第四十一話 「フード」
午後六時、エリダヌス城下町ではアレクシア女王の成人挨拶が行われようとしており、国民達が特設ステージに集まる。
数分後、アレクシアがステージに登壇した。
「親愛なるエリダヌスの皆様、今日はこんなにも盛大なお祝いの席を用意して頂いて本当にありがとうございます。こんなに暖かい国民に囲まている私は大変幸せです。十二年前、国王が姿を消した時は国民の皆様に多大なご心労やご苦労をおかけいたしました。父の先導で我がエリダヌスは繁栄の一途を辿りましたが皆様の苦労あってのものでしたので遺された者の気持ちは私もよく理解しています。今日からは私が女王となりあなた方を導かせてください。余はエリダヌスと共に!」
歓声は上がるが、それよりも感動の泣き声の方が多くその場には広がった。
エリダヌス国民は、アレクシア達が子供の頃から彼女達を見ている。
父親を亡くした心労が一番重かったのもイルメルシアを含めた王家四人だと知っている。
それでもその悲しみに暮れる事なく、国のため、そして国民のために努力してきたことをファーテルと同じで国民達は深く理解している。
だからこそ、成長した愛する君主に感動せずにはいられないのだ。
遠くで見ているファーテルも涙を流している。
(違いますよ、アレクシア様。あなたは既に王として立派に国を治められている。今までも、そしてこれからもね)
アレクシアはスピーチを終え、感極まっている国民を目に焼き付けている。
するとその中に、フードを深く被っている明らかに怪しい者が奥の方に一人でいた。
アレクシアは一礼し、ステージ袖に捌けて警備兵に声をかける。
「怪しい者が広間の隅に、くたびれたフードをかぶっている者です。お願いします」
警備兵はすぐに現場に向かった。
壇上では、さらに盛大なお祝いにする為の催しが繰り広げられている。アレクシアは城下町を回って舞踏会に戻る予定だったが、さっきの怪しい人物の行方を見届けてから城下町に行こうと考えている。
警備兵は応援に二人引き連れて、合計三人でその不審人物を探している。その様子をアレクシアも袖から少しだけ顔を出して見ていた。
アレクシアには不審人物を探す警備兵と、未だその場から動かないフードを被ったままの不審人物が見えている。
警備兵の一人がまもなく不審人物を視界に捉えられる位置に到達するーー
しかし警備兵はその不審人物を見つけることができず、その場を素通りしてしまった。その様子にアレクシアは目を疑った。
確かに警備兵の視界には不審人物が入っていたはず。特徴も伝えたし、取り逃すはずはないと思っていたアレクシアは自分の見間違いかと疑った。
警備兵はしばらく探した後、アレクシアの元に戻ってきて不審人物がいなかったと報告した。しかしアレクシアには今もステージ袖からその人物が見えている。
「あそこにいる人ですよ!広場の一番右側に置いてある大卓の奥です!」
その場で指を刺して警備兵にその姿を示すが、全く伝わらない。
どうやら警備兵にはその者の姿が見えていないようだ。
アレクシアがもう一度見ると、その者はアレクシアに向かって手招きをしている。こちらへ来い、ということだろうか。
アレクシアはそこへ向かった。
警備兵は、自分には見えていない何かが見えているアレクシアに心配の表情を浮かべるがアレクシアは「大丈夫でした、すみません」と言って自分の勘違いということで事を済ませた。
アレクシアが動き出すのと同時にフードの者も一緒に動き出す。ステージ袖から出ると国民の目に触れるので多くの民に囲まれる。
アレクシアはそれをかき分けてフードの者についていく。道中もフードの者に必死に話しかけてみるが、返事が返ってくることはなく無言で先を歩き続けた。
しばらく歩くと、街を離れて森の中に入った。
森に入ってもずっと無言のままフードの者はアレクシアの前を歩き続けている。
「どこへ行くつもりですか、この先はただ国を出るだけですよ」
それでも何も答えてくれない。
かなり深くフードを被っているので顔を見ることはできないが、体格からして男性のように思える。
さらに歩き続けると、森の中の木々の間隔が広い開けた場所に出た。
「ここは......」
アレクシアは周囲の空間に不思議な魔力を感知する。人間ではない、人間よりも強大な魔力が充満している。
「ここはどこですか!?」
しかし、さっきまで近くにいたフードの男?は既に辺りにはいなかった。代わりにアレクシアはあるものを発見する。
それは、地面に刺さっている錆びた剣だった。




