第四十七話 「勘」
その剣は魔法の効果を受け付けなかった。
「魔法を通さない剣だと?どういうことだ?」
復元を依頼して二日後、鍛冶屋から同じように連絡が入った時はアレクシア達も耳を疑った。
しかし話を聞いて現場に見に行ったところ、確かに鍛冶屋のかける研磨魔法をその剣は弾き飛ばしていた。
基本的に魔法剣は魔力を流しやすい特殊な金属で作られており、魔法の効力を受けないのは使用者が魔力を流して強化している時だけ。それ以外は魔力や魔法の効果を受け付けるはずだが、この剣はそういった性質を持っていないことになる。
「アレクシアの魔力に反応したからてっきり魔法剣だと思ったんだが、そうじゃないのか?」
「特殊な加工をしているのかもしれないわね。王室の解除魔導士に頼んでもこの剣の魔力を解く事はできなかったし、かけられている魔法や魔力も突き止めることができなかったわ」
強力な手がかりにはならなそうだが、一つの前提条件として『この剣をどうこうするのは難しい』ということが分かった。
「剣は明日から解析班に回すわ。詳しく調査して、年代や製造地方を探ってみる」
「私とアリーは明日から天空の管理者に行くし、イシューは引き続き文字の方を調査して欲しいんだけどお願いできるかな?」
「分かった。俺は現地に行ってこの文字に関係するものとか手掛かりを探したいから、ジェミニ国経由でA-ウルサに向かう」
「そしたら私も、天空の管理者から直接ジェミニに向かうからそこで合流しよ。いいよね?アリー」
「え」と声が出そうになるイシューだが、それと同時にアレクシアはドレシアの提案を了承したので聞かれることはなかった。
思わぬ展開、しかし棚ぼたのような展開にイシューは胸が踊る。
そんな気持ちを落ち着かせ、冷静な振る舞いに努めるイシューだった。
「出発は明日にする。お前達が出発した少し後かな」
「悪いわね」
手短に進捗の擦り合わせと今後の動きを確認して、今夜はこの辺りにしようとイシューが退室しようと扉に向かったその時「最後に」と扉の前でイシューは口を開いた。
「何となく、本当に何の根拠もないんだが、俺はこの話が何だか凄く大きな話になっていきそうな気がしているんだ」
イシューはそうは言うがアレクシアとドレシアは分かっている。イシューの勘は、不思議なほどよく当たるのだ。
「だから、事が動き出す前に確認しておきたい。もしこの話がどんな結果を齎したとしても、お前達は後悔しないか?」
イシューのその質問に、アレクシアは戸惑った。
後悔、感じる可能性はゼロではない。
この謎に蓋をしておけば良かった、知らない方が良かった、そう思わないことを約束することが果たしてできるだろうか。
アレクシアにとって自分の命よりも重いもの、それは家族や国民の命と父が遺したこの国だ。
もしそれが危機に晒されることになってしまったら、自分は必ず後悔する。
「私は、もしかしたら後悔するーー」
ドレシアは驚くが、イシューはその言葉を聞いてもアレクシアをじっと見つめている。
「でも、この謎を解いた後悔よりも、解かない後悔の方がきっと私には痛く刺さる」
「アリー......」
「何もしないまま諦めて蓋をするのは嫌よ。もうお父様のような後悔を、私は私に与えない」
イシューはしばらく考えた。
「ならいいんだ。その覚悟があるなら、俺も協力するよ」
そう言ってイシューは退室した。
ドレシアは今のイシューの言葉の真意をあまり理解していないような雰囲気だが、アレクシアには分かる。
アレクシアの女王としての覚悟を試したのだ。
『もう俺達は、何も気にせずに知りたいことだけを追いかけ回せる立場ではない』イシューはそうアレクシアに言いたかったのだろう。
しかしアレクシアの心には、もう芽生えてしまった。
「私の好奇心は、たとえ自分でも止めることはできない。あの時決めたんだ」
剣を握った時の決意をアレクシアはもう一度自分に戒めた。
「私はもう、逃さない」
そしてアレクシアとドレシアも明日に備えて眠りについた。




