第十五話 「会話」
この地区間トンネルの短さは、千宙達にとっては想定外過ぎた。せめて一人分は本魔法で変装できるくらいの魔力を回復させて欲しかったが、それすらもできなそうだ。
到着したカデンツァは、目の前に巨大な灰色レンガの塔が聳え立っている。これがロストラムの拠点だろう。
そして周囲には、小さな小屋が一軒立っているだけ。そこに軍人が多く並んでいる。
見たところその列は拠点への入り口ではなく、何か別のものを待っているように見えた。
もはや千宙達は隠れる遮蔽物がないので、怪しまれないよう周囲をうろうろしながら探りを入れるしかない。
どうすれば下に行ける?やはり拠点の中に侵入するしかないのか?
周囲の人間をよく見ると軍人の他にも観光に来ている地上人だろうか、キョロキョロしてまるで初めてこの地区に来たような者も見受けられた。
「政府関係者は、体のどこかにロストラムの紋章をつけているわね。隊服を着ている人や武装している人は分かり易いけど、戦いそうもない細身の人もスーツの胸の部分にバッジをつけているわ」
「ちっち、そっち兵隊たくさんいるよ」
互いにカバーしつつ、兵隊からは見えにくい位置を保つことができていた。
すると何か大きなものが動く気配がした。そちらに目を向けると、それはやはり気のせいではなかった。
さっき見かけた列の先に、歪な形をした人工物が見えたのだ。
よく観ていると、並んでいる兵士の頭よりも高い位置に大きな風船のような物体が少しずつ上昇してその姿を露わにしていく。
スタンガンの先端部分のように二本の角が生えているのは確認できるが、下の方は兵士が壁になってよく見えない。
さっきまでそこにはなかったはずだが、と千宙は眼鏡の奥の目を擦って二度見する。
「あれは『タイ』という乗り物だ」
声の主は四人の後ろ。四人は話しかけられたことに驚いて振り返る。
そこに立っていたのは青髪にウェーブをかけた長髪の男。身なりからして身分の高い剣士に見えるが、ロストラムの紋章を装束に掲げているのを見つけて穏やかな気持ちでいることはできなかった。
「失礼、私の名前はキリアだ。地底に住んでいる人間は、タイを知っているからな。物珍しく見ている君たちのことが気になったのだ」
運悪く話し掛けられたか。しかし千宙には、自分たちがお尋ね者だとまだバレていないという自信があった。
(大丈夫、私たちの素顔はまだ割れていないはず。それよりも、こそこそしている方が怪しまれるからここは逆に怪しませないようにしないと)
「私たちは地上から来たので、あれを見るのも初めてなんです。あれで下の層とかに行けるんですか?」
「いかにも。そうか地上の......今日は観光で?」
「えぇそうなんです!」
(落ち着け、話しているのはまだ私だけ。他の三人に話を振らずに私だけがこいつと話せば、不用意に情報を漏らさずできるだけの情報を収集できる。肝心のみはるちゃんの魔力は回復してない。私となるみんの魔法は戦闘向きじゃないから頼りにできないし、もしこいつと戦うことになったらみどうくんの魔法に頼るしかない。下の層に行く方法も見つかった。思った程ロストラム内部に入らなくても層の移動はできそうだ。多少戦闘になってでも飛び込みさえすればなんとかできる、それにはもっとあの乗り場に近づかないと!)
「教えてくれてありがとうございます!では私たちはこれで」
そう言い残して早々にその場を立ち去ろうとする四人。しかしキリアは逃がさない。
「今、ある地上人を探しているんだがーー」
(鬱陶しい!もう見逃してよ!)
「あぁ、そうなんですね!お勤めご苦労様です!」
「君たちは違うかな?」
(!?)
「……人違いでは」
「そうか。白砂山未巴琉、観堂岩雅博、業羅成未、そして星導千宙。君たちではなかったかな?」
「!?」
そしてキリアはゆっくりと鞘から剣を引き抜いた。
「もっと近くで、顔を見せてくれないか?」
間違いなく、バレている。




