第十六話 「戦い」
キリアは剣を引き抜いて千宙達に向かって構える。それによって周囲の軍人も千宙達に注目する構図ができてしまった。
顔がバレているとは思っていなかったが、名前までバレているとはまさに青天の霹靂だ。
「私たちのこと、知っていたんですね」
「怪しまれないよう私に対しては隠れるような仕草を避けたのだろうが、罪人の記憶を読み取り顔と名前が知られているとは想像もできなかったか?」
なるほど。記憶魔法というものがこの世に存在することは知っていたが、まさかそんなこともできるとは。相変わらず魔法に対しては自分の考えが窮屈に感じると千宙は辟易した。
四人とも、自分以外の三人がどんな魔法を使えるかは分かっている。だからこそ、魔力がない未巴琉を除いてこの状況で戦いに役立つ魔法は雅博の魔法しかないことは全員が理解していた。
「下がってください!【土魔法・隆起土】!」
地面に手を当てがい魔法陣を開いて魔法を発動する。キリアに向かって地面が隆起していく魔法だが、キリアはそれを一閃で切り裂いた。
「【土弾丸】!」
手を手銃の形にして、指先の魔法陣から土の弾丸を放つ。しかしそれも全てキリアの剣によって斬り弾かれる。
どの攻撃も効かない。次第に雅博は敵わない敵だと思い始める。
しかし千宙は諦めていなかった。
意外にも追い詰められたこの瞬間ほど冷静で、この事態に直面するまでは戦闘になれば打開策はないと思っていたのだが、実際に今この状況を打開するための状況と条件が千宙の頭の中を駆け巡っていた。
自分たちの勝利はキリアを倒すことではなく、この戦闘を離脱すること。最高なのはタイに乗って脱出すること。しかしそれは難しい。
タイは上下運動をして第一層と第二層を往来している。つまり、タイの機体自体が上下している通り道まで行けば第二層に行くことができる。
タイの乗り場や機体の通り道がどうなっているのかは、最初に少しだけ見えたが位置が遠すぎて全容は全く確認できていない。ならば、飛び込んだ瞬間に環境を把握して瞬時に次の行動を判断するしかない。
その為にはーー
「みどうくん!剣を止めて!」
最も効率よく行う意思の疎通。敵に自分の目的が聞こえてしまうがそれよりも意思の伝達が最優先だと判断する。
さらに今自分が思い描いている方法でしか、自分達の持つ手札でキリアを止める方法がないと千宙は分かっていた。というより、別の方法を考える余裕は戦力的にも時間的にも無かった。
「【土魔剣】!」
掌に魔法陣が出たかと思うとそれが剣に変わった。
できる限り土の密度を高めて固くした剣に、雅博は全幅の信頼を寄せてキリアの剣と合わせる。これで自分の剣が耐えればほんの少しだが敵の剣が動きを止めると思っていた。
しかしキリアはさっきの千宙の言葉を耳にしている。
キリアが剣を振り下ろし、雅博が剣を振り上げるようにして斬り合うその瞬間、キリアの魔力が上がる。
「イトゥス」
雅博が土魔剣に賭けてキリアの剣の動きを止めようとしてくることは分かっていたので、キリアは魔力を込めて雅博の土魔剣を上から叩き斬った。
土魔剣を斬り折ったキリアの剣は、そのまま雅博の身体にも傷を入れる。上半身、右肩から左の腰までを一閃した。
千宙の指示を達成できなかった。しかし、その指示を達成することさえできれば必ず状況を打破してくれる。
そう確信していた雅博は、傷を負う痛みを無視してキリアが目の前で振り下ろした剣の峰に向かって斬り折られた土魔剣を叩きつける。
想定外の加速、キリアは剣を振り抜き切ってしまい地面に深く刺さった。瞬間、雅博は足元の土を魔法で操作してさらにキリアの剣を挟み込んで固定した。
「星導先輩っ!」
「ナイス!みんな走って!」
千宙は走りながら魔法陣を手元で展開し、キリアの横を駆け抜けながら彼の手と剣、最後に地面を順番に触った。そして四人はキリアから離れていく。
キリアはここで逃げられる予感がして追いかけようとするが、体がくんッと止められる。
手に強い力を感じ手元を確認すると、手と剣と地面が白い糸で繋がっていた。これは、接続魔法!
魔力を瞬時に込めて糸を引きちぎるが、四人は既にかなり離れてしまった。
「その者らを捕えろ!」
キリアは周りの兵士に声を掛けるが、兵士達は声を掛けられてから動き出すまで今一歩だけ次の千宙達の行動に追い付けなかった。
すかさず千宙は未巴琉に声をかける。
「みはるちゃん!」
「一瞬だけなら!【本魔法・走るへロス】!」
未巴琉は雅博が命懸けで生み出したキリアとの戦闘時間を使い、微弱に回復させた魔力を絞り出して走りながら魔法を発動する。
確かに魔法は発動して、四人の速力が爆発的に上がった。周りの兵隊も、千宙達が速すぎて動くことができない。
「このままどうするんですか!?」
「このまま行くのよ!」
「行くってどこに!?」
「まさかあああ!!!」
タイの乗り場に着くと、千宙は一瞬で周囲を見渡した。その間も決して止まることはできない。
乗り場のすぐ先は大きな穴。下の方は暗闇に包まれていて地面は見えないが、周囲に見えるだけで三機のタイが浮かんでいる。
恐らくこの大穴をタイはただ上下しているだけだ。
単純な構造に千宙も安堵し、四人はそのまま減速することなく大穴に飛び込む。
乗り場にいた兵士と少し遅れてキリアが乗り場に到着して揃って下を見下ろすが、既に彼らの姿は無かった。
キリアは千宙達を取り逃したのだ。
しかし意外にもキリアは冷静だった。
取り逃してしまったものは仕方がない。それにこの先の層に進んだとしても、待っているのは地獄だけ。
「必ず首輪を付けてやろう。待っていろ、地上人」




