第四十八話 「旅路」
十一月二十一日午前七時、城の門が開く。アレクシアとドレシアが天空の管理者本部へ出発する時間だ。
二人に同行するのはエリダヌス国の近衛兵九名の精鋭達。そしてその精鋭を率いるのは、上品な口髭を持った長身の隊長ナディア。赤い軍服がよく似合い、中央で分けた黒髪を左右両方に向けて跳ね上げている。
二人が不在の間はグランシアが代わりに国政を務める。
「行ってらっしゃい。カインさんによろしくね」
「もちろん。グランシアも勉強頑張って、少しの間だけど国を任せるわ。あとお母様のこともお願いね」
「任せてよ、アリー姉さん。俺も国を背負う王子だよ」
「頼もしいわ、では行って参ります」
「行ってきます!良い子にしてるのよ、グラン!」
「子供扱いすんなー!」
とは言いつつ、二人の姉に少しばかり心配が残るグランシアは出発する隊列を遠く見えなくなるまで見守った。
エリダヌス国領から天空の管理者本部までは早馬で十日ほどの距離だが、今回の移動手段は魔法車なので半日もかからずに到着する見込みだ。
今回の公務で使用する魔法車は、四車両で一編成の構成となっている。
先頭が運転手と兵士三名、二両目にアレクシアとドレシア、三両目にナディアと兵士二名、そして最後尾に兵士四名という並びだ。
今回はイルメルシアとグランシアがいないが、二両目に王族を乗せて前後を近衛兵で挟む。これがエリダヌス行幸の基本編成だ。
出発してすぐにナディアが二両目にやってきた。
「失礼致します。本日は平日で魔法車の通行量も少なそうですので、このまま専用道を通行して午後四時には天空の管理者本部へ到着する見込みです。途中、シーティス国領とモノセロス国領を通過しますが、ご昼食の希望はございますか?」
二人とも特に希望はなかったので、正午頃に通過を予定しているモノセロス国で適当にお店を見つけて昼食を取ることになった。
そしてアレクシア達がエリダヌスを出発してからおよそ一時間後、イシューも出発の準備を整えて家を出発した。
誰もいない家に「行ってきます」と言って扉を閉める。
アレクシア達の旅路は順調。天空の管理者が整備した魔法車しか通行できない専用道を使えば歩行者にも馬車にも気を遣わなくて良いのでかなりスピードを出して進むことができた。
そのおかげで予定通り正午頃にはモノセロス国で昼食を取り、天空の管理者領地には予定より少し早い時間に到着した。
専用道上でも入国証制度を導入している国の領地に侵入する時は通行ゲートでその国の入国証を確認しなければいけないが、天空の管理者領地への侵入には天空の管理者が承認した特別な入国証を提示しなければその領地へ侵入することができない。
通常の入国証は申請すれば誰でも入手できたり国外商店で販売しているケースが多い。エリダヌスも事前申請をすれば基本的に誰でも入国できる。
天空の管理者承認の入国証は事前申請と簡単な審査により承認された天空の管理者の各拠点領土に侵入できる。
しかしその中でも本部に関しては貴族居住地である《天空庭園》に直接つながる場所となる為、犯罪歴や入国理由などの厳しい審査を通過した者しか入手することができない希少アイテムとなっているのだ。
午後三時三十分ちょうど、エリダヌス王族一行が天空の管理者本部領土の西側ゲートを通過する。
さらに十分ほど魔法車を走らせると、ようやく本部の建物が見えてきた。
そして魔法車のまま建物の敷地内へ入り、だだっ広い前庭で魔法車を下ろされた。
「懐かしい!よく二人で来たのを思い出すわね!」
「そうね、最後に来たのは私が十四歳の時だから六年前かしら。カイン様に会うのが楽しみね」
魔法車を降りると案内人が待っていて、一行は前庭から客間に案内される。客間にはエリダヌス国一行の十二名全員が余裕で収容できる椅子と大机があった。
「時間までこちらでお待ちください」
そう言って案内人は退室した。
前まではカインの元へ遊びに行くだけで客間になど通されなかったが、こうしてしっかり客人としてもてなしてくれるのはアレクシアとドレシアが立派な客人として扱われている証。
嬉しい気もするし少し寂しい気もした。
実はナディアも過去にアレクシア達の付き添いでカインに謁見したことがある。
「私もカイン様に会えるのを楽しみにしていました。ここにいる近衛兵達は、皆カイン様に謁見した事がございませんので昨日の出発前の会議でもだいぶ緊張していましたよ」
そんな笑い話をしていると、案内人がノックして客間に入ってきた。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ」
ようやく、天空の管理者で副元帥を務めるカイン・ガレッドと再会の時だ。




