第二十二話 「意味」
雅博に勝つ手立てはない。しかし、この中で今一番勝機があるのは雅博。
彼が諦めるということはこの先に進む事を諦めるということ。
雅博は震える自分の身体に、いつか成未と未巴琉をこの先の地底に進ませようと説得した時の言葉を浴びせながら立ち上がる。
「さぁ、来てみろ」
雅博はアキラに向かって走り出し、アキラの目の前で魔法を発動する。
「【岩砕き】!」
アキラに向かって正拳を突き出す。しかしアキラはそれを真正面から片手で受け止めた。
「なるほど」
アキラは雅博に魔法を使わず拳と蹴りで攻撃を仕掛けるが、意外にも雅博は攻撃を見切っている。完璧に避ける事はできていないがクリーンヒットを免れ上手く捌いていた。
土の魔法はその密度を高めることで、更に強度が増す。雅博はさらに魔力の密度を上げる。
雅博が右足を力強く地面に踏み込むと、大地が割れて空中に大きな大地の破片がいくつも浮かぶ。そしてそれは一つになって、大きな岩になった。
「【岩落とし】!」
その大岩はアキラに向かって飛んでいく。
雅博にとってはこれが大技、ありったけの魔力を使ったこれ以上ない破壊魔法。これほどの破壊力を持った魔法を雅博は他にまだ習得していない。これで倒れてくれないと、後がない。
しかし逆に言えば、当たりさえすれば無傷では済まない破壊力を雅博も自負している。
(当たれ!これで倒れろ!)
そしてアキラに魔法はぶつかり、大きな衝撃が辺りに広がる。千宙はその衝撃で目を覚ました。
土を固めた魔法なので魔法が弾けた場所には土煙が舞う。少しするとそれが晴れて、雅博は絶望する。
そこに立っているのは、まるでさっき攻撃を受けた身体とは思えない無傷のアキラだった。
「今のが切り札か?」
確かに岩落としは当たったように見えた、外してはいないはず。だとすると、防がれていた!?
「簡単な話だ。強力な風は、あらゆる物を寄せ付けない強力な防壁になる」
そう言ってアキラは自身の上を指差した。それに釣られて雅博も目線を上に向けると、そこにはさっき雅博が放った大岩の破片が大量に浮かび上がっていた。
「俺の周囲に、上に向かって吹き付ける暴風を展開したのだ。俺に向かってくる攻撃は全て上方向に流れ、俺に届く事はない」
防がれた。これによって雅博はもうアキラを倒す方法がなくなってしまった。自身最強の魔法が封じられ、おまけに魔力もない。
ここからは戦いを展開するどころか、もはや戦いにすらならないだろう。
「お前がこいつらの中で一番動ける魔導士のようだな。お前が倒れれば全員終わりだが、どうする?」
魔力も切れて絶体絶命。
同じような体験が、彼の身体に眠っていた記憶を呼び起こす。あれは確か、生徒会で強制させられていたボランティア活動だった。
中学時代、生徒会役員は週一回のボランティア活動が必須だった。
雅博達はよく生徒会役員全員で日にちを合わせて町内の掃除に出向いていた。
雅博にとっては正直、毎回面倒な時間だった。
生徒会の公務が残っていても、テスト期間でも、お構いなくボランティア活動のミッションは待ち構えている。
誰のためにこんなことを、学校の決まりで押し付けられているだけの善行。無駄なことこの上ない。
生徒会赴任当初はずっとそう思っていた。
しかし約束していたとあるボランティアの日、たまたま重大な校外活動が急遽入って二年生の千宙と、同じ学年の遥実や成未が校外活動に行き、雅博と未巴琉の二人だけでボランティア活動に行った日があった。
その日、千宙達はボランティア活動に参加できないことが分かるとそれはそれは悔しがっていた。そして雅博と未巴琉にいくつかの頼み事を託した。
野菜を買ってここに届けろ、ここの補修工事がどうなっているか確認して来い、ここにいる男の子にこれを渡してくれ。そう言って千宙達からキャットフードやら使い込まれたゲームカセットやらを渡された。
自分たちにとってはなんとも思っていない、面倒とすら思っていたボランティア活動。
しかし、そんな自分たちを待っている者達が大勢いる。そしてそれに価値を生み出しているのは、参加する自分たち自身なんだ。
なぜこんなことを?ではなく、自分たちがやらなければ。些細な事も大切な事も、意味があるかどうかではなく何事でも意味を見出せるんだ。
雅博はこんな窮地でなぜこんなことを思い出し、考えたのか分からない。雅博にとってまるで走馬灯のような感覚だった。
いや、同じだ。同じだったんだ。だから、それは力になって発露する。
「......立ち上がるか」
確かに魔力がなくなった雅博だが、彼は赤い魔力を立ち昇らせて再び立ち上がった。




