第二十三話 「とき」
雅博とアキラの間に現れた老婆。中肉中背だがショートヘアの白髪で明らかに年季が入っているのが分かる。
さっきまでアキラが右手で魔法を構えておりその右手を老婆が抑えている様子から、雅博に魔法が当たる直前に老婆が防いだと推測できる。
「弱い者いじめはその辺にしときな、アキラ」
「くっ、トキ......」
雅博は依然として自我を失いながら魔力を解放し続けている。アキラに「トキ」と呼ばれた老婆はその様子を見て千宙に話しかける。
「こいつを介抱してやんな。早く治療しないと死ぬよ」
千宙は指示を受けてハッとした。しかしこんな状態では触れることすらできない。
すると突如として地面からまるで蛇のような巨大な化け物が出現する。その化け物は後ろの情景が透けて見えて、霊体に近い存在だと分かる。
化け物は雅博の体を締め上げ、首に噛みつき姿を消した。すると雅博の身体から立ち昇り纏わりついていた魔力が凪いでいくのが分かる。
それを見て千宙はすぐ雅博の元に駆けつけた。呼吸、脈拍、身体の異常を確認する。
「......意識はないけど、みどうくんは大丈夫みたい。みはるちゃん動ける!?なるみんお願いしたい!」
未巴琉もその言葉を聞いてハッとし、成未の元へ駆け寄った。どうやら成未も気絶しているが命に別状はなさそうだ。
「まったく、さっさと戻りな」
「それはできない相談だな。その者達は犯罪者だ、身柄を拘束しなーー」
「戻りな、と言っているのが聞こえないのかい?」
その老婆から放たれる凄まじい魔力でアキラは魔力を収める。それを確認して、老婆も掴んでいたアキラの右手を離した。
「ほら、さっさと行きな!」
去り際に千宙を一睨みして、アキラはその場を立ち去った。
しかし千宙はまだその老婆を信じ切る事はできなかった。
「あの、あなたは......」
老婆は千宙の不安そうな呼びかけを無視して、しばらく千宙達を見る。そして背中を向けた。
「ついてきな」
守ってくれたということは味方なのか?一応、敵意はなさそうだ。
今の状態ではアキラの魔法を片手で止めたこの実力者からは逃げ切ることも抵抗することもできないので、最悪敵だった場合は諦めようと覚悟を決めて老婆について行くことにした。
負傷している雅博と成未はそれぞれ千宙と未巴琉が背負う。 そのまま老婆についていくと、街の離れにある外見はとてもボロそうな家に到着した。老婆の家だろうか、彼女は鍵を開けて家の中に入っていく。少し戸惑っていると「入んな」と声がした。
家に入る前に表を見ると、乱雑に突っ込まれた郵便物とその上には「神喰」と書かれた表札が掲げられていた。
老婆から早くするよう声をかけられてしまったので、その表札について考えさせられる暇もなく千宙と未巴琉は雅博と成未を背に乗せたまま中に入った。
中に入ると目の前には廊下、左側には二階への階段と右側には部屋への入り口が一つ、奥は扉に閉ざされている。
「奥の部屋にベッドがあるから、寝かせたら手前の部屋に来なね」
千宙と未巴琉は言われるがまま雅博達を寝かせて、その後老婆のいる部屋に行く。
その部屋では老婆が緑茶を入れて、四人掛けのダイニングテーブルで腰をかけて二人を待っていた。座るよう言われて二人は座る。
「痛っ!」
椅子に座るという行動で、アキラから受けた生傷が再び開く。
雅博を背負っていた時はまだ興奮状態が冷めていなかったのかあまり感じなかった痛みも、ここに来て少し落ち着き、さっきまでとは違う動作に身体が反応したのだろう。
「そのまま座ってな」
そう言って立ち上がった老婆は少しして手に包帯や絆創膏を持って戻ってきた。
そして無言のまま千宙の傷を手当し始める。
「あの......色々助けていただいてありがとうございます。けど、私たちはーー」
「私の名前は神喰斎」
手当てを受けながら聞くその名前に二人は驚いた。
Underworldで初めて会う自分たちと同じような名前、学生時代は周囲に何人かいたがこんな所にもいたとは思いもよらなかった。
「あんたら、最近捕まった地上人の仲間なんだって?何したんだい?」
「知らないんですよ!そもそも私たちは何もしてなくて、今捕まってる知り合いも何したのか全然分かんないんですよ!」
「そうかい。で、さっきは何してたんだい?」
「奴が襲って来たんです!」
「そりゃあんたらが犯罪者だからだろう」
応対していた未巴琉は、少なからず斎に苛立ちを覚えるがそれでも千宙は冷静に現状を話した。
「私たちは本当に何もしてないんです。でも、彼を助ける必要があるとは思っています。だからこの層にも進んできました」
その言葉を聞いて斎はニヤリとした。
「そうかい。なら、私が助けてやろうかい」




