第十八話 「束の間」
ヴィオル地区に到着した千宙達は、一先ずの滞在先であるホテルを確保して各自別行動を取っていた。
第二層滞在初日にして別行動は危険だとも思ったが、やらなければ食べる物もないし、あんな戦いの後ではすぐに情報を集めに行こうという気も起きなかったので、アクティブに動くわけでもないならまあいいかと行動に至った。
別行動とは言っても二人一組での行動であり、片方はホテル滞在組だ。
ホテル滞在組も決して楽をしている訳ではなく、先程の戦闘で傷を負ってしまった雅博の治療を治癒魔法が使える成未が買って出たのだ。
「業羅先輩、ありがとうございます。」
「私は逆にこれしかできないからさ、こういう時くらい使ってよ」
魔法陣の下では、みるみるうちに雅博の傷口が塞がっていく。
傷口を仮塞ぎして包帯を巻き、一晩もすれば組織は完全に癒着して完治となる。
ちょうど包帯を巻き終わったところで食料調達組の千宙と未巴琉が戻ってきた。
二人の役目は食料の調達はもちろんだが、この第二層で安定した活動が出来るかどうかという環境調査の役割も担っていた。
気になる結果は「恐らく問題なし」。いつ顔が張り出されるかは分からないので顔は隠し気味の方が無難だが、今の時点では難なく外を歩けそうだった。
雅博の治癒も完了したし、とりあえず今日は食事を取って休むことにした。今晩の献立はハンバーグだ。
雅博の造血を目的として肉の量を増やし過ぎたハンバーグは、焼き上がりの完成時点で全員の顔よりも大きな肉塊が完成した。女子三人はこんなの食べれないとほとんど雅博に押し付けるので、ある意味では飯テロだ。
満腹になれば自然と睡魔も襲いかかってくる。
昨日いたインタリュードは早い時間からカーテンを締め切っていたのでよく分からなかったが、プレーリュドと違ってヴィオルには夜があるようだ。
真っ暗な空にまるで星のようなものが光り輝いているが、あれはなんだろうか。
星ではないと思うので、地底人は星を見ることができないんだなと千宙は少しだけ地底人を憐れみながら、地上の星空を思い出して眠りについた。
(次に星を見られるのはいつかな......)
翌日、一番遅く起きたのは昨日の大食いコンテストで大金星を挙げた雅博だった。
目を覚ます前にトントンという包丁をまな板に打ち付ける心地よい音が聞こえて目を覚ます。身体を起こして雅博はキッチンに向かった。すると藍色のエプロンをつけてメガネを曇らせている千宙と、黄色いエプロンをつけて長い髪をひとつ結びにしている成未がいた。
「あ、みどうくんおはよ。起きるの一番遅かったから、洗い物よろしくね」
雅博は寝ぼけた返事をして顔を洗いに行く。
「それにしても調理道具もホテルにあるなんてめちゃくちゃ便利だよねー、ちっち高校で料理とかやった?」
「私の学校は料理が選択授業だから選ばなかったよ。なるみんは選んだの?」
「私の学校はそもそも料理っていう授業がないのよね。でも家では結構自炊するかも」
この中で唯一高校生にして一人暮らしをしている成未は、この後も台所では無双して見事な一汁一菜を披露した。
そんな豪華な朝食を食べながら、本日の作戦会議は始まる。
「昨日私と未巴琉ちゃんで街を見に行ったんだけど、ここは治安がかなり悪くてスラム街みたいなところだったわ」
「なるほどです。でも逆にそれは好都合ですよね、僕達だって犯罪者なんだし」
雅博のその言葉に女子三人は「こいつ言ったな」といった目で見るが、事実なので誰も何も言うことは出来なかった。
「そもそも私たち何もしてないし!なんで勝手に関係者になってんのか全くわかんない。はるの自分勝手にも呆れたもんよ!」
「あのキリアとかいうやつ、記憶を見たって言ってたけど他にも何か知ってるのかな……」
しかしさすがにもう一度あの手練と話をしに行くほど千宙達も馬鹿ではなかった。
「とりあえず、ここは無法地帯とまでは言わないけど無法者が多そうだから、ロストラム絡みじゃなければ強気に出て良し!積極的にはるの居場所を聞き込みに行きましょう」
方針も決まったところで、当初の話通り雅博が洗い物を済ませて千宙達は早速街に出発した。




