第三十五話 「没入」
私は魔導士だ。千宙は強く思う。
ジャミンはここでようやく相手が格下では無いことを悟る。
二人は互いに拳を交えた。
互いの魔法、攻撃、その一つ一つが戦いの局面を大きく変える一手になりうる。
逆に言えば、かける魔法一つ一つが勝因になり、敗因にもなる。そんな緊張感を互いに持って、相手の動きを見つめている。
そんな戦局の中、先に仕掛けたのは千宙だった。
千宙の魔法ではまだ相手を拘束することはできない。しかし、さっきジャミンの身体を引っ張ったように相手の動きを妨害することはできる。
あれをもう一度やりたい。
イメージは先端が粘着性を持つ鞭を相手に投げつけるように。
魔力の糸が美しい放物線を描いて、まるで水面に放たれた釣竿のようにジャミン目掛けて真っ直ぐ飛んで行く。
しかし確かにジャミンはそれを見切り避けつつ千宙に迫る。
イメージ、強くイメージ。魔法は自由だ!
千宙は魔力の糸を縮ませながらスナップを効かせてジャミンに粘着させる。しかしジャミンはそれを魔力を帯びた手刀で切断した。
(目に見える糸だな。さっきは見えない糸でミーの魔法に繋いできたが何か策があるのか?)
瞬時にジャミンが千宙に魔力の糸を付ける。千宙はそれを確かに感知している。
千宙は不思議に思う。何故自分の糸は目に見えるのに、相手の糸は目に見えないのだろう。
「いや、さっきできたし……できるか」
すると千宙はジャミンの糸に繋がれている状態で、ジャミンに見えない糸を接続した。
ノーモーションからの魔法発動。さっきの雅博も同じ事をしたが、これまでの魔法のレベルを考えると千宙にとっては有り得ない偉業だった。
それは僧侶にも勝る、その他の邪念を捨てた千宙史上最高の没入感覚。
もはや千宙の五感は、戦闘以外の情報を全て遮断して戦いと自身の成長に必要な情報以外を自然と受け付けない状態に突入していた。
何がそうさせているのかは分からない。
しかし確かに駆り立てられるその感覚は、千宙がこの先何年もかけて成長するであろうその軌跡を辿り、自分の未来を先行体験しているような感覚だった。
両者魔法が接続されているが、動きを止められるジャミンに分がある。
「これでフィナーレでしょ!」
ジャミンは千宙の顔面を思いっきり殴ーーろうとするが、ジャミンの動きがその少し手前で止まる。
ノーモーションで千宙が魔力の糸を縮める。
更にジャミンの蹴りが襲うも、千宙の糸は既にジャミンの全身至る所に付いている。それを利用して足の動きも止めてみせた。
両者膠着状態。千宙は動けず、ジャミンの攻撃は千宙に届かない。
ジャミンは攻撃をしながらこの状況を打破する策を考えている。
しかし千宙は違う。千宙は正確に状況を読み取り、魔法への解釈を深めていた。
(敵は私を止め続ける為に魔法を動かすことも魔法を解くことも、私を攻撃することもできない。私は動くことはできないけど魔法を動かすことはできる。伸縮自在の魔法の糸)
千宙は気が付いた。
「え?勝てんじゃん」
千宙は更に自身の魔法にスナップを効かせ、ジャミンの首にかける。ジャミンの首が千宙の魔法で締まった。
ジャミンは急に首が攻撃されるとは思っておらず「ぐぅおえ!」と言って後ろに倒れる。
虚を突かれるとジャミンの魔法は解ける、さっきの応酬で学習した千宙はすかさず身体を迫らせてジャミンに拳を構える。
村人にかけられた魔法を解いて回っていた雅博、未巴琉、成未は確かに見た。
千宙の拳が金色に光り輝き、まるで星々の灯りを照らし集めたような正拳がジャミンの胸部深くにめり込み、確かに千宙が勝利する瞬間を。




