第十四話 「カフェ」
千宙達は店主の家を走って出て、インタリュード内の建物が多い街に到着した。
ちょうど到着した瞬間に未巴琉の魔力が切れて魔法が解けたので事なきを得たが、未巴琉の魔法で透明化か変装をしなければ地区境の検問所を通過できないので、遮蔽物も多いこの街で一度休息を取ることにした。
店主の家に押し寄せた兵士たちの行方と、二人がどうなったのか気になるが、辺りの喧騒に耳を済ませても情報はまだ入っていなさそうだった。
逆に情報が共有される前に急いでインタリュードを離れた方が良いのではないかという考えもあり検問所の様子を確認しに行ったが、既にかなりの人数をかけた検問体制を敷いているのでやはり未巴琉の魔法に頼るしかなさそうだった。
街中にも兵士が巡回の警備にあたっているが、四人は一度近くのカフェに潜んで作戦を立てることにした。
空いていたのがテラス席だったので仕方なくそこに着席して、近くにいた店員にオーダーを伝える。未巴琉が紅茶、他の三人はコーヒーを注文した。
まず今後の地底世界での活動についてだが、兵隊との戦闘になれば今の状況では勝ち目はなく、強力な魔導士を仲間につけるか自分たちが強くならなければいけない。
そもそもインタリュードを出てどこを目指せば良いのかという指針も定まっていない。
順当に考えれば政府の施設に入り込んで情報を仕入れるしかないが、未巴琉の魔法も持続時間や精度を考慮するととても情報収集を目的とした潜入には使い物にならなそうだ。
すると千宙はこの袋小路の状況を解決するべく逆の発想を提案した。
「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』って言うでしょ?逆に下の層に進んで情報を得るっていう選択肢もないかな?協力者を探すにも今いるインタリュードの周りだと地上人が多そうだし、そうなると勝手の分からない人たちばかりで、地区を移動するのさえままならないこの状況で協力者を探すのは難しいでしょ」
危険な提案に三人とも即答で首を縦に振ることはできなかったが、しばらく考えてもそれ以外に次にできる行動がないのも事実。
三人はその方針を承諾し、次にどのような行動を起こすべきかを考え始める。
ここで飲み物が到着した。今度はさっきとは違う別の女性店員が運んでくる。
千宙はその女性店員に、中の座席が空いたので移動しても良いかと尋ねて承諾を得たので四人は移動した。
女性店員は飲み物の移動をしなければいけなかったので、近くにいた男性店員に声をかけてその男性店員が飲み物を中の座席に運んだ。
移動先の座席で話を再開する四人。
「そもそも下の層ってどうやって行けるんですかね?星導先輩、何か検討つきます?」
「んー、考えられるとすれば特定の地区が下の層に通じているか、まあ地底政府は全層を管理してそうだしその施設は全部の層に通じているかもね」
第一層には全部で17の地区がある。全地区を虱潰しに探すのは効率が悪いし、各地区の検問を通過する必要があるので探している途中で捕まってしまう可能性が地区間を移動する度に上がる。行動の足跡を掴まれるのも好ましくない。
以上の話から、次の目的地が決定した。
「目指すはカデンツァ地区、そこまで行って下の層に行く方法を探しましょう」
「ある程度、降りる方法に目安をつけなくても大丈夫ですか?」
「とは言ったものの今の時点で収集できる情報もないし、逆に下手に動き回って見つかっても困るから逆に早い段階で出た方が良いかもね。みはるちゃん、魔力の調子はどう?」
「六割近く回復しました。四人分の変装をかけるなら3分は持つので、検問の前後であれば魔法を維持できます」
少し不安だが仕方がないと判断して、三人は席を立とうとするが千宙はもう少し待つよう指示した。
特に異論はなかったので指示通り着席して千宙の許可を待つが、何もなく時間だけが経過し雅博達は何を待っているのか皆目見当がつかなかった。
少しして千宙が「行こう」と言って席を立った。許可を受けた今でも三人は何を待っていたのか全く分かっていない。
千宙はさっきまで一度も応対していない女性店員と会計を済ませカフェを退店した。
改めて店主の餞別も多くはないが、このようにUnderworldで活動をしていくにはありがたい。
インタリュードからカデンツァへ通じる検問所は街の縁にあり、この検問所を通過するとカデンツァ地区までのトンネルを進むことになる。トンネル内がどうなっているかは分からないが、未巴琉の魔力もトンネルを進む間に少しは回復できるだろう。
早速検問の列に四人は並ぶ。
昨日通過したプレーリュドとインタリュードの地区境より往来している人が少ない。この先には政府の施設しかないから、当然と言えば当然か。
ここで千宙は紙切れを四枚渡して未巴琉に魔法の指示をする。
「この四人で変装の魔法をかけて」
よく見るとその四人は、最後の会計での応対を含めて接触したカフェ店員の顔と名前が書かれていた。
飲み物が来てから席の移動を頼んだのも、これまで応対していない店員がレジに立つのを待っていたのも、全て変装のモデルを忠実に記録するためだった。
完璧な模写でなくても、ある程度の特徴を捉えておけば未巴琉も店員の顔を思い出すことができる。
千宙の機転で実在する地底人に化けて、検問を問題なく通過する。足早に進んでトンネル内に侵入した。
ここからは回復ゾーン。少しでも未巴琉の魔力を回復させて、次の使用時に備えなければいけない。
すると、二分も歩いていないうちにトンネルの向こう側に出てしまった。
地図で見た絵はもっと長いトンネルが描かれていて、更に侵入する前も向こう側の景色が見えなかったので暫くは回復の時間が作れると思っていたのだが、向こう側の景色が見えないのは単純にトンネルが曲がっているだけだった。想定よりもトンネルの距離が短く、未巴琉の魔力は全く回復していない。
そしてカデンツァに到着する四人。
聳え立つロストラムの拠点を見上げ、さらに周囲には軍人がそこら中に溢れていた。




