第十七話 「降下」
千宙達は大穴から飛び降りた後、穴の壁に張り付いて隠れていた。
文字通り魔法で張り付いているわけではなく、雅博の魔法で壁を突起させて足場を作り、自分達を土のドームで覆うことで外から見えない状況を作った。
ここも半分は賭けだったが魔法の影響を受けないのは地上への大穴だけで、タイの通り道であるこの土壁は魔法の影響を受けるようだ。
覆わせた土のドームに小さな隙間を作って外の様子を見ると、そこから昇降するタイが見える。
タイの上が風船のようになっているのはさっき確認できたが、ここまで近づいてようやく下部に人が乗る部分もあることが確認でき、本当に気球の様だと千宙達は感心する。
下の乗降部に乗っている人は外の景色が良く見えるので、タイミング悪く覆わせている土を外せば見つかる可能性がある。
雅博も魔力をかなり消耗してしまった。加えてさっきキリアから受けた傷も浅くはないので、早めに下に降り切ってしまいたかった。
タイが通過する度に音が「サァー」と聞こえるので、次にタイの通過音がしたら魔法を解いてタイの風船上部に乗ることにする。
「それにしても千宙先輩、危機一髪でよくあんな作戦思い付きましたね!私もうダメかと思いましたよー」
生徒会長を務めていた頃から作戦の立案は得意だったが、実践するとここまで役に立つものだったとは。
千宙は自身の潜在能力に感心しながらタイの音を確認して、雅博に魔法の解除を指示した。
そこからは特に難しい事はなく、タイの上部に乗って第二層の乗り場に着くと、まず雅博が乗り場の高さよりも下の位置にさっきと同じように壁に突起を作って即席の足場を形成する。
全員がそこに降りたら、乗り場とは少し離れた位置まで壁伝いに足場を作って移動し、人通りの少ないタイミングで何事も無かったように地面へ上がり人混みに溶けた。
改めてタイが通ってきた穴を今いる第二層から見下ろしてみると、今度はすぐ下に地面がある。どうやらここはあくまで第一層と第二層を往復する場所で、第三層に行くには別の場所からタイに乗らなければならなそうだ。
タイに乗っていた時間も十五分程あったので雅博の応急処置を済ませ、未巴琉も意識的に魔力を回復させることで平時よりも早く魔力を回復させた。
次の地区に入る為の検問通過時、千宙達はキリアが根回しをしていたら通過できないのではと危惧したが、意外にも未巴琉の魔法で何事もなく無事に検問を通過できた。
そのまま四人は、次なる舞台である第二層の《ヴィオル地区》に足を踏み入れる。
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その頃、第二層ロストラム拠点内にある一室に一人の男が入室する。
既にその部屋には、ある男が不機嫌そうに自慢の剣を手入れしていた。
「随分不機嫌そうだな、剣王」
「口の利き方には気をつけた方が良い。直属でないとはいえ、お前は私よりも下の位置にいることを理解しているのか?」
キリアの前に立っている男は暫く無言でキリアを睨んだ後、こう続けた。
「俺が二層に用事があるのを良い事に、魔王は俺に遣いを頼んだ」
「審問書の件ならもう聞いて書面も受け取っている。二審までまだ2日もあるだろう」
「審問書の件ではない」
二人の間に暫く重たい空気が流れる。
「......ならなんだ?」
男は一枚の紙をキリアに見せた。それを見てキリアはため息をつく。
「まだ見つけられてなかったのか。もう三ヶ月も経つだろう?お前もまだまだーー」
そこまで話した次の瞬間、鈍く重い音と共に部屋の塵が舞い落ちる。
「お互い災難だな、今のはさっきのお返しだ。私は見ていないよ、他をあたるといい」
男は見せていた紙を懐にしまった。
「今のが俺の用事の一つ。魔王の遣いは明日にでも動こうかと思っている」
キリアは不可解な表現に疑問を覚える。
「用事の一つ?他にも用事が?」
「一層の通信を聞いて用事が増えた。入り込んだ地上人とやらに興味が湧いてな。そいつらを見に行くことにする」
男は部屋を出た。




