で今回も漏れなく浮かれ切っていた。
早速チェックインして持ってきた資料が入ったリュックを黒基調の机に置いてベッドに腰を下ろした。
ドレシア達は魔法車で出発していたのを確認している。恐らくここへもその魔法車で来るはず。
明日の昼までにドレシア達が天空の管理者本部を出発すると、魔法車専用道からプトレマイオス大通りに入り真っ直ぐジェミニを目指して明日の夜にはドレシアもここに到着するだろう。
残された時間は二十四時間ほど。イシューに緊急ミッションが課せられた。
「ドレシアが寛ぎ、俺の事を男として見て貰えるようなセッティングをする!」




