第三十四話 「嫌」
戦闘中のジャミンと千宙。依然、他の三人は動くことができない。
「星導先輩!僕たちの拘束を解いてください!」
「私達も加勢するから、ちっち!」
「お願いします!」
千宙はその呼びかけに、単純な感情を抱いた。この助けの手を差し伸べる状況が純粋に「嫌だ」と感じたのだ。
しかし千宙はそれを口にはしない。
手を差し伸べる三人の気を悪くしたい訳でも、敵に別の策がある可能性を勘繰らせたい訳でもない。
これまでの千宙なら、皆で困難を乗り越えて確実に遥実を救い出す道を選んだはずだ。
しかし、今は少し違う。
自分が少しずつ魔導の高みに登っていくのが心地良く、その道を踏みしめて歩く自分への期待と、今まさにそれが行われているこの瞬間に快楽を感じている。
それを邪魔して欲しくない。前まではそんなこと思うわけがなかった。
私は変わったんだ。私は魔導士になった。
そしてそれが三人にバレるのが怖い、何よりも「嫌だ」と答えることでその道を選ぶ事になる自分を千宙は嫌悪していた。
戻れなくなるのが分かっていた。
あれだけ忌み嫌っていた魔法に魅入る事が、恐らくこの先も壁を感じて自分に絶望する未来が来ることは分かっていて、それがたまらなく嫌で、それがたまらなく進みたい道で、もう足を止めることは出来なくなっていた。
「…だ」
消え入るほどの声に、ジャミンまでも千宙の言葉に耳を傾ける。
「星導先輩?」
「嫌だあああああああああああ!!!!!!!!!!」
千宙は自覚した。私は、魔導士だ。
「私がこいつに勝つ!私以外の誰にも勝たせない、私が!こいつに!!必ず!!!」
堰を切ったような千宙の剥き出しの感情に三人は立ち尽くす事しか出来なかったが、ジャミンはそれを見て同じように高揚する。
千宙はもはや戦術や組手など関係なくジャミンに飛びつく。まるで獣のようだ。
「ははっ!おもしれぇ女だ!ミーがどかーんとぶっ飛ばしてーー」
千宙の動きが止まる。
「やるよぉー!」
止まった千宙の顔に拳を振るうジャミン。しかしそれを掌で受け止める千宙。
「なにぃ!?」
(こいつ、止められたフリをしたのか?だがミーは確かに魔力の糸を飛ばしたぞ!?)
すると千宙が何かを引っ張る動きをした。と、同時にジャミンの手が引き寄せられる。
「な、てめぇ!ミーの魔法にーー」
そう、千宙はジャミンの魔力の糸に自分の魔力の糸を付けてそれを引っ張った。バランスを崩したジャミンは顔から千宙の方へ倒れ込んでいく。
その勢いを利用して、普通に殴るよりも重い一撃がジャミンに入った。
千宙はこの時、初めて感じた。自分よりも強い者を圧倒した時の勝者感、達成感、そして何より熱く感じるのはその快感だった。
吹き飛ばされたジャミン。受け身を取るのが精一杯で、雅博達の拘束が解けてしまった。
「星導先輩……」
「ごめん、でもこいつは私の獲物だから、みんなは村の人達を保護して。お願いだから、手を出さないでね」
魔導士だけにあらず、人間は自分と比較して圧倒的な強者と相対した時、二種類の人間に分かたれる。
強者を恨む人間か、強者を楽しむ人間か。
さぁ、お前はどっちだ?
「これが……私なんだ」
今、星導千宙は本当の星導千宙に気が付いた。




