第四十四話 「イシュー」
城下町を駆けるドレシア。
しかし、お祝いムードの国民を見て改めて思い出した。今はアレクシアの成人式、ただのお祝いではなく節目の日である。
アレクシアも二十歳になってドレシア自身も十八歳。もう場を弁えなければいけない大人であり、王女として相応しい立ち居振る舞いをしなければいけない。
アレクシアの妹として、グランシアの姉として恥じぬ女に。
ドレシアは走るのを止めて、落ち着いた大人の女性として街をゆっくりと進む。
もちろんドレシアも国民にとっては長く娘のように見守ってきた大切な存在。その姿を見て改めて成長したと喜ぶ国民ばかりだ。
ドレシアはアレクシアと違ってあまり打算的ではないので、その国民の話を真に受けて反応すると次第にトーンは盛り上がっていき、つい立ち話に花が咲いてしまう。
するとその群衆を割ってドレシアの耳に届く声が一つあった。
「こんなところで油売ってていいのかよ!ドレシア」
「あ、イシュー!」
茶髪で顔立ちの良い青年、背はドレシアよりも頭一・五個分くらい大きいだろうか。翠の服が良く似合う彼こそが、アレクシア達の唯一無二の幼馴染イシュー・フルパだ。
口の周りが汚れているのは標準仕様ではなく成人式特別仕様だ。
「何食べたの?こんなに口の周り汚して」
「豚肉のソテーに、魚のムニエルだろ?あ、あとナオトマの蒸し炊き飯も食べたぞ!」
「ドレシア様も食べにきてくださいよ!」「美味い料理、沢山ありますよ」
すかさず群衆は合いの手を打つ。
「あ、そういえばドレシア、俺に用事があるんじゃないのかよ」
「え?なんで知ってるの?」
「アレクシアかグランシアに頼まれて俺を呼びにきたけど、そのままみんなとの話が盛り上がってすっかりって感じだろ?始まりから今までその場を見てなくても全部分かるぜ」
昔から同じような場面を何度も体感しているイシューにとっては、ドレシアの行動推理など朝飯前だった。
群集を掻き分けて、二人は早々に城へ戻る。まだ城内では宴会が続いていた。
「姉さん達、どこに行ったんだ?みんな酔っ払ってきてめんどくさいよ……」
宴会場でキョロキョロしているグランシアが目に付いたので、身を潜めながら奥の廊下に進む。
「城の中の食べ物も美味そうだな!」
こっちの事情などお構いなしで食べ物に釘付けになるイシューを引っ張って、ドレシアはアレクシアのいた部屋に戻った。
「イシュー、来てくれてありがとう」
「アレクシア!誕生日おめでとう!」
「ありがとう。ところでドレシア、随分遅かったけど何かあったの?」
イシューはドレシアが城下町で油を売っていたと話そうとしたが、必死にドレシアがそれを止めて何もなかったと言い張った。
改めてアレクシアは先程遭遇した不思議体験を、フードの男と遭遇したところから話し始めた。
ドレシアとイシューはその話を聞いて、正直半信半疑だった。
特に二人を混乱させたのはやはり現実離れしたドラゴンの話だ。
「ドラゴンってかなり非現実的過ぎるぜ。本当にドラゴンだったのか?似ていた形の雲と見間違えただけじゃないのか?」
ドラゴンについては風を感じたという確かな感触が心細くも何よりの証拠だった。当然、実際に体感していないイシュー達にとっては信じるあてにはならない。
しかしドレシアは自分の中に浮かぶ半信半疑の念を押し殺して、姉妹の絆を信じることにする。
「私、信じるよ。アリーがこれまで嘘をついたことなんてなかったし、何より私のこともこれまで沢山信じてくれたしね」
「ドレシア......ありがとう」
そして何より説得材料になるのは、持ち帰った錆びついている剣だ。
流石にこればかりはイシューも不審に思いつつ親身になって考えてくれている。
「確かにこれは証拠もあるしな。でも、なんでそれで俺たちを集めたんだ?別にこの剣を使ってどうこうしようって話じゃないだろ?」
「私も最初はそう思っていたわ。この剣が目の前に現れたからといっても私がこれで何かをできるわけではないしね。でも、この剣を放置するのも違うと思わない?」
あまり勘の鋭くないドレシアでさえ、ここまで話せばアレクシアが何を言わんとしているのかを察することはできた。
「そうか!その剣について私たちで調査するのね!」
「えぇ」
そう言ってアレクシアはもう一度、その剣に魔力を込めた。
文字が浮かび上がる刀身を見てドレシアとイシューは驚いているが、アレクシアは自分の決意を再確認した。
「この剣と文字について調べて、あのフードの男性とこの剣が私に何を伝えようとしているのか調べ上げるわ」




