第二十話 「向かい風」
キリアよりも厄介と思われるロストラムの魔導士、アキラの襲来によって千宙達は窮地に追い込まれていた。
しかし千宙達はこのレベルの魔導士がうじゃうじゃいる敵の懐に入り込んで遥実を連れ戻さなければいけない。臆している場合ではないという自覚を持ち、再びその膝を立ち上がらせる。
「いくら立ち上がっても無駄だ」
今度は強風が上から叩きつけられ、四人とも立っている事ができず地面に伏してしまった。これではまるで重力だ。
(こいつは風の魔導士......それなら!)
「立つか」
千宙はゆっくりと立ち上がり、雅博に向かって手を開いた。何かを渡せと言っているようだ。
千宙がじっとアキラを睨んでいる様子を見て、雅博はその時欲しがっているものが分かったようだ。
(この状況で魔法使えって、相変わらず手厳しいですね星導先輩!【土魔剣】)
腕を上げ、魔法陣を展開し、土魔剣を作り出す。一つ一つの動作を丁寧に、というわけではなく、やっとの思いで千宙の指令を実行しようとしているのだ。
雅博はどうにか土魔剣を千宙に渡した。未だ上方向からの強風が吹き付ける中、千宙は立ち続けアキラを見ている。
(伏せた状態から立ち上がるまでは厳しかったけど、一度立ち上がってしまえば耐久するのはそこまで苦じゃない。難関は動き出し。動け、動け!)
ゆっくり、だが確実に千宙は前に進み始めた。そしてそのまま加速し、なんとか上からの強風域を脱出する。
先ほど吹き飛ばされたのでアキラまでの距離はおよそ四十メートル弱、千宙は走った。
再びアキラは、彼から千宙に向かう強風を吹き付ける。しかし、千宙は吹き飛ばない。
「うおおおおお!」
なんとそのまま走り続けている。
「なんだと!」
「うおおおおおらああああああ!」
そのまま土魔剣をアキラに向かって振り抜いた。その様子を見て三人は唖然としている。
千宙が振り抜いた剣は、アキラの頬を掠める。その箇所だけ、包帯が少しだけ捲れ落ちた。
包帯の中は少し赤くなっているように見えたが、アキラが急いでその包帯を締め直したのでよく見えなかった。
「よくぞ一撃入れた。俺の強風を突き進むとは、気合いか?」
「まさか。私はそんな脳筋じゃないわ」
そう言って千宙は靴の裏を見せた。するとそこには、魔法陣がある。
「私の魔法は接続魔法。触れたものを一定時間接続することができるから、あんたの風で吹き飛ばされそうになる私の体を地面に接続したってわけよ」
「なるほど。地面に着いている足だけ接続し、踏み出す足が地面から離れる瞬間に接続を解除する。手にも同じような魔力を感じるな、その剣も離さぬように接続しているのか」
「これであなたの魔法は通用しないわ。私が切り刻んでやる!」
すると千宙は一瞬、身体が宙に浮く感覚を覚えた。そして次の瞬間ーー
「トゥルバーレ」
千宙の周りを一方向ではなく乱雑した烈風が吹き荒れる。それは確実に千宙の体に切り傷を与え続けた。
「その場に留まるだけでは防げんぞ?どうする」
切り刻まれ続ける千宙、雅博や未巴琉はとても手が出せない。
(痛い!なんとかしないと!......でもあれ、そもそもなんでこんな痛い思いしてるんだっけ?私、何も悪いことしてないのに......なんで逃げてるんだっけ......私......)
魔法が止むと千宙はその場に倒れて動かない。
「星導先輩!」
「殺してはいない、俺はお前達の命まで取るつもりはないからな。だが、世界がお前達を放っておくわけにはいかないと判断したのであれば、俺はお前達を捕らえる。さあ、お前達の覚悟はそんなものか?」
煽るアキラに痺れを切らしたのは成未だ。
「私たちのリーダーやられて黙ってるほど、私も落ちぶれちゃいないわ」
成未も走ってアキラに向かっていく。雅博と未巴琉も、こんなに怒気迫る成未は初めて見た。
しかし今度は魔法を発動しないで、接近した成未の首をただの一撃で鷲掴みにするアキラ。
「ぐっ......くっ......!」
そしてそのままガラ空きの胴体に拳をぶつける。成未は吹き飛んだ。
「さぁ、次は誰だ?」
冷や汗をかきながら、震える身体を叩き起こすのは雅博だ。




