第二十四話 「教え」
「助けてくれるって、どういうことですか?」
千宙は斎の言葉の真意を掴めずに、そのまま聞き返した。
ここでようやく手当てが終わった斎は、余った包帯や絆創膏を片付けてきて改めて席に着く。
千宙はさっきの質問の答えを待っている。
助けると言ったその真意。匿う?ロストラムに便宜を図ってくれる?過剰な期待は禁物だと分かっていても、誰かにそう言って欲しかった千宙はつい浮かれてしまう。
「助けるって言っても、別に何をするわけでもないけどね。まず、お前達のその弱っちぃ身体と魔法から鍛えてやるよ」
助けるとはそういうことか、と千宙は少し落胆しながら納得した。
「お前さんら、その罪人を助けに行くんだろう?アキラ如きにピーピー言ってるようじゃ、話にならんよ」
「知ってるんですか?さっきの魔導士を」
「ロストラムの幹部さ、魔王直属の部下だよ」
「魔王?」
斎はロストラムの軍制度について説明する。
「まずロストラムのトップに地底王がいるだろう。その下に四人の精鋭がいて、そいつらは『地底四天王』って呼ばれてんのさ。んで、そのうちの一人が『魔王』、その直属部下があのアキラだよ」
「地底四天王......」
「その四人はそれぞれ『魔王』『剣王』『大王』『女王』って呼ばれてて、それぞれ一人ずつ直属部下を持っている。四天王とその直属部下が第二層以降の各層を管理してるんだよ。第一層は地上人の飛び込みが多いから、幹部は管理していないのさ。もうこの層も四天王らのテリトリーだけど、ここから先その八人には注意するんだね」
その話を聞いて千宙は、引っ掛かる名前があった。
「剣王......それってもしかして、キリアって人だったりします?」
「お、知ってんのかい?」
ここで千宙と未巴琉は、第一層で戦った剣士が四天王の一人だったことに気がついた。
しかしさっき斎が言っていた事と合わない辻褄に千宙は違和感を抱く。
「あれ?でも第一層だけは幹部が管理してないって」
「会議にでも来てたんじゃないかい?管轄外の地区でも往来は結構するんだよ。アキラだって第三層が管轄のはずだしね」
なるほどと納得し、キリアの話に話題を戻す。その時のことを説明すると、斎はよく生きてここまで来れたと感心した。
「ギリギリでしたよ、私たちの魔法が何も通用しなくて」
「魔法が通用しなかった?魔法は使えたのかい?」
「え?流石にそれくらいは」
しかし斎は考え込んだ。
「いや、そりゃお前達遊ばれてるね」
千宙と未巴琉は予想もしない答えに次の発言に悩んでしまった。ちゃんとその場はキリアを撒いたし、あの時の必死そうな表情を見たら善戦したと少なからず思っていた。
「さっきのアキラとの戦いを見て、お前達は魔法を使う時に魔法陣を展開していたね」
「そりゃもちろん、だって魔法陣を展開しないと魔法は発動しないじゃないですか」
斎はその話を聞いて寝室に聞こえるほど大きな声で笑った。
斎にしてみれば、良い子ちゃんらが「学校で先生に言われたから〜」と言い訳をしているようにしか聞こえなかった。
「いいかい?そりゃお前達がただ魔法を普段の便利としてしか使わないからさ。戦闘で魔法を使うってなったらいちいち魔法陣なんて展開しない、そんなことしてる間に敵の魔法でやられちまうよ」
魔法陣を展開しないで魔法を発動する。
二人はこれまでの場面を思い返してみると、確かにキリアもアキラも魔法を使う時に魔法陣は展開していなかった。
しかしそれだと魔法定義が安定せず発動中に効果が切れるか、発動したとしても精度は疎かになる。二人の中学で魔法科の全学年を担当していた先生がそう言っていた。
「魔法陣を展開しないスタイルに慣れて、魔力も精度も落とさず使えるようになって、初めて1人前の魔法使いさ。まずこれができるようになんないとこの先の地底は真っ先に死ぬよ。さっきキリアが遊んでたって言ったのも、あいつの攻撃なら魔法陣を開いてる間に相手を斬ることができるからね。魔法を使う猶予を与えられていたんだよ」
心外、しかし言い返す言葉がひとつも見つからないほど的確に当を得ている言葉に千宙は悔しさを滲ませる。
「他にも、魔力増強や肉体強化。やらなきゃいけないことは山積みだけど、まずはこれだね」
そう言って斎は、水の入ったコップと空のコップをダイニングテーブルの上に出した。




