第四十九話 「天空」
案内人が先頭を歩いてそれにアレクシア、ドレシア、ナディア、近衛兵と続いている。
カインがいる場所まではいくつもの建物を渡り歩く長い移動だ。
そしてある部屋へ通される。
部屋に入ると、正面の大きな仕事机に老爺が座って手元の書類に何かを書いている。これまた上品そうな白髪口髭と長い白髪を一本に束ねて背中に下ろしている。
「お連れしました」
案内人がそう言うと、老爺はゆっくり目線を上げて目を見開いたかと思えば目尻のシワをくしゃっとさせて優しく微笑みかける。
「よく来たね、アレクシア、ドレシア」
そう、彼こそが天空の管理者の副元帥カイン・ガレッドだ。
ドレシアは大喜びだが、アレクシアはそんなドレシアを宥める。
「いいんだよ、去年の銀河会議ではバタバタして会えなかったから最後に顔を見たのは六年前かな。二人とも本当に大きくなって、私は誇らしいよ。グランシアと母君も元気にしているかな」
「今日はお招きいただきありがとうございます。お陰様で私も成人する事ができまして、母と弟妹も元気でございます。お招きいただいた会で恐縮ですが今日はそのご報告に参りました」
「そんなに畏まらなくても良い、顔を見せてくれて私も本当に嬉しいよ。せっかくならと声をかけたんだが、今日は元帥も最高隊長も不在でね。お詫びと言ってはなんだが夕飯は用意しているから、一緒にご飯を食べてゆっくりすると良い」
アレクシアは礼を述べる。
「成人式が終わって大変だろう?国内のこともそうだが、私たちにとってもエリダヌスは重要な存在だ。黄道十二王国序列第六位の影響力は凄まじい。父君の遺した国をしっかり引き継げているかい?」
「はい、父の遺志はしっかり受け継いでいるつもりです」
「結構」とカインも満足そう。ナディアに対しても久しぶりだと話し、それまではどこか置いてけぼりになっていた彼も嬉しそうに返事をした。
しばらく久しい再会を喜び合い、カインは今日の来訪に向けてある話を用意していたそうだ。
「正確には私が用意した話ではないのだがね、世界貴族のお偉いさんがアレクシア達を是非 《天空庭園》に招待したいと言ってきた」
「天空庭園……」
「世界貴族のいる国よ」
現在天空の管理者本部があるこの場所にも、元々は国を築き上げて生活をする人々がいた。
その国は国土、軍事力、生産力、財力などあらゆる分野でルミリア最高峰と言われた《天空》という国だった。
天空国はその軍事力を駆使して周辺国を統治し取り込んでいったが、ある代の首相が軍事力拡大を否定する平和論を提唱した。
初めは天空国の住民から受け入れられなかったが、家族を戦争で失った戦争反対派が結託しその声を後押ししたおかげで天空国は軍事拡大を停止。その年に平和の象徴として今の大陸連合である《天空の管理者》が発足した。
現在の暦はM五十七年、一年間は一月一日から十二月三十一日までの三百六十五日あるが、この数え方も天空の管理者発足を契機にA一年から進み始めた。
頭に付くアルファベットは各年九十九年まで進むと、翌年は一つアルファベットが進みB〇年とまた数え進む。
カインから提案を受けた天空庭園は、元天空国の末裔達である世界貴族が暮らす場所の事を指す。
天空庭園は天空の管理者本部内にある《月の門》を通過するしか入国する手立てはない。
故に黄道十二王国含む各国重要人物はもちろん、天空の管理者幹部でさえ容易に入ることは許されない。
アレクシア達は今、そんな文字通りの聖域へ手招きをされている状態なのだ。
「大変ありがたいお話ですが、どなたからのご招待でしょうか?私達は、世界貴族に面識のある方はおりませんでしてーー」
「世界の王だ」
世界の王、つまり世界貴族の王だ。




