第二十七話 「コップ」
千宙から斎へ、なぜ自分達を助けてくれるのかという質問に、斎は自らの思いを語り出す。
「前にね、あんたらと同じような地上人が私のところに来たんだよ。巡り合わせは偶然だったけど、そいつはずっとこんな世界はおかしい!って言ってたね。面白い奴でさーー」
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三年前、斎は仕事を辞めたばかりだった。
それまで仕事で忙殺された日々を取り戻すように羽を伸ばしていた斎の元へ一人の青年が現れた。
その青年はいきなり飛び込んできたと思ったら大層な絵空事ばかり言う青年で、世界中の平和を心から願いそれを拡声器で拡げ求めて回るバカ正直な男に斎からは見えた。
何週間か入り浸られたところで、斎は青年からある頼みを受ける。
それは地底に囚われている罪のない地上人を解放する為に、政府の目を少しの間だけ引いて欲しいというものだった。
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「お前達も分かってるとは思うけど、私は元々ロストラムの人間だった。だから辞めた後でも一応政府にコネがあってね、それを使えと言ってきたのさ」
この言葉に未巴琉だけまるで今知ったという驚きの表情をしている。
「私もその頃は政府を出たばかりだったから、安定した世界を切望していてね。あいつの頼みを断ったんだ。そしてその後、あいつが大きな戦争を起こしたのさ。結果、奴は負けた」
千宙は、斎は正しい事をしたと思った。
今ここにいる他の三人がどう思ったかは分からないが、それまで何年も地底世界の為に戦ってきた人間が急に自分の考えや信じる正義を変えられるはずもない。
しかし斎の顔を見ると、恐らく斎はその時彼の頼みを断った事を間違いだと思っていて、今もそれを後悔しているんだろうと千宙は感じた。
「それを知った時、私は後悔してね。その戦争の後、世論の声をこの辺りで聞いたんだ。そしたらあいつが正しかったっていう声が幾つも聞こえてきてね。私は自分のエゴと押し付けられた正義に支配されていたんだって気付いてさ……この歳にしてやっと自由になった気分だよ」
千宙はぐっと言葉を堪えた。
見ず知らずの自分達を助けてくれたこの人を励ましたい、貴方は間違ってなんていないと言ってあげたい。
だがもう斎の顔はそんな言葉を待っている顔ではなく、自由に気がついた顔をしていた。
そしてそれと同時に、その気付きがあったから今自分達が斎と出会うことが出来たのだと悟る。
千宙は自分の浅さを思い知ったと同時に、自分にもこの凝り固まった固定観念を打ち破る何かに出逢いたいと強く思うようになった。
「ありがとうございます、貴方の想いは理解しました。さぁ、修行を始めましょう!」
千宙は自分の両頬を叩き、気合いを入れ直した。
ようやくこのコップ達の使い道が分かる。
「では問題。物体の魔力流動係数、つまり魔力が流れやすい状態を高い順に答えよ」
「固体、液体、気体!」
間髪入れずに千宙が答えた。
「正解!そしてそれは水以外でも全ての物質が同じ性質を持つ。この前提で成り立つ修行法、その名も『コップ修行』じゃあ!」
「えーっと、そのまんまですね!」
斎的には未巴琉の元気なところが好きなので、雅博が今の言葉を放っていたらボコボコにしたが、未巴琉だから許すと言った。それを聞いて雅博は心の底から理不尽を感じている。
「まずは空のコップの上に魔法を発動させるんだ。固体、コップに魔力を流すんだよ。そして次に水の入ったコップ、液体に魔力を流して水中に魔法を発動する。最後はもう一度空のコップ、気体に魔力を流してコップ内の空中に魔法を発動させる。もちろん、魔法陣の展開は禁止だ」
斎曰く、この修行法で魔力の強度と精度、操作性が向上して戦闘魔法における基礎の基礎が習得できる最も効率的な修行法だそうだ。
「第二段階の液体まではコップを触って良いぞ。ただしこの時、片手しか触ってはいかん。片手で行う事により、これまで両手で行っていた魔法発動をよりスムーズかつ安定して行えるようにする」
早速片手で空のコップを掴んでやってみると、意外と難しい。すると早速その素質の片鱗を見せる魔導士が一人。
「おぉ、自己紹介は普通なのにこれは秀才だなぁ!」
雅博が掴むコップの上には、コップを塞ぐように石がコップに乗っていた。




