第二十八話 「ルート」
「や、やったぁ!」
雅博、第一段階の固体は一発クリア。それに続き何度かトライして成未もクリア、コップの上に蓋をするように緑の魔力が覆い被さる。
残る二人は少し苦戦しているようで、先にクリアした雅博と成未は早速第二段階の液体に挑戦を始めた。
すると更に早くも雅博は水中に小さな石を作り出すことに成功する。これは液体の中を魔力が通って、その中で魔法が発動した証拠である。
流石に成未はまだ液体をクリア出来ていないが、それでもノンストップで第三段階まで行く者が現れたのは斎にとって想定外の成長速度だった。
雅博はここから気体に魔力を通すため、コップを触らずに手をあてがう第三段階へ進む。
更に時間が経つと未巴琉も第一段階をクリアして、コップの上に本を召喚することに成功した。
残るは千宙だけが第一段階をクリアできずにいる。やはり魔法に関しては全くのノーセンス、つくづく自分を呪う千宙だった。
「よし、私も第二段階!でもコップの中に本は出せないなぁ」
「何か別の魔法でも良いよ。そうだねぇ、見やすいように小さい竜巻とか起こせないかい?」
「できます!それで良ければ!」
そう言って未巴琉は本を開いた。
修行開始から二時間が経過して、時刻はもうそろそろ午後五時を回ろうとしていた。
しかし未だに千宙だけが第一段階で苦戦していた。他の三人もそれ以降全く進展せず、停滞している。
見兼ねた斎が中断の合図をかける。
「全く進まなくなったね。出来ない理由を教えてごらん」
原因は全員理解していた。千宙と雅博は単純な理由だが二人とも固体と気体に魔力を通せず、成未と未巴琉は流動する液体という環境に魔法を形成できていなかった。
それを聞いた斎は、その二種類の原因に解決策を提示する。
「魔力が通せない時は魔力の筋道を変えるんだよ。今魔力を通しにくいのは、物体の中でも魔力が通りにくい道か自分とは相性の悪い通り道のどっちかに通そうとしてるんだよ。別ルートに、必ず自分に適した通せる道がある」
別ルート、千宙はイメージする。
例えば家からパン屋に行く場合、複数のルートがある。
私は道をいくつも曲がるのが嫌いな私は平坦だが曲がり角が三つある道ではなく、坂道でも一度曲がればパン屋に到着出来る道の方が助かる。
それを今の状況に例えて家が私、パン屋がコップの上(魔法が発動する場所)、道がコップで歩く自分が魔力。
私は今、嫌いな曲がり角が多い道を無理やり進もうとしている。
でももしかしたら今知らないだけで、少し戻ってたった一度別のところを曲がるだけでパン屋に辿り着ける道があるかもしれない。
そう、初めはその道を知らないだけ。幾つも道を試してみれば、そこに自分の最適ルートがあると気付く!
「あっ!」
千宙のコップの縁にようやく1本の糸がかかった。ようやく千宙も第二段階突入だ。
「そして成未と未巴琉、お前達は筋道を意識し過ぎ。通り道が流動するならその流れを感知して、それに乗せて魔法を発動するんだよ。環境に逆らっても、その逆行にエネルギーを持っていかれて行き着く先では何も出来ないよ。イメージはまず全体を掴むこと」
既に千宙は水の入ったコップに手をかけている。成未達が躓いているなら必ず自分も一筋縄ではクリアできない事を分かっているのだ。
千宙は今度目を瞑ってさっきの斎の言葉をもう一度イメージした。
さっきと同じ例えでパン屋、つまり水中に魔力を進めている途中でそのルートを無理矢理変えられてしまうということ。
変えられてしまうなら、変えた先にも道がないかを探せば良い。
全体を把握して目的さえ忘れず諦めないで探したらきっと辿り着く。
たとえ自分が目指した場所、行きたかったパン屋じゃなくても、パンの売ってるお店が近くにあれば立ち寄る。魔力も同じ、溜められる場所があるならそこで!
ゆっくり千宙が目を開くと、水中で紐が水とコップを繋いでいた。更に隣を見ると水の中で小さな竜巻を起こす未巴琉と、コップの水を優しい緑に輝かせる成未。
無事に三人とも、第二段階突破。これで全員第三段階に進んだことになる。
「一発の助言でよくやったね!さて、じゃあ今日はこの辺にしてそろそろご飯にしようかい」
四人はそれぞれ、自分達の成長を実感していた。




